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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第15章 ギリシャ神と古代樹とゴーレム兄妹編
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枝に神様が座るかもしれないから古代樹は大切にしておけ

 神様に盆栽鉢制作を頼まれたが、いざ、盆栽鉢なんて慣れないものを作り始めると、どういうデザインがいいかさっぱり思いつかない。

「神様に献上するレベルの作品を作るなんて今の俺には無理だ……」


(いやいや、難しく考えるな、力を抜いて考えろ……)


 悶々としている俺の前に現れたのは、さっきまで落ち込んでいたイゴラくんだった。


「あの、もしかして盆栽の木も、植木鉢に入れて売ればいいんじゃないですか?」


「……そ、それだ! このあたりの森には長寿の木もたくさんあるみたいだし、その枝を挿し木すれば……」


「そうです! おじいさんが盆栽にしていた古代樹がありますので、その場所まで案内しますよ」

「おお、ありがとう!」


 そのやりとりをきいた隣の部屋で木彫り細工をしていたペッカが呆れて言う。

「ますますなんの店かわからなくなるな。いや、シナジー効果というやつか。単独よりも大きな効果や価値を生み出す相乗効果が見込めるわけか。……なかなかやるじゃないか」

 

 シナジーというか、盆栽も取り扱う雑貨店になるだけだと思うが。あえて深く考えずに返事をする。


「売れれば何だっていいんだよ。顧客から始めよ、だよ。ペッカくん……!」

 光明が見えた俺はちょっと鼻を高くして言う。

「嫌な予感がするが。どれ、俺様もついていこう」


「ペッカは駄目だ。昼間は配達がいつ入るかわからないし。昼過ぎに来る予定のスコリィを連れて行こう。この辺の森は庭のようなものって言ってたし。彼女はピクシーらしく目がいいからいい感じの枝を見つけて貰うよ」


「うーむ。お前こういう時はしっかりしているな」

 説得させられてしまった、という顔をしたペッカは妙に感心した様子で俺を見る。めっちゃついてきたそうな目をしている。俺は心を鬼にして首を振り断った。


(……ま、留守番してもらうんだからおやつは用意してあげるか)


***

 ということで、雑貨屋店から西に進んだ森の中。メンバーは、イゴラくん、スコリィ、そして俺だ。雑貨屋初期メンバーという感じだ。

「アタシも見たかったっす! デメテル様なんてめったに会えるもんじゃないっす!」

「言っとくけど推し活グッズなんてないぞ。それにまた来るって言ってたし、また会えるよ!」

「いやでも! 初登場で居合わせたかったっす!」

 何のこだわりだよ。初回限定版とか初版が好きなタイプか?


 俺たちは森の中を順調に進んでいた。森といっても、道は踏み固められ、ところどころに茶畑もある。実にのどかな森だった。

 リラックスしながら歩いているとスコリィが魔法について語り出した。

「いやあ、アタシも魔法には自信があったんすけど、最近はもうダメっすね。ガディさんたちはともかく、魔王側の魔法とか六古窯の魔法とか、奇跡魔法まで出てきて理解が追い付かないっす」

 イゴラくんも賛同する。

「学校では転生者の魔法や最新魔法なんて習いませんでしたからね」


「これから自分なりの魔法を鍛え上げて強くなっていけばいいよ。朝練もしているし、強くなるよ。……俺も戦闘スキルないから参加しようかなぁ」

「いや! てんちょーは来なくていいっす」

 明らかに二人の邪魔をするな、と言わんばかりの目。

「はいはい」

 俺は目を伏せて静かに笑う。そうだ、若い二人の邪魔をしてはいけない。


 木漏れ日が心地よく、道の端で小さな花がちらほらと咲いている。


 くだらないことをしゃべりながら歩いているうちに俺らは、たどり着いたようだ。目的の古代樹に。

「あ、ここです。樹齢1万年超えるらしいです」

 イゴラ君が指し示す先。ドームのように広がる、古代樹の枝葉。


「これが……古代樹! いや、でかすぎる……」

 目の前に広がるのは、想像をはるかに超えた巨木だった。


 せいぜい縄文杉みたいなもんだろ、と高をくくっていたが――これは違う。


 幹は山のようにそびえ、枝葉は空に広がる大傘のようだ。

 

 そのまま天空の城でも建てられそうなスケールだ。

 イゴラくんは、じっとその木を見上げながら、ぽつりとつぶやいた。

「やっぱり……ここは、特別な場所ですね。すごく懐かしい……」


  まるで、大切な何かを置き去りにしてしまったかのような目をしていた。

(……やっぱり、何かあるな。ライムチャートちゃんのことか……?)


