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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第13章 ドッペルゲンガーと伝説の六古窯編
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伝説の六古窯

ピンチを救ってくれたお茶屋の娘は何者か……?

「いやあ、がんばったねえ、後輩くん! お姉さん感心したよ!」


なぜ、お茶屋の娘が? ていうかあなた見た目は十代なんですけど。年下じゃない?

しかも後輩ってどういうこと?


混乱しつつお礼を言う。

「えっと、ありがとうございます……?」

彼女は巨大な備前焼の皿をさっとしまう。まるでマジックショーだ。


その姿を確認した敵がふらついて尻餅をつく。

「お、お前は……! 六古窯ろくこようの一人、備前・フランケンタール!」


驚愕の表情でデン・スリーが尻をついたまま、後ずさりする。お茶屋の娘は気後れすることなく相手に向かって歩を進める。


「あら、私のこと知ってるなんて、勉強熱心ね。でも……、こんなところで大規模幻覚魔法を使うなんて、感心しないなあ」


「お、お前らは、……魔王様を追放したあと、全員が南の島にいき、それぞれスローライフを始めたはずだ! こんなところにいるわけがない!」

やはり皆、異世界に来たらスローライフだよね。

しかし、……確かになぜ南の島から戻ってきたのだろう。


「人がいないから商売上がったりでこっちのほうに戻ってきたのよ!」

身も蓋もない理由だった。


「……ふはは! 無一文から商売を始め、経済的に成功した魔王様とはえらい違いだな! 理由はともあれちょうどいい! お前を倒して魔王様に広告予算を増やしてもらおう!」


そういうと、杖を何度もふり、先ほどと同じような、雷の光を帯びた人を召喚した。

ただ、今回のはかなりの巨大さだ。高さは3メートルはあるだろう。

その数、9体。……しかも、3人3列にきれいに並んでいる。

髪型は……七三というか九一。


「我々は経営拡大のために日々魔法を磨いていたのだ! 伝説の六古窯でももはや最新魔法にはついていけまい!」 


「へえ、なかなかやるじゃない。……でも、この私には何をしてもムダよ」


「その口、あと何秒もつかな……? プレゼン時間はもう終わりだ! くらえ! 電撃営業演舞!《ダンス・ダンス・ライジング》!」


巨人はお辞儀のような動作をしながら、僕らを素早く取り囲み、ぐるぐると回る。

「お辞儀しながら回るな! 真面目で不気味って一番タチ悪いタイプだぞ!」


巨体なのに速い! あまりの速さに、僕のハニワの兜は自動追撃の動作を停止してしまった。


しかし備前さんは余裕の表情で、まるで焼き窯に祈るような所作で両手を天にかざす。

「あまい! 封印魔法――玉垂れ茶椀・伏せ《ドロップ・カップロック》!」


巨大な湯のみ茶碗が天空から9つ出現し、勢いよく落下、素早く動く9体の巨人を一瞬で伏せおさえた。


「そんな魔法で雷の化身が捕まるか! 馬鹿め! 抜け出せ! サンダースルー!」


雷だから物質を通過するのか!


……しかし。


「バカはあなたよ。陶器はね、絶縁体なのよ!」

「な、なんと……」


〈ドンドンッ〉

ツーブロックが内側から陶器を叩いているが、出れそうにない。


伏せるように落ちてきたその分厚く黒光りする巨大茶碗は、まるで巨大な墓標のようだ。


……そのうち、音がしなくなる。


がくりと膝をつくデン・スリー。

「ば、ばかな……。たった一人で、そんな威力の封印魔法が使えるなんて、……きいてないぞ。三十年前の大戦で、そんな魔法があったなど……!」


「戦いが終わっても、職人は技を磨く。手を止めるのは、……死んだときだけよ」


***

デン・スリーは少しの間うなだれていたが、いきなり顔を上げて必死の形相をこちらに向ける。

「それならば……魔法を使えなくしてやる! 雷鳴打鍵音ライジング・タイピング・チェーン!」


その直後、空から大きな音が鳴り響く。


ガタガタガタ、ターン!

