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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第13章 ドッペルゲンガーと伝説の六古窯編
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魔王広告代理店の幻のあとはマッチョ魔導士の雷地獄で真打登場

偽ルルドナを倒したようですが、まだ敵は残っているようです。

偽ルルドナが消えたあと、残っていた俺の幻を睨みつける。


……しかし様子がおかしかった。


「ありえない……! そんな醜い兜を女性にプレゼントするなんて……! ぐわああぁ!」

いや、お前も苦しむんかい!


苦しみながらなんと……偽ルルドナと同じように、消えていった。


いや、よっわ。

俺の偽物よっわ。


***

「終わったのか……?」

異変が起こったのは、そうつぶやいた後だった。


敵は霧のように消えたが、……ホンモノの霧が出てきた。


「おい、この霧、変だぞ……」スラコロウは辺りを警戒する。

大量の霧に視界がほぼ遮られる。


霧は深く、前に伸ばした手の先も見えない。

周囲が見えなくなる。隣にいたはずのスラコロウすら見えない。しばらく何もできないでいると、スラコロウの声がした。


「ようやくわかったぞ! 幻よ消え去れ! クリアランス・フール!」

〈シュワワワワ〉


霧が消えていき、視界がひらける。

完全に霧が晴れると、丘の下に広がる建物も、村人も……何もかも消えてた。


まるで、映画の撮影スタジオのセットが片付けられた後みたいに、何もなくなっていた。

無機質な家と道があるだけ。


「スラコロウ、お前の魔法……強すぎ」

「ちがう、村ごと幻覚魔法だったんだ! 偽物は人だけじゃなかった! 村全体だったんだ!」


「俺やルルドナだけでなく、村も?」

「そうだ! 幻覚を見せられてたんじゃない! 大規模幻覚魔法村まで連れてこられてたんだ! 広告チケットは幻の村まで誘うきっかけに過ぎなかったんだ!」


そうか、俺を追い出したみんなも、全部……幻だったのか。


唖然としつつも、深く胸を撫で下ろす。


しかしその安堵に浸る暇もなく、図太い声が響く。


「よくぞこの大規模幻覚魔法を見破った!」

霧が消えて出てきたのは、高さ2メートルはあろうかという、筋骨隆々のパッツンパッツンのタンクトップを着た、魔法の杖を持ったゴブリンだった。髪型は……まさかのツーブロック。


「キャラ、統一しろよ!」

俺のツッコミを無視して、杖を高く掲げ声をあげる。


「我は魔王直属広告代理店のデン・スリー! 毎日筋トレを欠かさない、肉弾戦もいける万能魔法使い! ベンチプレスは150キロ!」


「殴り魔か!」(※殴り魔:魔法使いのくせに物理攻撃ステータスばかり鍛えて相手を殴って倒す奴。たまにネトゲの中にいる)


「三号店がやられたようだからな! 万能サポートの私が、罠を作ったのだ! お前らが山から降りてきたのは、故郷の村じゃない!」


「ここにいたのはすべて幻だったのか?」


「正確には、広告用に作られた大規模魔法装置だ! 理想の生活をお前の記憶から作り出し、孤独にさせる! ついでに魔王モールブランドの撮影もするのだ!」


「そういう悪趣味なことを、異世界でするな!」


「がっはっは。調子のいい転生者だ。ともかくここでくたばれ! 理想の電撃営業マン(ライクハードワーク)!」


デン・スリーが召喚したのは、雷のような光に包まれた、光る人型の魔物。


グレーの半ズボンに黒のハイソックス。パッツンパッツンの白いワイシャツ。髪型は……きれいな七三!

……お前もキャラ迷子か!


「電気信号を極大まで増幅し高速な動きが可能だ! 駆け込み乗車で失敗する確率は0%だ!」


***

雷の化身は、あまりに素早く動くため、俺は翻弄されてしまった。


敵が仕掛けてきたのは――目にも止まらぬ速さの反復横跳び。

なぜその動きなのかは謎だが、全然目で追えない。


というか俺の目が追っていないのに兜が妙に追跡するから、首があちこちに引っ張られて痛い。

(※ハニワの兜には、攻撃を自動で防御してくれる迎撃機能がある)


しかし変な姿勢になりつつ、すべての攻撃を防ぐ。

「お前やるな! オイラは攻撃魔法使えないからよろしくな!」

茂みの中に隠れるスライム。


俺の(ハニワ兜の)意外な防御にデン・スリーが苛立つ。

「これでは埒が明かないな……。もういい! 雷で消し炭になってしまえ! サンダールート!」

〈ゴゴゴゴゴ!〉

杖に光が集まる。凝縮され、まるで結晶のように集まっていく。同時に黒い雲が彼の頭上に集まり出す。


あまりに巨大なそれに、俺は思わず体を引く。


スラコロウが茂みから解説をする。

「あれは、空間に強制的に雷の通り道を作り空から雷を呼び寄せ相手にぶつける技! 天気が変わるぞ! 気をつけろ!」


先程までいい感じの雲一つない夕焼け空だったのに、どんどん黒い雲が集まってくる。


「ちょ、天気を変えるなんて、こんな辺境の場所で使う魔法じゃないって」


光は空を裂き、天を貫き、黒い雲の中心へ。

稲妻の前兆が、視界の端から端へ、静かに広がっていく――。


「がっはっはっは! 最後まで調子のいいやつだ! 今週の飲み会のネタにしてくれるわ! くらええ!」

光の筋が俺の頭に狙いを定めるように集まっていく。避けても避けてもついてくる。


雷鳴が何度も鳴り響き、そのたびに巨大化し、俺に向かって巨大な雷が放たれる。

――あ。もうこれだめ。ほんとうにだめ。


最後に見た、ルルドナの顔。

幻の顔ではなく、本物の顔を見て死にたかった。

完全に諦めモードになる。


――次の瞬間、意外な人物の声が空からふってきた。


「よく頑張った! あとはお姉さんにまかせなさいっ!」

〈ドゥン!〉

空から巨大な皿が振ってきた。

それは、直径10メートルはあろうという、赤茶色の皿。


俺の頭に突きつけられた光の道を遮る。


これは――備前焼!

そう気づいた瞬間。

〈バリバリバリ!!〉


轟く雷鳴。まばゆい光。振動する空気。あらゆるものが――震える。


だけど……、俺の方には全く届かなかった。

雷が収まり、俺は呆然と、巨大な皿の上にふわりと立つその人影を見つめた。


そこにいたのは……。

俺の命の危機をホラー映画のごとく面白がって聞いていた――お茶屋の娘だった。


「後輩くん、焼き物ってのはね、守るためにも使えるんだよ」

ピンチを救ったのは、なんとお茶屋の娘。


感想・コメントお待ちしております!


2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

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