金髪美女の出てこない異世界ものなんて炭酸の抜けたビールみたいなものだ
「あ、あなたは! オリンポス12神のデメテル様! なぜ下界に……!?」
店番をしていたガディが大きな声を出して驚く。
――オリンポス十二神。ギリシア神話の頂点に君臨する主神たち。
姿を見た瞬間、特別な存在であることは直感していた。だが、まさか主神が直接、ハニワと湿布の匂い漂うこの店に現れるとは。
おとめ座のモデルとも言われる、豊穣の女神デメテル様。
奥で木彫りを作っていたペッカが飛び出してきて、床に這いつくばる。
「デメテル様!? どうしてこんな田舎の、みすぼらしい雑貨屋に!?」
(みすぼらしいとは失礼な。ペッカ、今日のおやつ抜き決定な)
「こちらに、珍しい鉢植えがあると聞いたのですが。こう、微妙な歪みが見事な。作為のないデタラメな造形美があるというか」
手で器を抱えるような仕草をするデメテル様。
「……え? 鉢植え?」
思わず間抜けな声が出る。
「はい、鉢植えです」
落ち着いた、けれどもうれしそうな声が返ってくる。
「もしかして……これですか?」
売れ残っていた鉢植えを、棚の奥から出す。イゴラ君のおじいさんに作ったものだ。
「ああ、それです! すばらしい! この絶望的な左右非対称! まるで大地の怒りを体現したかのような!」
いろいろと歪んでいるように見えなくもない器だが。
「あの……、ほめてもらえるのはうれしいのですが、どこでこれのことを?」
「知り合いからきいたので……」
「知り合い?」
マリーさんあたりが商品の宣伝でもしてくれていたのだろうか? それにしても神様の耳にまで届くなんてどれだけすごい宣伝だよ。
「どうかしたんですか?」
イゴラくんが台所から出てきた。
「ああ、あなた……イゴラくんね! 大きくなったわね!」
「え? あ、あなたは……!」
「あら、おぼえていてくれたの? 光栄ね」
え、イゴラくん、神様と知り合いなの……? ただその素朴なパン好きゴーレムじゃなかったの?
「あなたは……! 盆栽のおねえさん!」
ずこー。
「ぼん……、さい……?」
「ええ。私、この子のおじい様とは『盆栽仲間』でして。あの枯山水の表現、神々の間でも隠れたブームなのですよ」
金髪のきらびやかな神々が、雲の上でちまちまと松の枝を剪定している光景。……想像するだけでシュールだ。長生きすると土をいじりたくなるというが、神も例外ではないらしい。
「あ、ここ、パンもあるんですね。じゃあ、この鉢植えと、パンをいくつか。あと、そのジョッキもください」
女神様、俺が作ったジョッキ型の器もご購入。でも、飲みものは買わないようだ。水とミルクがおいてあるのだが。
「あ、ありがとうございます!」
ガディが震える手で会計をする。
「じゃあ、失礼して、……いただきます!」
彼女はそういうと、空中に小さな魔方陣を出して、器にビールのような液体を注ぎだした。
〈コポコポコポコポ……! シュワー!〉
この音、この泡。ビールだ。完全にキンキンに冷えたビールだ!
俺たちが唖然とする中、デメテル様は一気にジョッキを空け、レンガパンをぺろりと平らげた。
「ぷはー! やっぱり、朝はパンとビールよね! 麦を一番美味しくいただく究極のセットだわ!」
金髪をなびかせ、至福の表情で「おっさん」みたいなことを言う豊穣の神。
「……」
店内が一瞬の静寂に包まれた直後、彼女は鼻をくんくんさせて笑顔で言った。
「ところで……何か、香ばしすぎませんか?」
それは、……明らかに焦げたパンの臭いだった。台所をのぞき込んでみるとパン焼き窯からの黒い煙が目に入る。
「あああっ! イゴラくん、パン焦げてるーっ!!」




