死神は焼き立てパンには敵わない
「誰だ!?」
スーパーキッズの右ストレートでぶっ飛ばされ、回し蹴りでぶっ飛ばされた死神タナトスは、ルルドナに叫ぶように尋ねる。
「ただの雑貨屋の夜勤担当よ」
圧倒的オーラを漂わせ、ルルドナが答える。
「その程度の存在が、蹴りだけで……!?」
「……言っとくけどあなたの力、ほとんど無力化させられてるわよ」
タナトスの体にはいつの間にかハニワがとりついている。
「な、なん……だと……?」
小型ハニワたちは、セミのようにとりついて、動かない。俺が胸を張って進み出る。
「お前がカッコつけている間にこっそり投げつけてたんだよ!」
「てんちょー! そういうときは待つものっす!」
スコリィのツッコミ。
「うっせー! 勝てばいいんだよ!」
腕を振り上げてやけ気味に言い返す。
「こういうときに機転が利くのある意味才能だな……」
ペッカがあきれたように言う。
「勝つ……? お前らのような下等な存在が、神のこの私に……!」
「ごちゃごちゃうるさいわよ!」
ルルドナの声と共に、その周囲に魔法陣が展開され、重力が重ねられる。
重圧を受けたタナトスの膝が沈む。
「この力、重力魔法だと……!?」
「あんたはここでくたばりなさい!」
蹴り。しかし相手の鎌に防がれる。
「神に何度も蹴りを入れられると思うなよ!」
「こっちは売上かかかってるのよ!!」
ルルドナは蹴り上げていた右足を引き、素早く回転。
逆方向から中段へ蹴り。
――これも防がれる。
さらに足払い。
――スッとよけられる。
まるで踊っているような華麗な動き。……だが攻撃は届かない。
「はっはっは! 口の割には動きが単調すぎるぞ!」
と、タナトスが余裕を見せたとき。
「おじさん、油断する癖、直したほうがいいよ」
ペルセポネーちゃんが参戦する。その手からは光が失われていたけど、動きは健在だ。
「助太刀します!」
「あら、ありがと! 寝起きでうまく動けなかったのよ!」
ルルドナがお礼を言って、共に死神を攻める。
蹴りとパンチ、リズムよく、攻撃が繰り出される。
「くっ……!」
タナトスが攻撃を受け止めつつ、下がり続ける。
(まさか死神が、物理攻撃で追い込まれていくなんて)
「調子に乗るな!」
死神が二人の攻撃を同時にはじき飛ばし、大きな鎌を振り上げる。
――そのとき。
「大地還元!」
タナトスの足元が、ぐにゃりと泥に変わる。足を取られ、動きが鈍る。
(ライムチャートちゃんの魔法だ!)
地面についた彼女の両手から、魔法の光がほとしばっている。
足場が悪くなってもルルドナは迷わなかった。
力強く地面を踏みしめ、タナトスの方へ詰め寄る。
その顔面めがけて――。
頭突き!
瞬間、ルルドナが頭に被っていたハニワの兜が光を放つ。
「こ、この光……! 力が、消えていく……!」
「終わりね」
ルルドナの声は、鋭く冷たい。追撃の蹴りを放とうとした瞬間、何かに気がついて、大きく飛び退く。
「こ、こんなことが……!」
タナトスは顔をゆがめたまま。
「……いや、認めん! もうこうなれば――全員、道連れだ!」
不自然なほどの巨大な魔力が集中する。
(これは、古代樹の魔力……!)
足下からも、幹から、枝からも、力が集まっていく。
「闇自爆!」
赤黒い不気味な光となった古代樹の力が、風船のようにふくれあがっていく。
静観していたデメテル様が、叫ぶ。
「あれは、自爆魔法! 皆さん、下がって!」
タナトスの狂ったような叫びが響き渡る。
「むだだ! この森全てを木っ端みじんにしてくれる!」
慌てふためく俺たち。
だが、そのとき――。
冷静な声が妙にはっきりと響きわたった。
「麺麭贖罪」
ライムチャートちゃんの、静かだが、力のこもった声。
直後。
地面が、ふっくらと盛り上がり始める。さきほど魔法で泥にした地面が、パンのように膨らみ――タナトスの体を包み込む!
「こ、こんなもの……!」
ほとんどあがくこともなく、赤黒い光ごと、タナトスはパンに飲み込まれ――やがて、動かなくなった。
激戦の跡地に、タナトスの形をした不気味なパンができあがる。
動かなくなった「それ」にそっと近づく。
(これ、いったい誰が食うんだよ。安売りしても絶対に売れないぞ)
こうして、俺たちと死神の戦いは――あまりに意外な形で、幕を閉じたのだった。焼きたてパンのにおいを漂わせながら。




