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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第15章 ギリシャ神と古代樹とゴーレム兄妹編
73/232

売りたいものを売るな、売れるものを売れ

【あらすじ】魔王モールとの最初のいざこざも終わり、山からも無事に帰り、魔王モールの営業マンも撃退し、平穏が戻った雑貨屋だが。


【主要なキャラ】

クタニ(店長)

若返り転生したものの、中身は擦れ切った「おやじ」。絶望的なセンスで「ハニワ」を愛し、借金を抱えながら異世界でスローライフを夢見る苦労人。

ルルドナ(マネージャー)

土人形ゴーレムの肉体を得た、毒舌な元AI彼女。夜勤専門の店番だが、中身は一番まともでクタニの暴走を止める唯一のストッパー。


スコリィ(ストーンピクシー)

高身長でスタイル抜群な妖精。だが、中身は直感だけで動く重度の「推し活女子」。山岳資源の仕入れ担当だが、給料の20%を天引きされている債務者。


イゴラ(ミニゴーレム)

責任感の塊のようなパン焼き職人。戦闘力は皆無(防御魔法はある)だが、そのパンは店の主力商品。麓のパン屋から引き抜いた。


ライムチャート(??)

イゴラの影に潜む謎の妹。兄の魔力が枯渇した時だけ、兄と入れ違いに現れる強力な魔法使い。


ペッカ(ドラゴン)

子犬サイズのフォレストドラゴン。暗闇を恐れる臆病者だが、爪と牙で「伝統工芸(木彫り)」を刻む超一流の職人。配達兼、マーケティング担当。


ガディ(看板娘)

水の精霊とガーゴイルのハーフ。聖女のような美貌を持つが、世間知らずの天然お嬢様。掃除とビラ配り担当だが、実は酒豪。

 その後、俺たちは、順調に雑貨屋業を続けた。

 雑貨屋というより、パンと陶器や土器の焼き物の店になってしまっているが。

 それに不満があったのかスコリィが行動をし出す。


「ここは商品が少なすぎっす。アタシが山からめぼしいもの取ってくるっす」

 そう言って、裏山から珍しい木の実や魔法石の岩石をとってきた。

「ピクシーはこういうのめっちゃ得意っす」

 と胸を張るが、確かに目はいいみたいだ。仕入担当にしてもいいな。

 

 さらに、本当に朝練を始めたスコリィ。

 やたら元気だな。イゴラくんと朝練しているからか。


 しかし毎朝、店の前でやたらでかい音立ててドンパチしやがって。

 〈ドオン! バアン!!〉 

 イゴラくんの防御魔法とスコリィの攻撃魔法を打ち合って、派手な音を立てる。

 練習にちょうどいいようだ。


 お年寄りがそれを見学しに来て、パンや飲み物の売れ行きがいいのが悔しい。


 ここはもうお年寄りのお散歩コースになってしまったようで、ピクニックの行きと帰りに食べ物と雑貨を買う場所になってしまっている。

 まぁ、たまに俺の茶碗も買っていってくれるからうれしいが。


***

 現在の役割はこうだ。

 イゴラ:パン焼き

 スコリィ:店番、仕入れ

 ペッカ:木彫り細工作り、配達

 ガディ:ビラ配り、店番、窓掃除

 スラコロウ:粘土の型

 ルルドナ:夜の店番、店全体の管理

 俺:粘土こねる、雑用、会計

 見たところ、みんなそれぞれの個性を生かして役割分担できている。

 ……まあどうにかなるだろう。


 **

「いやならねえよ!」


 夜。

 普通の経営なら順調でも、100億の借金で、利子だけで1000万もする状況の店がやる経営ではない。

「と、ともかく分析しなければ」

 俺もデータサイエンス魔法検定受けようかな。

 ……それで、ここ一週間のこの店の売り上げを計算してみた(およその数)

