「盗まれるのは人気がある証拠だ!」と強弁する店長
――次の日の朝。さわやかな晴天。
だが。
「植木鉢がない!」
俺は昨夜作った自分の作品がなくなっていることに気が付いた。
「え? 自分でどこかに移動したんじゃない?」
ルルドナが店のほうから覗いてきょとんした顔をする。
「いや、あんなに大きいのを、しかもいくつも移動して覚えてないなんて、さすがにない」
物忘れが激しいとはいえ、それはないだろう。
「ペッカが移動させちゃったんじゃないの?」
「それもないだろ。作品に対する敬意は高いから、断りもなくそんなことしないはず……」
ペッカはまだ寝ている。配達はまだまだあとのスタートが基本だから、今はまだ夢の中だろう。
……というか、今日のルルドナはなんだか様子がおかしい。話もどこか的を得ないし、眠そうだ。
「ルルドナ、ちょっと疲れてる……?」
「疲れてなんかいないわ。ただちょっと、……眠いだけ」
なんだろう。とにかく早く休ませたほうがいい気がする。
「きっと結界に閉じ込められて出てきた直後に大技使ったから疲れてるんだ。早めに休んでくれ。俺が店に出るよ」
「そう……かもしれないわね。じゃあ、お言葉に甘えて休ませてもらうわ」
珍しくしおらしいルルドナ。奥のソファへ歩いて行った。
(やっぱり、本調子じゃないのは確かなようだな)
何かお見舞いの品を買っておこう。
***
「にしても、植木鉢はどこに……」
屋敷の周りを待て回るが、何もない。
すると、スコリィがでかい声であいさつしてきた。
「あ、てんちょー。おはよーっす!」
「うーっす。……って、今日はやたら元気だな、スコリィ」
この世界に転生してから随分と朝に強くなったが、スコリィほどではない。若返り転生しても朝に弱いのは治らないのか。
「そりゃあ、あの女神デメテルさまに祝福されたら、テンション爆上がりっすよ!」
「……若いってのはいいよな。俺は草葉の陰から応援しておくよ」
いや、待てよ、草葉の陰って死んだ後のことだから……ここじゃん!
「くそ、朝から調子が悪い……! それもこれもせっかく作った植木鉢がなくなったのが悪い!」
自分の頬を叩いて反省する。
「え、なくしたんすか? 作ったものを?」
「うん、なくしたというか、なくなった。……そういえば昨日の夜、窓の外から視線を感じたんだ」
「もしかして、泥棒じゃないっすか……?」
「え? 泥棒? ついにこの店にも泥棒が……!?」
「なんか反応変っす!」
「ふふふ、つまりこの店の素晴らしい焼き物には盗む価値があるって世間に知れ渡ったってことさっ!」
「なんでちょっとうれしそうなんすか……? やっぱりヘンタイっす!」
身をのけぞらせて俺から距離をとるスコリィ。
そこにイゴラくんがやってきた。こちらもちょっと元気がない。
「え、作った植木鉢……盗まれたんですか?」
「うん、昨日の枝も全部盗まれたみたい」
「それじゃあ、また枝を取りに……?」
「そうなるかも。詳しく探したいところだけど……もう時間がない。朝のラッシュのパンと惣菜つくりだ!」
そう、気づけば、うちの雑貨屋はすっかり“お年寄り向けの惣菜屋”と化していた。
ペッカのジャムとか人気あるし。
「おはようございまーす。今日も外回りピカピカにしておきますね!」
ガディが山のほうからやってくる。彼女は森の奥の泉で寝泊まりしているらしい。そして自ら出てきた後はやたらと元気である。
俺らが惣菜を作っている間、ガディが外の掃除をする。これが俺たちのいつもの朝だ。
***
「ふう。何とか間に合ったな」
朝のラッシュをなんとか乗り切り、一息つく……、のは俺だけで、イゴラくんとスコリィは朝練を始めた。……本当に若さってすごいな。
カウンターから感心してみていると、ペッカがやってきた。
「おい、俺様が昨日作った木彫り細工知らないか? 昨日はブローチをたくさん作ったのだが」
「え、わからないけど……って、ペッカも? 俺の植木鉢もなくなってたんだよね」
「もしかして、泥棒か……?」
「……そう、かも」
「店の商品は大丈夫だったのか?」
「どうやら、そうみたいなんだ」
――そう、盗まれたのは、店の商品棚に並んでいない、最近作ったばかりのものばかり。
……もっとも、この屋敷にあるガラクタがどれだけ盗まれたかわからないが。
「え!? 泥棒!? 店長さん、もしかして破産ですか……?」
ガディが大げさに心配してくる。さすがお嬢様は世間を知らない。
……100億の借金をするという世間の常識から外れたことをしでかした俺が言うのもなんだけど。
「いや、このくらいで破産はしないよ。でも、また古代樹の枝は取りにいかないとね。はぁ……、面倒だなぁ」
それをきいたペッカがあきれたように言う。
「面倒? これから定期的に行くと思っていたぞ。あれで大儲けするんだろう?」
「確かに……!」
俺が手をポンとたたいた、その瞬間だった。
――それは、まるでタイミングを見計らっていたかのように、やってきた。
……ある意味、俺たち雑貨屋にとって最悪な存在が。