 一方、スコリィは両手を空に突き上げて、明るい声を響かせる。

「いやあ、なつかしいっす! 学校の遠足のとき以来っすよ! 」


 古代樹の根元には、円形のひらけたスペースがあって、ちょっとした広場のようになっている。

 ベンチや石碑もあり、まるで森にぽっかり空いた“時間の保管庫”みたいになっているのかもしれない。

 思索にふけるには最適な場所だ。きっと近くの人もよく来ることだろう。


 今日は……誰もいないようだが。


「おや、またお会いましたね」

 ……いや、一人いた。


 木の枝葉の下に入った俺たちの頭上。


 オリンポス12神の一人、デメテル様。ちょうどいい太さの枝に座りかけて、……ビールを飲んでいる。

(いや、酒くっさ)


「デメテル様、こんにちは。それ何杯目です?」

「12杯目です」

 神様の肝臓の強さ、半端ないな。そもそも分解しているのだろうか?


「あの、どうしてここに?」

「この世界で同世代なのはこの古代樹だけですからね」


 たしか、この木は1万年は超えているとのこと。

 ということは、デメテル様は……。ともかく、1万歳以上の存在と話せるなんて、転生してみるものだ。


「友にビールを飲ませられないのが残念ですよ」

 植物にアルコールとか拷問では……。いや、このレベルの大きさの植物ならいいのか……?


「もう誰も訪れなくなった、ようですね。こんな立派な木なのに。時代が時代ならご神木として人々の畏敬を集めていたでしょう。世界が平和だという証拠でしょうか」


 平和だというのは錯覚だ。こんな田舎じゃ実感しにくいけど。神様だって、きっと自覚しているはずだ。

 俺は思わず進み出て言葉を投げかける。

「お言葉ですが、魔王がショッピングモールで世界を支配し、人々は生活を変えざるを得ません。ドラゴン族など住処を追われて、その数を減らしています。これは果たして平和なんでしょうか?」

 キャラじゃないのに、なぜこんなことを言ってしまったのだろう。


「神からみたら魔王がやることも児戯」

「魔王モール以外の、多様な種族が困っていることは事実ですよ」

 俺は感情に任せてついよく知らない事実で相手を責める。……何やってるんだ。


「気持ち話わかりますが、あなたは間違ってます」

「どこが間違っているのでしょうか?」


 この世界のことをよく知りもしないのに、俺は強気に出る。

 なぜこんなに強気なのだろう? ……ああ、きっと甘えているんだ。偉大な存在に。そして……心のどこかでは、転生前の世界のことを思い出してた。

「そう、あなたは間違っています。『魔王モール以外』ではありません。魔王モールの従業員たち自身も困っています。彼らは皆、サービス残業に泣いていますよ」


「ブラック企業じゃねえか! 自分で蒔いた種を間違った方向に育てすぎだろ、魔王!」


 思わず敬語も忘れてツッコミを入れてしまう。前世で何度も聞いた、そして俺自身も味わった『社畜の悲鳴』が、この異世界でも響いているなんて。

 だが、デメテル様は面白そうに、俺にジョッキを向けて笑った。


「ふふふっ。それほど、経済という化け物は取り扱いが難しいのです。ともかく神にとっては、人がやろうが魔王がやろうが、些細な違いなのですよ。私たち神々はあなたたちを遠くから見守っています」

 向けられたジョッキを見ながら肩をすくませて返事をする。

「まぁ、俺はこの田舎でスローライフしていればいいんですけどね。魔王はきっと才能と戦闘用チートスキルに恵まれた転生者がどうにかしてくれるでしょう」


「私は面白いほうを見たいんですけどね。お酒の肴になるほうを」

 その深緑の瞳で俺のほうを挑発的に見ながら、魔法で13杯目のビールを注ぐ。


(いや、酒の肴になればいいんかい!)


 最後のツッコミを心の中でおさえながら、俺は確信した。


 ……偉大な存在は(たち)が悪い。

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