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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第14章 茶屋から帰省編
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異世界で自己肯定感を上げるには、技を磨け

圧倒的な力の瀬戸さんですが……。

光魔法、それは神聖な存在が使う魔法、ーーといつから錯覚していたのだろう。

この異世界ではどうにもそのような常識が通用しないようだ。

元悪役令嬢が光魔法を使うなんて世も末だ。


「おっほっほ。流石にもう降参かしら?」

まるまる太った巨体で、相手にのっしのっしと歩み寄る瀬戸さん。

対するペイ次郎は尻餅をついたまま後ずさる。戦意喪失に見えたが、懐から毒々しく光るカードを取り出した。


「私だって腐っても魔王モールの幹部! こうなったら……! 自己強化! 魔力月末後払マジカルアフター!」


悲痛な面持ちでこちらを睨みつけ、呪文を放つ。いや後払いってそれ駄目になる典型パターンですよ……!


しかし間抜けな呪文とは裏腹に毒々しいカードからペイ次郎に凄まじい量の魔力が注ぎ込まれる。


「喰らえ! 刻印吸魔陣スポイトバイオレット!」

周囲の地面に見慣れない魔法陣が浮かび上がる。


……これは、――QRコード!

しかしでかい。直径20メートルはあるだろうか。……ペイ次郎、これ後払いできるの? 無理し過ぎじゃない?


「う……!」

意外にも瀬戸さんが苦しみだす。


「このバーコード魔法陣は、魔力の波長を読んで吸収する! 魔力が大きいほど効果は絶大だ!」

あたりを見ると、ガディやペッカ、スコリィも苦しみ始めている。

……魔力のない俺だけが平気なようだ。しかしノリで苦しんでいるふりをする。バレてないよな……。

「うう……」


「はっはっは! 伝説の六古窯といえどもそんなものか?」

そういって上空に手をかざす。つられて俺も上空を見る。よく見ると上空にバーコード読み取り機のようなものが浮いている。……シュールだ。


ーーあれだ。あれを壊せば。

俺の視線に敵も気がつく。


「おっと、あなた気がついたようですが、無駄ですよ。あれは攻撃などしてもいくらでも変わりが召喚せれます。それにあそこからこちらのコードを読み取っているだけですから」

足でわざとらしく地面をトントンと叩いてニヤけるペイ次郎。

「ほっほっほ、クタニさんありがとう。わかりましたわ。この魔法の弱点」


「なに!? いや、この最新読み取り魔法に弱点など……」

「すべての光よ、私に集まれ! 瀬戸物大白光オールウェイズホワイト!」


〈シャララララーー!〉

まばゆいばかりの光。先程の光とは比べ物にならない閃光。光の柱が瀬戸さんを中心に柱を作る。

――サングラスをしていなければ目がやられていた。


「こ、この大量の光はーー? し、しまった! あまりに眩しすぎて、バーコードのシンボルが読み取れていない! これでは魔力を吸収できない!」

上空の読み取り機はエラーという文字を何度も表示し、……消えていった。同時に、地面の魔法陣も消えていく。


「く、これまでか……。30年前の魔王様との戦いより、威力が格段に上がっているとは、さすが伝説の六古窯。……恐れ入った」

燃え尽きたように倒れるペイ次郎。光をまとった瀬戸さんは神々しく言葉を投げかける。


「職人ってのはね。時代に流されず、自分の技を磨くものよ」

いやあんたの仲間、鍼治療スキル磨いてましたけど。俺は備前さんを思い出しながら、ツッコミを口に出すのを我慢した。


**

残光の中、俺は自分を振り返る。

俺は異世界に着いて、ドタバタしていたけど、自分の技に集中できていただろうか。何か技を磨いただろうか。

ーー強みに集中せよ。努力しても凡人レベルにしかならない分野に、時間を費やしてはならない。


経営の神様の言葉を思い出すが、今の俺には耳が痛いだけだった。

……顔を上げると巨体をまっすぐに伸ばし腕を振り上げる瀬戸さん。その勝利の女神とも言わんばかりの立ち姿をサングラス越しに見ていた。


光の柱が消え、残ったのは、伝説の存在のガッツポーズ。グラサンを高々と掲げ、自信満々でその巨体を見せつけていた。

ーー自己肯定感の高さが半端ない。

伝説の存在は、誰に言われることなく自分の仕事に集中していた。それに対して俺はいったい何をしているのだろう。


**

こんな雑貨屋で、集中などできるだろうか。

俺は結局何がしたいかわからないまま、異世界にきてまで自分の時間を無駄に浪費していた。

なぜできなかったのか。それは、総合的に判断しようとして、結局まとめることができなかったんだ。


時間がなかったなんて言い訳だ。


俺が自分の反省をしていると、ペイ次郎が悔しそうに立ち上がる。

「こ、今回はこれで引きます……! ただ、読み取り機の精度が上がったらまた営業に来ますよ……!」


「いや結構です。手数料永久無料なら考えておきます。実質無料は駄目ですよ」俺は手の平を相手に向けて言う。


ペイ次郎はよろめきながら立ち去っていった。


***

――店の前。

「おっほっほ。さ、私は団子を置いて、行くわ。早く次にに行かなくちゃ。しっかりしなさいよ、あんたたち。この店にはたくさん団子を仕入れて貰わなくちゃいけないんだから……!」


「え、ゆっくりしていかないんですか? お茶くらい出しますよ」


「何言っているの。お昼までに回らなきゃいけないところがまだたくさんあるのよ!」


「伝説の六古窯なのに大変ですね」

「ほっほっほ、充実してるって言うのよ」


不敵に笑うと、仕入れ用の団子を置いて、馬車で去っていった。

――サングラスだけ、置き去りにして。

お助けキャラはすぐに立ち去ります。


感想・コメントお待ちしております!


2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

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