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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第13章 ドッペルゲンガーと伝説の六古窯編
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幼い子供の前でできないことは異世界でもするな

戦いの後。

うざい音がする魔法が終わり、辺りが静寂に包まれる。


きっとポエムを書き終えたのだろう。……ろくなポエムじゃないだろうけど。


「ふう。ようやく静かになったわね」

ひと汗かいたわ、と言わんばかりの備前さん。強敵と戦いなれている感じで頼もしい。


夕焼けの空が名残惜しそうに西の空の端を染めている。空はほとんど闇に染まろうとしていた。

しかしそれは、勝利の後の、安心する夜の静寂だった。


振り返ってみるとスラコロウが茂みの前でカッチカチになっていた。

「オイラ、あの音だめだ」

「誰だってあの音は苦手だよ」


「……オイラは特別ダメみたいだ。……動けねえ。リュックの中に入れてくれ」

「はいはい」


俺らが一息ついて座り込むと、子どもゴブリンが一人走ってきた。

デン・スリーの近くに駆け寄る。


「パパ、負けたの……?」

彼の子どものようだ。

4歳くらいだろうか。

手にはお絵描きノートを抱えている。可愛い盛りの純粋な感じだ。


デン・スリーはしゃがみ込み、小さな頭をなでる。

「ああ、すまない。力が及ばなかった」


すると。

〈バンッ!〉

子どもは急にお絵描き帳を地面にたたきつけ、疲れた大人みたいに深いため息をつく。


「……はー、実はずっと陰から見てたけどさ、パパカッコ悪いよ。最後にあんなうるさい魔法使ってまでさ。あのときすでに詰んでたじゃん」


「……は? おまえ、どこでそんな言葉遣いを」


「ほんと、そういうところなんだよ。まあいいや、とにかくもうあんなダサい魔法使わないでね」


「う、うん……」


「みなさん、お騒がせしました。父はこんな辺境の地に左遷されて、一人で広告用の幻覚魔法装置の研究をさせられて、気が焦っていたのです。この通り反省してますのでお許しください。とどめは刺さないでやってください」


備前さんにやられたときよりいっそう、かわいそうなくらいうなだれるデン・スリー。

……一番のとどめを刺したのは君だよ。


どこの世界でも子どもの純粋な目には勝てないらしい。いや今回それは関係ないか。

え、何この子、毒舌系ユーチューバーにでもはまったの?


「まあ、もう戦いは済んだし、俺としては幻だとわかったから、全然……」

俺がなんの見返りもなく許そうとすると、備前さんがさえぎって前に出る。


「いえ、この世界はお金がものをいうのよ……。契約で払ってもらうわ。魔王モールに毎月団子とお皿のセット1000皿注文、よろしくお願いしまーす」


高級な焼き物と団子を1000皿セットとは悪質である。次期魔王になれそうな勢いである。

「ていうか魔王モールなんかと経済的な関係結んでいいんですか?」


「お金には変えられないわ。お茶屋の娘でもたくましくなきゃ」


「たくましいの限度を超えているような……」


「……後輩くん、こんな言葉知っているかしら。『京都三条糸屋の娘 姉は十八妹は十五 諸国大名弓矢で殺す 糸屋の娘は目で殺す 』……じゃあ、お茶屋の娘は?」


いきなり教養の高いセリフをいわれ俺は言葉に詰まる。

「……わ、わかりません」


ニッと口の端をあげ、一番星を指さしながら彼女は言い放つ。

「生かさず殺さず、有利な契約を結ぶのよ」

「お茶屋関係ないじゃん! ていうかしっかり者すぎる!」


「あっはっは。後輩くん、いいキャラしているね。……さっきのは江戸の有名な口上よ。カッコよすぎて忘れられないでしょ?」


「余計なことまで覚えそうですよ……」


**

――峠のお茶屋に戻る。

「で、結局あなたは何者なんです?」

俺と備前さんは、余り物の団子と茶をいただく。

……ゆのみは、備前焼。


「後輩くんとおなじ転生者よ。昔ちょっと魔王を痛めつけたんだけど、なんかつまらない商売やってるみたいね」


「昔ちょっとって……。実は俺アラフォーで若返り転生してこの二十代の姿なんですけど、自分のほうが年上のような……」


「ああ、実は後輩くんのことは風のうわさで聞いてたんだよ。にしても後輩くんはどう見ても中身も二十代っぽいけどなぁ。いや人生経験を積んでいない若さというか……」


「あなたは見た目は完全に十代なんですが中身は何歳なんですかね……。以前魔王を痛めつけたってことは、……」

そういった瞬間、首元に鋭い陶器が突きつけられる。

「計算したら殺すわ」


目が笑っていない。


「転生者は年を取らないんですよね! はははは」

「物分かりがよくてよろしい」


「過去なんて考えてたらだめですよね!」

「そうそう。って、あなたはまだ若いんだから引退するには早いわよ」


「俺より若い転生者なんてたくさんいますよ」

「後輩くんは来たばかりだからまだまだ若いほうよぉ。三号店の新月バトルで優勝したんでしょう? もう勢いに乗って魔王モール買収しちゃいなよ」

さすが峠のお茶屋。耳早いな。


「備前さんが魔王を倒せばいいのでは」

「……もう私の魔法なんて時代じゃないわ。私はスローライフに生きるの。……それに、一勇者一魔王の原則よ」

そんなルールあるのか。

魔王って毎回、律儀に復活しているのだろうか。


「え、ついてきてくれるわけではないのですか?」


「そんなことしたら甘えちゃうでしょ? ま、近くでピンチだったら助けてあげるわ。ここにいるとは限らないけど」

と言われ、俺は名刺を渡された。


『備前・フランケンタール』


裏には、どこかでみたようなマークが書かれていた。

六古窯の人たちはお助けキャラです。時々出します。


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