ガタガタガタ、ターン!

ガタガタガタ、ターン!


「この魔法の打鍵音が響いている間は、周囲の者は魔法が使いにくくなるぞ! 転生してきたやつから教わったのだ!」


これは……カフェチェーン店に出現するクソうざい営業マンのタイピング音じゃないか!? なぜこんなに再現度が高いんだ!


「確かに、これは……魔法の詠唱は無理ね」

呆れた感じで備前さんが言う。


「でもあなた、知ってるでしょ? 六古窯の備前は、肉弾戦のほうが得意だって!」


そういうと、着物の袖をまくり、たすき掛けにし、体中に赤いオーラをまとわせる。それはまるで、焼き窯のそばにいるような熱さだった。近くにいる僕は思わず後ずさる。


「奇遇だな! 私も肉弾戦のほうが得意なのだ! ベンチプレス150キロの力を思い知れ! それに、この打鍵音がなっている間は私も魔法が使えないからな!」

……だめなやつじゃん。


しかしセリフとは裏腹に迫力ある姿になる。筋肉を膨張させ、強力な黄色いオーラを纏わせる。


「あまい! ベンチプレスの記録ばかりに目がいっているタンクトップ野郎の弱点はお見通しよ!」

……ニッチな弱点知ってるんだな。


備前さんは正面から相手に肉弾戦を仕掛ける。


黄色いオーラと炎のオーラがぶつかり合う。


初手は蹴り、相手は掴みかかろうとするがうまくいかない。

殴りかかる、避ける。

蹴りを下段へ繰り出す。

拳がぶつかったかと思うと、もう蹴りが繰り出される。

相手の素早い攻撃の後、さらに素早い攻撃が繰り出される。


しかしあまりに高速な攻防。徐々に早くなり、もう目で追うことができない。


……さらに空から響く音。

カタカタカタ、ターン! 

カタカタカタ、ターン!

カタカタカタ、ターン!


打鍵音うぜー! 

いい加減にしろ! 独白すらできなくなるだろ!


「どうした? 弱点がわかっているんじゃないのか?」デン・スリーの強気な声。

「いいえ、もうあなたは、終わっているよ!」応じる備前さんは余裕の笑み。

「なに!? うっ……!」


同等の戦いをしていたようだが、突然相手が苦しみだした。

いつの間にか、デン・スリー細い針が体中に刺さっている。

次第に彼の筋肉は、空気の抜けた風船のようにしぼみ、垂れ下がっていった。


「あなたの筋肉を強制的に休ませたわ」備前さんがいう。

「こ、こんなもの……!」

「いいのかしら? これを今抜くと、あなたの筋繊維は崩壊し、二度とベンチプレスができなくなるわよ。逆に一日待てば、超回復が起こって、ベンチプレスの今の壁を超えられるわ」

(※筋肉は限界近くまで追い込むと、回復後に前より強くなる現象。通称"超回復")


「私は魔王様の……広告代理店、販路拡大部長だぞ! 筋肉などどうなっても。こ、こんなもの……」

しかし、デン・スリーの震える手は針をつかんだまま止まって動かない……。


「魔王と筋肉、どちらを信じるのかしら? 今なら団子とお皿のセットを毎月1000セット注文するだけで許してあげるわ」


震える手が、ガクリと地面に落ちる。

「……ま、参りました」

筋肉が魔王に勝った瞬間に立ち会ってしまった。


「ふふふ、陶芸家に凝りはつきものよ。針治療くらいできなくちゃ、ね」

勝ち誇った笑みを浮かべ、備前さんは極細の針を高らかに掲げる。


ていうか、この世界の鍼治療、……すごすぎない?


カタカタカタ、タターン!

カタカタカタ、タターン!

カタカタ、タンターン!


敵の魔法は無常にも、うざい打鍵音を撒き散らしていた。


……いつのまにかエンターキーニ回押してるんじゃねーよ。空白行の多いポエム系ブロガーか。

エンターキー二回押しの人が隣にいるとタイピングしにくくなります。


感想・コメントお待ちしております!


2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

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