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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第15章 ギリシャ神と古代樹とゴーレム兄妹編
74/232

金髪美女の出てこない異世界ものなんて炭酸の抜けたビールみたいなものだ

「あ、あなたは! オリンポス12神のデメテル様! なぜ下界に……!?」

 店番をしていたガディが大きな声を出して驚く。


 ――オリンポス十二神。ギリシア神話の頂点に君臨する主神たち。

 姿を見た瞬間、特別な存在であることは直感していた。だが、まさか主神が直接、ハニワと湿布の匂い漂うこの店に現れるとは。


 おとめ座のモデルとも言われる、豊穣の女神デメテル様。

 

 奥で木彫りを作っていたペッカが飛び出してきて、床に這いつくばる。

「デメテル様!? どうしてこんな田舎の、みすぼらしい雑貨屋に!?」

(みすぼらしいとは失礼な。ペッカ、今日のおやつ抜き決定な)


「こちらに、珍しい鉢植えがあると聞いたのですが。こう、微妙な歪みが見事な。作為のないデタラメな造形美があるというか」

 手で器を抱えるような仕草をするデメテル様。


「……え? 鉢植え?」

 思わず間抜けな声が出る。

「はい、鉢植えです」

 落ち着いた、けれどもうれしそうな声が返ってくる。


「もしかして……これですか?」

 売れ残っていた鉢植えを、棚の奥から出す。イゴラ君のおじいさんに作ったものだ。

 

「ああ、それです! すばらしい! この絶望的な左右非対称! まるで大地の怒りを体現したかのような!」

 いろいろと歪んでいるように見えなくもない器だが。

「あの……、ほめてもらえるのはうれしいのですが、どこでこれのことを?」


「知り合いからきいたので……」

「知り合い?」


 マリーさんあたりが商品の宣伝でもしてくれていたのだろうか? それにしても神様の耳にまで届くなんてどれだけすごい宣伝だよ。


「どうかしたんですか?」

 イゴラくんが台所から出てきた。


「ああ、あなた……イゴラくんね! 大きくなったわね!」


「え? あ、あなたは……!」


「あら、おぼえていてくれたの? 光栄ね」

 え、イゴラくん、神様と知り合いなの……? ただその素朴なパン好きゴーレムじゃなかったの?

「あなたは……! 盆栽のおねえさん!」


 ずこー。

「ぼん……、さい……?」

「ええ。私、この子のおじい様とは『盆栽仲間』でして。あの枯山水の表現、神々の間でも隠れたブームなのですよ」


 金髪のきらびやかな神々が、雲の上でちまちまと松の枝を剪定している光景。……想像するだけでシュールだ。長生きすると土をいじりたくなるというが、神も例外ではないらしい。


「あ、ここ、パンもあるんですね。じゃあ、この鉢植えと、パンをいくつか。あと、そのジョッキもください」


 女神様、俺が作ったジョッキ型の器もご購入。でも、飲みものは買わないようだ。水とミルクがおいてあるのだが。


「あ、ありがとうございます!」

 ガディが震える手で会計をする。


「じゃあ、失礼して、……いただきます!」

 彼女はそういうと、空中に小さな魔方陣を出して、器にビールのような液体を注ぎだした。


〈コポコポコポコポ……! シュワー!〉

 この音、この泡。ビールだ。完全にキンキンに冷えたビールだ!


 俺たちが唖然とする中、デメテル様は一気にジョッキを空け、レンガパンをぺろりと平らげた。

「ぷはー! やっぱり、朝はパンとビールよね! 麦を一番美味しくいただく究極のセットだわ!」


 金髪をなびかせ、至福の表情で「おっさん」みたいなことを言う豊穣の神。

「……」


 店内が一瞬の静寂に包まれた直後、彼女は鼻をくんくんさせて笑顔で言った。


「ところで……何か、香ばしすぎませんか?」


 それは、……明らかに焦げたパンの臭いだった。台所をのぞき込んでみるとパン焼き窯からの黒い煙が目に入る。

「あああっ! イゴラくん、パン焦げてるーっ!!」

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