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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第14章 茶屋から帰省編
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峠の茶屋には伝説の存在がよく集まる

戦いから一夜明けて、峠の茶屋にいます。

――次の日の朝。


意外な人物と出会うことになった。


早朝から、俺はできるだけ身軽になろうと、やけくそで作った100個近くのゆのみや小皿を売ることにして露天商の敷物を広げていた。


ここから本当の町へは、歩いて2時間くらいらしい。

そんなに大量の焼き物をもって移動するのはきつい。


スラコロウは石のように硬くなったままリュックに入っているし。あの打鍵音魔法、かなり応えたようだな……。


「あらあらあらぁ。雑貨屋のお兄さんじゃないのぉ。何、ホームレス?」


そこにやってきたのは瀬戸さんだった。

――俺の雑貨屋に団子を卸すことになったおばさんである。


「いや露天商です。ていうかお久しぶりです。」


俺は丁寧に挨拶をする。

最初はクレームおばさんだと思ったが、実は仲卸をしている人だった。


「あ、瀬戸さんー! お茶屋用のお団子ですね! ありがとうございます!」

俺と瀬戸さんの声が聞こえたようで、お茶屋の扉を開けて備前さんが出てくる。


「後輩くん、彼女はこの店に週に一度団子をおろしてくれる瀬戸さん。六古窯の仲間だよ」


紹介されると、そのカマキリメガネをくいくいと上げ下げして自分のことを喋り出す瀬戸さん。

「あら知られてしまったのね……! まあ過去の栄光をひけらかすのは好きじゃないんだけどぉ、実は伝説の六古窯の一人なのよ! といってもちょっと魔王を痛めつけただけだけどね。80年前の伝説の真の勇者たちと比べれば大したことはないのよ」


長々としゃべりだす瀬戸さん。これは話題を変えないと終わらないパターン……! そう悟った俺は質問をする。


「六古窯ってそもそも何なんです?」

「ふふふ、それは……、って知らないの? 日本でも有名でしょ?」

「ええ俺は基本的にあまり名声とか興味ないです。48人いるらしい女性アイドルユニットも知りません」


「おはよう娘のことかしら……。とにかく六古窯というのは、焼き物で有名でしょ。瀬戸、信楽、常滑、備前、丹波、越前のことよ。私たち6人でお花見してたら集団転生しちゃって」

……時代がずれているのはスルーして。


いったい何があったんだろう。


――いや、詳しく聞くのは野暮ってものだ。だってここは、異世界なんだから。


ていうか、常滑や丹波ってどこかで聞いたような……。


「信楽焼なら知ってます。あの狸の……。そういえばここの主人も狸っぽい人だったけどもしかして六古窯……?」


そういえばそうだ。きっとそうだ。そんな偶然はあり得ない。考えつつちらりと視線を送ると。


「違うわ」


にっこりと笑って備前さんが否定する。


「え、でも」と俺が追求しようとすると全力で否定される。


「ち が う わ 。この時間は朝の仕込みが終わって昼寝しているから会うのも駄目よ」

「いやでも焼き物に詳しかったし」


「焼き物に詳しい人なんていくらでもいるわ。ていうか私が教えたんだけど。あいつは物覚えが悪く仕方ないわ」

「雇用主になんて暴言を……」

そういえば俺も店長なのに皆に暴言を吐かれているような。


「バカね。ここのオーナーは私よ。可愛いからお茶屋の娘プレイをしているのよ。主人っぽいやつがバイトよ」

……年齢が気になりすぎる。


ていうか、こんなコスプレ初めて聞いたぞ。俺が知らないだけで、案外世の中には多いものなのか……!? 


「……はあ。もう好きにしてください」

考え疲れ、すべてを受け入れることにした。


「ともかく、ここにいる店長は単なる一般異世界民よ」

はい、受け入れます。


瀬戸さんが笑い出す。

「おっほっほ。ま、伝説の六古窯と言われても、大戦中の伝説の勇者たちと比べたら大したことないんですわよ」

「え、伝説の勇者ってまた別にいるんですか?」


俺の質問に備前さんが生き生きと答える。

「伝説の勇者に、幻の勇者に、神秘の勇者に、私たちみたいに“伝説の~”と枕詞をつけられた勇者たちも多いわ!」

いや多すぎだろ。

勇者のバーゲンセールか。


「私たちもねえ、勇者は勇者なんだけど、ほら、『一勇者一魔王』の法則があるじゃない? あれを破るのはちょっとねえ」

それって本当だったんだ。

「大戦中に魔王を倒した勇者たちはそんなに強かったんですか?」俺はまた尋ねる。


続けて備前さんが答えてくれる。

「そうよ。昔はシンプルに倒したらしいわ。でかい国の王様の依頼とかあってね。報奨金もたくさん出たらしいわよ。それに比べて私たちって、不景気のときに転生しちゃって。もうほとんどボランティア活動よ。ボランティア活動」


ボランティア活動に負けた魔王の心境を思うとやるせない。

「にしても魔王ってすごい粘り強いんですね。何度も復活して……」


「そうね。『魔王はいつでも復活する。人々に欲望の心がある限り』みたいなことをいつも言っているみたいよ。私たちはそもそも倒してないのよ。痛めつけただけ」

あのセリフって律儀に守ってたんだ。魔王の方が誠実な感じがしてきたぞ……。


「じゃあ前回の大戦で魔王を島送りにしたって勇者たちは、また別?」

「そ。4人の勇者たちね。また別の転生者たちみたいよ。彼らもどこかでスローライフしているらしいけど、顔見たことないわねえ」


この世界の最終目的ってみんなスローライフなの?

「みなさん、スローライフが好きそうで……。瀬戸さんは忙しく回っているみたいだけど」


「あちこち動き回って忙しいけど、こんなスタイルのスローライフもいいものよ」


「はあ……」

最初クレーマーと勘違いしたんだけど。


「おっほっほ。何にせよ、ちょうどよかったわぁ。あなたのところにも行こうかと思っていたのよ。だって、魔王モールで無事に用事をすませたんでしょ? 早くお店再開しなくちゃ借金返せないわよ」


「まあそうですけど。耳が早いですね」


「井戸端会議情報網をなめたらいけないわ。ADSLより速いのよ。ともかく、今からあなたたちのところに行くから、馬車に乗っていきなさいな」

「今はADSLじゃなくて光ファイバーですよ」俺がツッコミをすると、細かいことはどうでもいいのよと背中をたたかれた。


言葉に甘えて馬車で帰ることにした。何か忘れているような気もするけど。


いや、イゴラくん忘れてた! パンもって山のほうに行ってたんだった!


――そう、これこそが次のトラブルの原因になることを、このときの俺は知る由もなかった。

語りの回になってしまいましたが、テンポよく楽しめるよう頑張りました。


感想・コメントお待ちしております!


2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

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