作品が盗まれても店は開けておけ
古代樹の盆栽を作っていましたが、何か不穏な朝です。
次の日の朝。
「植木鉢がない!」
俺は自分の作品がなくなっていることに気が付いた。
「え? どこかに移動したんじゃない?」
「いや、あんなに大きいのを、しかもいくつも移動なんて、ありえないでしょ」
「ペッカが移動させちゃったんじゃないの?」
ペッカはまだ寝ている。配達は10時スタートが基本だから、今はまだ夢の中だろう。
というか、今日のルルドナはなんだか様子がおかしい。話もどこか的を得ないし、眠そうだ。
「ルルドナ、ちょっと疲れてる……?」
「疲れてなんかいないわ。ただちょっと眠いだけ」
なんだろう。とにかく早く休ませたほうがいい気がする。
「きっと結界に閉じ込められて出てきた直後に大技使ったから疲れてるんだよ」
「そう、かもね。じゃあお言葉に甘えて休ませてもらうわ」
珍しくしおらしいルルドナ。何かお見舞いの品を買っておこう。
**
「にしても、植木鉢はどこに」
店のほうに誰か並べたのかな?
「あ、てんちょー。おはよーっす!」
「うーっす。って、やたら元気だね、スコリィ」
この世界に転生してから随分と朝に強くなったが、スコリィほどではない。低血圧って治らないのかな。
「そりゃあ、あの女神デメテルさまに祝福されたら、テンション爆上がりっすよ!」
「……若いってのはいいよね。俺は草葉の陰から応援しておくよ」
まてよ、草葉の陰って死んだ後のことだから……ここじゃん!
「くそ、朝から調子が悪い……! それもこれもせっかく作った植木鉢がなくなったのが悪い!」
「え、なくしたんすか? 作ったものを?」
「うん、なくなっていたんだよ。そういえば昨日の夜、窓の外から視線を感じたんだよね」
「もしかして、泥棒じゃないっすか……?」
「え? 泥棒? ついにこの店にも泥棒が……!?」
「なんか反応変っす!」
「ふふふ、つまりこの店の素晴らしい焼き物には盗む価値があるって世間に知れ渡ったってことさっ!」
「なんでちょっとうれしそうなんすか……? やっぱりヘンタイっす!」
身をのけぞらせて俺から距離をとるスコリィ。
そこにイゴラくんがやってきた。こちらもちょっと元気がない。
「え、作った植木鉢……盗まれたんですか?」
「うん、昨日の枝も全部盗まれたみたい」
「それじゃあ、また枝を取りに……?」
「そうなるかも。詳しく探したいところだけど……もう時間がない。朝のラッシュのパンと惣菜つくりだ!」
そう、気づけば、うちの雑貨屋はすっかり“お年寄り向けの惣菜屋”と化していた。
ペッカのジャムとか人気あるし。
「おはようございまーす。今日も外回りピカピカにしておきますね!」
ガディが山のほうからやってくる。彼女は森の奥の泉で寝泊まりしているらしい。そして自ら出てきた後はやたらと元気である。
俺らが惣菜を作っている間、ガディが掃除をする。これが俺たちのいつもの朝だ。
***
「ふう。何とか間に合ったな」
朝のラッシュをなんとか乗り切り、一息つく。
のは俺だけで、イゴラくんとスコリィは朝練を始めた。……本当に若さってすごいな。
カウンターから感心してみていると、ペッカがやってきた。
「おい、俺様が昨日作った木彫り細工知らないか? 昨日はブローチをたくさん作ったのだが」
「え、わからないけど……って、ペッカも? 俺の植木鉢もなくなってたんだよね」
「もしかして、泥棒か……?」
「うん、……そうかも」
「店の商品は大丈夫だったのか?」
「どうやら、そうみたいなんだよね」
ーーそう、盗まれたのは、店の商品棚に並んでいない作ったばかりの。
……もっとも、この屋敷にあるガラクタがどれだけ盗まれたかわからないが。
「え!? 泥棒!? 店長さん、もしかして破産ですか……?」
ガディが大げさに心配してくる。さすがお嬢様は世間を知らない。
……10億の借金をするという世間の常識から外れたことをしでかした俺が言うのもなんだけど。
「いや、このくらいで破産はしないよ。でも、また枝は取りにいかないとね。はぁ……、面倒だなぁ」
「というか、これから定期的に行くと思っていたぞ。あれで大儲けするんだろ?」
ペッカがあきれたように言う。
「確かに……!」
俺が手をポンとたたいた、その瞬間だった。
――それは、まるでタイミングを見計らっていたかのように、やってきた。
……ある意味、俺たち雑貨屋にとって最悪な存在が。
さあ、何がやってきたのでしょうか? 次回、ようやくバトルです。
感想・コメントお待ちしています!
2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!




