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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第15章 ギリシャ神と古代樹とゴーレム兄妹編
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「営業妨害よ」――スーパーキッズ少女の猛攻と、割引シールを貼る守護神

 光る煙があたりを覆う。

 デメテル様の透き通った声が響く。

「はい、私は一人では何もできません。……だから助っ人を呼びました」


 闇を払い、光を放った人物が前に進み出て、タナトスの前でファイティングポーズをとる。

 

(……あれは、ボクシングのピーカブースタイル!)


「ママ、お手伝いしたらお小遣いアップって本当だよね?」


(ママ……? お手伝い……?)

 頭がついていかず、ただ呆然とその存在を見つめる。


「ええ。私の力をお貸しします。やっちゃってください。ペルセポネー!」


 ……ギリシャ神話の神、ペルセポネー!

  ギリシャ神話では、デメテルの娘。

  あまりに美しかったため、冥府の王ハーデスに誘拐された――そんな伝承がある。


 だけどその姿は……なんか、想像してたのと違う。

 小さな体に、大きな赤いグローブ。腹筋バキバキのへそ出し短パン姿。

 

(スーパーキッズってやつか、これ!?)


「あんなトロそうなおじさん、すぐKO勝ちだよ」

「ほざけ!」


〈ドドドドドッ!〉

 タナトスが闇の球をいくつも放つ。


 だが、ペルセポネーは笑みを崩さないまま――光をまとった小さな拳で、すべて殴り飛ばす!

 ラッシュ! ラッシュ! ラッシュ!


「単調すぎー!」

 闇の力なんてなかったかのようにタナトスの放った球体は破壊されていく。


 まるで歴戦のボクサーのような動き。全てを殴った瞬間、彼女は攻撃に転じる。

「じゃあ、こっちからいくよ!」

〈シュン!〉

 光速のステップで間合いを詰め、拳が火を吹く。


〈ドドドドドドドッ〉


 かろうじてその鎌の持ち手でしのぎ切る死神。

「お、やるね、おじさん」

 少し間を置くペルセポネー。


「小娘が! この鎌で切り刻んでくれるわ!」

 怒りにまかせ、タナトスが死神の鎌をくるくると回し始める。


 鎌が渦を巻き、空中にいくつもの禍々しい刃が出現し、目の前の相手を取り囲む。


 だが――ペルセポネーの姿は、忽然と消えた。


「おっそーい!」


 死神の背後から、声。振り向いたタナトスの顔に、超高速の右ストレート!

 〈ズガァッ!!〉

 死神タナトスが、派手に吹き飛ばされる。


 地面に転がった死神に、ペルセポネーは声の調子を落として言う。

「わたしね、あなたたちに誘拐されてから、ずっと思ってたんだ」

 

 一瞬、その美しい髪が風に揺れる。悲しみに満ちた声が続ける。

 

「……強くなろうって。それで、あのときからずっと、ヘラクレスおじさまに鍛えてもらってたの!」

(って、そっちの方向かよ! いや、ちょっと待て。ヘラクレスってあのヘラクレスだよな)


 英雄ヘラクレス直伝の英才教育とか、そりゃ強いわけだ。


 ちびっこペルセポネー。


 かつて冥府に連れ去られた少女は、……今や、少女ボクサーとなって元誘拐犯の死神を圧倒していた。


***

「ごっ、がはっ」

 口から大量の黒い血を吐くタナトス。単純に右ストレートでぶっ飛ばされるなんて思ってなかったんだろう。現状をまったく理解できないという表情だ。


「な、何が起こった……?」

「単純に、殴ってぶっ飛ばしただけよ~」


「そんなに速く動けるわけが……!」

「残念だったね~。この靴、ヘルメス様から借りたの~」

 ペルセポネーが、両足の水色のシューズ――両側に羽のついた神靴を、ぴょんっと跳ねて見せびらかす。


「……くそ!」

 ふらつきながら悪態をつくタナトス。

 ライムチャートちゃんの治療を終えたデメテル様が、静かに進み出る。

「それで、降参しますか?」


 だが、タナトスは大きく後ろに跳ね飛び、狂ったように叫んだ。


「残念だったな、私には! わが魂よ、集え! 魂増幅ブースト・ライフ!!」


 青年の顔が、みるみる老人へと変わる。

 同時に、あたりには強烈な腐臭が広がった。


「自分自身の魂を、……食らっている!?」ペッカの声。


「う……っ」あまりの腐臭に俺は思わず口を押える。


「自らの魂を食らうとは……。でもそれじゃ、あなた、二度と復活できませんよ?」

 デメテル様が、冷ややかに告げる。


「かまうものか! 闇夜呼ダーク・ターン!」


 世界が、瞬きするように点滅した。

  一瞬で、あたりは夜へと沈む。


「な、なんすか!?」スコリィが声を上げる。

「……ま、まさか!?」ペッカはひときわ驚きの声を出す。


「光の力など、夜の世界では弱弱しい! はっはっは!」


 タナトスの姿はほとんど骸骨と化し、まさに――死神そのものになっていた。


「マ、ママー……わたし、アレにさわりたくないよ~」


 余裕を見せつつも、拳から光の消えたペルセポネーは不安そうに母親の顔と死神を見比べていた。


 (おい頼むぞ、スーパーキッズ……)

 

 視界が一気に暗くなるが、……それも一瞬だった。


「うおおおおーー!」

 ペッカが魔法灯を大量にばらまき、あたりを明るくしたのだ。(※暗いのが怖い)

 

(ペッカお前、一体いくつ持ってきてるんだよ……!)

 そのツッコミを飲み込んでペッカを見た瞬間、彼は目をつむってスコリィに抱きつく。


(クソ、そのポジション狙ってるだろ……!)

 こっちのツッコミは今後の関係のために口に出せなかった。


 ただ、その魔法灯のおかげで幻想的な光景が広がった。照らし出された古代樹はライトアップされ、枯れてはいるものの神々しくその姿を見せつける。


「魔法灯か……。用意がいいが、そんなことをしても無駄だ!」


(……いや、あいつ、単に暗いのが怖いだけなんで)


 でもまあ、タナトスの姿が見えるのは助かる。


 冷たい表情のデメテル様が、じっとタナトスを見すえて告げた。 

「神といえども、世界の理を強制的にねじ曲げるのは、大罪ですよ」


「そんなもの知るかッ!」タナトスは鎌を振りかぶり、デメテル様をにらみつける。


 ちびっこペルセポネーが、すかさず挑発する。

「おじさ~ん、そこまでして勝ちにこだわるなんて、神の名が泣いちゃうよ~?」


 おいちびっこ、あんまり煽るなって……!


「神の力を行使して、何が悪い!!」

 タナトスが声を張り上げた――その瞬間。


 〈ズガァッ!〉

 死神が、吹き飛ばされる。


 その蹴りを放った影が聞き覚えのある声を発する。

「悪いわ、営業妨害よ」


 それは――昼間は強制的に寝てしまう、ハニワから生まれた少女、雑貨屋の赤い守護神、ルルドナだった。


「あんたのせいで昼に売るはずの総菜に、大量の割引シール、貼ることになったじゃないの」

 

 妙に所帯じみた守護神だが。


(……そうか!)

 夜になったおかげで、本来ならまだ寝ているはずの彼女が――目覚め、俺たちのもとに駆けつけてくれたんだ。


 ……律儀に一枚一枚、割引シールを手で貼ってから。


 いや本当に、うちの従業員(守護神)はしっかり者すぎて泣けてくる。

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