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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第15章 ギリシャ神と古代樹とゴーレム兄妹編
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焼き物チートスキルの転生者はキャラ作りに苦労する

「ここですかぁ!? 転生者のやっている雑貨屋ってのは、ここですかぁ? イエーイ!」

 野球帽にぶかぶかのロングシャツとだぶだぶのズボンをはいた男がやってきた。

 ……こいつ、明らかに転生者だ。しかも一世代前の……。ラッパーキャラか?


 手には、焼き物を握っている。どんぶり茶碗だ。

「その焼き物、まさか六古窯……?」


「ちがいマース! おれはそれを超える存在! これは唐津焼。おれはストリーム・唐津。イエーイ!」

 なんか売れない芸人みたいだな。韻も踏めているようで踏めていない。


「あの、ここ、そんなに大した雑貨はありませんよ」

「はっははー! ここに来たのはぁ、買い物のためじゃ、ありまセーン!」


「では、なんの用です?」

「ここに来たのは、あなたたちの看板を、いただくためデース!」

「ということは……! 道場破り!」


「イエーイ! そうでーす!」


 俺たちのやり取りにペッカはあきれていう。

「いやここ道場じゃないだろ」


***

 派手になってしまった看板を見上げる。魔法灯で装飾され、色も派手すぎる。

『雑貨屋 ルナクラフィ』

 特に雑貨屋のところ、派手過ぎて見たくもない。だけど看板を交換するほど資金に余裕はない。


「この看板があればぁ、おれの配信は伸びる!」

 ストリームってお前、ストリーミング配信のほうだったのか! 


 この派手な看板はもらっていってほしいくらいだが、俺はノリで返事をする。

「ふっ、そう簡単にここの看板は譲れないぁ!」

 本当はこの悪趣味な看板は持ち去って貰いたいくらいだけど。


「イエーイ! ならば! 力づくで!」


 相手がリズムよく言い返すので、俺も好戦的に言い返す。

「そこなくっちゃなあ! いけ、ガディ! 10万リットルだ!」

 相手を指さしながら、水の精霊ガディに言ってみる。

「そんな技ありませんっ!」

 ガディのツッコミ。

 ポケットに入るモンスターに命令するようにやってみたが不発だった。


 間抜けなやりとりをしていると、相手がその隙を突いて攻撃してきた。

「隙ありぃ! 風よ、奴らを縛れ! 絡めとる風(カラマツ・ストリーム)!」

 〈ビュオオォォ……!〉

 茶碗から渦巻き状の風が発生し、俺たちの体を縛ってくる。

 

(風に、縛られている……!?)


 強風の中、ペッカとガディが体を固く縛られたように硬直させ、声を上げる。

「こいつ、風で束縛スキルを!」

「う、うごけない……!」

 ドラゴンのペッカや精霊のガディまでが、まるで見えない縄に縛られたように身動きが取れないでいる。

 ペッカが相手を睨みつつ苦しそうに言う。

「転生者のチートスキルか!」


「ペッカ! 召喚を!」

「もうやっている! だが……、うまくいかん!」

 ペッカの目の前では、魔法陣が出ては風に消され、出ては風に消され……、を繰り返している。


「ワタクシも、魔法陣が発動しません……!」

 ガディも同じようだ。

 二人の前に出現しようとした魔法陣が風に巻き取られて円を描けていない。


「はっはっは! この風魔法、対象者の“視線”と“意識”を縛る力がありマース! だから茶碗から目が離せなくなるのデース! さらに、意識を奪われた者の魔法陣は吹き飛ばされるのです! イエーイ!」

 手に持った茶碗を高らかに掲げるストリーム・唐津。

 俺たちの視線は、その茶碗に集まる。渦巻きの紋様が入った、不気味な茶碗。


「め、目が離せない……!」


 ……この魔法、最強レベルの妨害魔法では。

「ただし! 魔法が発動している間はおれもこのポーズのまま動けまセーン! イエーイ!」

 やりきった笑顔で言うストリーム唐津。

 