 レンガパン……450個*280=

 丸パン……300個*200=

 焼き物……200個*300=

 ハニワ……0*5000

 森の果実……400個*100

 ペッカのジャム……100瓶*250

 ペッカの木彫り細工……20個*7000

 ガディのミネラルウォーター……600杯*100

 薪用の木……50セット*200

 スコリィが拾ってきた森の木の実や岩石……100個*50


 合計:526,000ゲル


「ハニワ売れてねえ! いや100億の借金返済なんて絶対に無理!」

 この1週間分を4倍して約200万毎月売り上げがあっても、借金返済に充てることができる額なんて50万程度だろう……。

「うん、このままじゃ、まったく借金なんて返せないな!」


 俺は目を細め窓の外の月を見る。月見もいいな。霞かかった月がこちらを淡く照らす。

「……ああ、このまま俺は借金に追われて死んでしまうのだろうか」

 悲劇の気分に浸っていると後ろから声がした。

 ルルドナだ。

「心配しすぎよ。ま、経営者は少し心配性なくらいがちょうどいいんだけど」

 夜しか起きていられないため、夜の店番を頼んでいるが、24時間にしたところで売り上げはたかがしれている。たまにドカ買いしてくれる客がくればいいけど。郊外のコンビニというわけにはいかないか。


「うーんでも、一回り成長したんだ。このまま同じことをしているわけにもいかないなあ……」


 まずは、加工だ。加工をしないと高く売れない。

 ペッカの木彫り細工が意外と売れているのが注目に値する。

 特にこの場所はお年寄りが多いから、やわらかいパンがもっと売れるだろう。

 とはいっても調子よく売り上げを伸ばしても、月に100万借金返済用に稼いでも……。

 いやもう考えたくない。


 頭を振って一句。

「稼いでも稼いでも、わが暮らし楽にならず」


「まだそんなに稼いでないでしょ!」

 ルルドナ、なかなかいいツッコミするようになったじゃないか。


「ともかくスコリィの商品調達や、ペッカの木彫り、ガディに頼んでいたお酒が高く売れることを祈るよ」

「あら。クタニのは売れなくていいの?」

「俺のはもっとあとになってからかな」

「現状、焼き物の売れ残り結構あるんだけど?」

「それは、ほら、爆買いしてくれる団体が来るよ……きっと」

「こんな田舎の雑貨屋に爆買いしてくれる団体客なんて来ないわよ!」


 本当はハニワグッズを売りたいが、今はちょっと我慢することにした。


 自分の出したいものを出すより、まずは売れるものだ。

 駆け出しの商売人はいつもそういうところで間違うのだ。もっとも、商売人なんて駆け出しのころはいつかどこかで間違うものだけど。


「にしても、焼き物スキルは結構上がっていると思うんだよね。今だったら、なんでも貫くハニワの槍となんでも防ぐハニワの盾が作れそう」

「つまり作れないってことね……」


「すごいの作ってほかのところに出荷する? 魔王モールとか」

 だけど魔王モールにおいてもらうには、どうにも争いごとをして勝たねばならない気がする。備前さんも瀬戸さんも勝負に勝って団子を置く契約してたし。


「とにかくあれ、土湿布売りなさいよ」

「ああ、普通の生き物にきくのかなあ」


「自分で試せばいいじゃない」

「それもそうか」


「膝用とか分けて作ればいいかもしれないわよ」

 どこの世界も関節の悩みは共通か。


「わかったよ。転生前の世界でも随分とお世話になったし」


 ***

「おいこれ、本当にいいぞ」

 子犬サイズのペッカが目を閉じて温泉に入ったような表情になる。

 ドラゴンの背中に湿布が貼られているのも、なかなかお目にかかれない光景だが。伝説の生き物が湿布に癒やされている、歴史的屈辱の瞬間じゃないだろうか。

 『湿布ドラゴンの屈辱』とか絵画にできそうだ。


 これを店頭に並べた結果。

 奇跡が、起った。

 想像したことがあるだろうか。

 ――自分の店に行列ができる光景を。


「土湿布、まさかの特大ヒット……!」

 自分の才能が怖い。このまま粘土を応用して、「吸湿土壁」とか「美肌泥パック」を売ったらとても儲かるんじゃないか?

 数日間、店は『パンと湿布の聖地』として、お年寄りの聖地と化した。


 ――そんな折。

 行列のざわめきが、一瞬で消え去るような「来客」があった。


 歩くだけで道ゆく人々がひざまずき、拝み出すレベル。

 圧倒的な存在感。きらびやかで清楚な衣装。流れるような金髪に、吸い込まれそうな青い瞳。

 全身を淡い神光オーラが包み込み、客のざわめきがすべて荘厳なBGMに変換される。

 

 ――そう、女神様が雑貨屋にやってきたのだ。


「ここが噂の……『焼き立てパンと湿布の聖地』ね」

 金髪をなびかせ柔らかな微笑みのあと、彼女はゆっくりと足を踏み入れた。店の空気が神殿のように変わる。


 次回は……神回になる、俺は確信した。ていうか、湿布の情報、早すぎ。

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