神様だってへそを曲げて帰ってしまうこともある
店を襲ってきたストリーム・唐津。彼の持っていた茶碗に封じ込められていた闇の力。闇の靄の塊は気を失った唐津を連れたまま西の森へ消えていきましたが。
※ルルドナはまだ寝ています。
店に戻った俺らに、偉大な存在が声をかけてきた。
「あなたたちの力では、やや手に余るかもしれませんね」
「え?」俺はとっさに反応できずに目を丸くする。
「デメテル様、どうしてここに?」ガディが尋ねる。
ニコニコしながらデメテル様が軽く言う。
「いやあ、盆栽鉢が待ちきれなくて」
「……まだです。ていうか盗まれました」俺は職人らしく正直に謝る。
「あらら、それは不憫な。まあ、明日までは確実にこちらにいるので、そのときまででいいですよ」
「注文されていたのに申し訳ないです」
ていうか、いたんなら助けてくれよ。
「ふふふっ。まあ知ってましたけど。にしても、クタニさん、あなたは不思議な力のアーティファクトを持っていますね」
「このハニワのことですか?」
「え、……ええ、それです。それは、どうも魔力そのものをどうにかする力があるみたいですね」
「見てたんなら助けてくださいよ」
「もう少しピンチになったら助けようと思っていたのですが」
「魔王の結界も破ったんですよ。……もっとも、俺にも発動条件がわからないんです」
「それは使いどころが難しいですね。しかしもはやそれは神話レベルのアーティファクトですよ」
デメテル様の言葉に反応してスコリィが割り込んでくる。
「え、そんなすごいものだったんすか!? アタシ、昨日それをイス代わりにしてたっすよ!?」
「やめて! たのむから! 俺の芸術品だから! アーティファクトだから!」
その会話を聞いて、デメテル様がふふふと笑った。
「面白い店ですね。盆栽とパンと、魂を削るハニワまで売ってるなんて」
「何かわかりません?」
俺がハニワをデメテル様の目の前に出すと、すっと身を引かれた。そのぶん、ずいっと近づく。
「ちょ、ちょっと近づけないでください。私にも悪影響がありそうです……。ともかく私にはそういう鑑定能力はありませんので他をあたってください」
俺は顔を赤らめて身を引く神様が面白くなってずんずんと近寄る。
「あれぇ。神様に苦手なものなんてあるんですかぁ?」
俺はつい意地悪な気持ちになって、ハニワを近づける。クラスの女子にいたずらする小学生みたいに。
「ちょ、ほんとにそれなんなんです?」
少女のように嫌がる神様。か、かわいい……。
「ほれほれ~」
ドスン!
「ぐえぇぇっ!?」背中に衝撃が走った。
調子に乗っている俺の背中にスコリィが蹴りを入れたのだ。
ツッコミの効果音じゃないような……。
「いやてんちょー、さすがにデメテル様に近づけすぎっす。アタシでも空気読めるっすよ?」
ペッカは腕を組んで肩をすくめた。
「神にすらそんなことをするとは、お前、逆にすごいな」
背中を押さえながら俺は素直に謝る。
「すみません、やりすぎました」
ガディが一歩後ろに下がりながら、冷たい目で俺を睨む。
「……不潔です」
マジ声で俺のことを非難していた。
デメテルは一歩後ろに下がって大きくため息をつく。
「ふう……。とにかく私は、あの闇の気配がまだ西に残っているのが気がかりです」
口を閉ざしていたイゴラくんが反応する。
「ボクも、気になります。だってあそこは……」
表情から冗談が消える。
「イゴラくん、あなたは……。そうですね。そうでした。ともかく皆さん、どうか……気をつけてください」
彼女はそっと袋を取り出して、カウンターの上に置く。
「この種を。あなたたちなら、必要なときに使い方がわかるはずです」
そう言うと、デメテル様はパンと惣菜を購入し、手早く紙袋に入れ、帰っていった。
スコリィが顎に手を当てて分析家のように言う。
「あれは昼間から一杯やる流れっすよ……。さすがっす……!」
見りゃわかるよ。
「でも、デメテル様が言ってた“気をつけて”って……」
両手にハニワを持ったまま俺は空を仰いだ。西の森は闇のオーラを飲み込んだことなどなかったかのように、いつも通りの姿を俺たちに見せていた。
**
デメテル様はパンと惣菜を買って店を出て行ってしまった。
……あれ? これからデメテル様があの闇塊、タナトスと決戦する流れでは。
イゴラくんが後ろ姿を見送りながらつぶやく。
「……クタニさん、そのうち天罰が下りますよ……」
「いや、つい」
俺はもしかしてとんでもないことをしてしまったのかもしれない。
「それで、あの闇の塊、力が足りないって言って西の森へ消えていきましたけど、追わなくていいんですか?」
「もしかして、古代樹の力が目的じゃないっすか……?」
考え込んでいたスコリィが気が付いたように言う。これもきっとピクシーとしての特性だろう。
「そうだ、あの森には古代樹があるんだ……!」
あれだけ長生きした異世界の大きな大木だ。魔力も絶大なはずだ。その力を求めて、西の森へ行ったとしたら……。
「でも、古代樹って神聖な存在……だよね? 闇の力になるの?」
「森というのは、中立の存在だ。その力は、闇にも光にもなりえる」
俺の質問に、ペッカが答える。
「じゃあ、あの闇の塊が古代樹の力を取り込んだら……」
「強大な力を得るだろうな」
思わずハニワを手にして天井を見上げる
そもそも、俺たちはまぐれ勝ちをさせてもらったようなものだ。
「あの古代樹は……?」
イゴラ君がいつになく真剣な声で尋ねてくる。
「枯れる、でしょうね。というか、その周囲もすべて枯れてしまうんじゃないでしょうか」
「それはまずい……街の人たちにとって、あそこは大切な場所なんだろ ……って、いや、何より一儲けできなくなる!」
俺の冗談交じりのセリフにイゴラくんが進み出る。
「いきましょう! 古代樹は枯らしてはいけない!」
――このあと、俺たちはイゴラくんの壮絶な過去を知ることになる。
いつになくやる気のイゴラ君ですが……。過去に何があったのでしょう?
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2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!