 ……だめじゃん。


***

「てんちょー、何遊んでるっすか。あ、イゴラくんは裏口から台所にパン作りにいったっす」

 森の中での朝練が終わったスコリィが戻ってくる。俺らのそばにスタスタと歩いて近づいて、あきれ顔になる。

 はたから見たら俺たちがただ茶碗に注目しているだけに見えるのかもしれない。


「ちょどよかった! あいつに攻撃してくれ! 特にあの茶碗!」

「え、焼き物友達じゃないんすか?」


「違うよ! 見たらわかるだろ! あんな派手な友達がいるわけないだろ!」

「そもそも友達いなさそうっす!」

 悪気ゼロの笑顔で答えるスコリィ。

 

 よし、お前もやられろ。


「仲間ですかぁ! だが無駄デース! 松風に縛られろ! 絡唐松の風(カカラマツストリーム)!」

〈ビュオォォォーーン!〉


「うお、なんスカ!? う、動けないっす! てんちょー! あいつ敵なんすか!?」

 ……よし!


 結果、俺たち4人は全員、見えない風に縛られ動けなくなる。


 相手もあのポーズのまま動けないようだが、魔法は使えるらしい。

「イエーイ! この風に、割れてとがった陶器を流すとどうなるかな?」


 ……そんなことしたら、俺たちはずたずたに切り裂かれるだろう。

「お前、仮にも焼き物に通じている身で、そんな魔法を……!」


「HAHA! 唐津焼はぁ! 時代とともに変化し続けた焼き物! 何でも取り入れまーす! HAHAHA !!」

 言ってることは感心だけど、しゃべり方がいらつくな。


***

「あのぉ、みなさん、何してるんですか?」

 騒ぎを聞きつけたイゴラくんがやってくる。


「また仲間ですか! でも無駄です!」


〈ビュオォォ--!〉

 イゴラ君にも、魔法の風が襲う。だが――。


「?」


「無駄っす! ゴーレムに風魔法はきかないっす!」

 スコリィが自慢げに言う。縛られている身で。


「そんなばかなことがあるわけないでーす! 転生者のチートスキルが!」

 ストリーム・唐津は慌てた様子でさらに風を強める。


「?」


 首をかしげる小さなゴーレム。イゴラくんにはまったく効果がないようだ。


「イゴラくん! あいつは敵だ! 魔法の発生源は茶碗だ! あの茶碗を壊してくれ!」

「……! わかりました……!」


 ようやく状況を理解したイゴラくんは手元の小石を拾い、目を閉じて呼吸を整える。

 ……シュッ。

「……っ!」

 ピキッ! 小石は見事に相手の茶碗に命中し、大きなヒビが入る。


 ……いやこれすごくない? 相手まで10メートルくらい間があるのに。


「ま、まさかその距離から……!」

 その瞬間、魔法は解かれ、俺たちは束縛から解放される。


「闇の唐津焼にヒビが! ぐ……! 暗黒の力が……解放される……!」


 大げさに苦しみだすストリーム・唐津。


(こいつ……! ラッパーに飽き足らず中二病キャラまで取り入れようというのか……!)

 ――さすがに欲張りすぎてキャラ崩壊するぞ……!


 別の心配をしてしまうが、相手の行動は続く。

「力が、闇の封印が……!」


(……キャラ、すでに崩壊してるな)

 そう思った、次の瞬間。


〈ボオォォーーーン。ギィィィイー!〉

 彼の周囲が揺らぐ。何かが蠢いたような。

 黒いモヤ。空気がひび割れ、世界が軋むような音がした。

 どんどんモヤが広がっていく。


(あれ? 冗談じゃ……ない?)


 あきれ顔で見ていた俺の顔から、余裕が消える。

 ――そう、“闇の力”はホンモノだったのだ。

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