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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第13章 ドッペルゲンガーと伝説の六古窯編
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ときにはダサい偽物の方に真実がある

ドッペルゲンガーの正体は? うまく打ち破ることはできるのか?

――思い出す。

金運を上げるために上った山。


そこの山頂の日の出の光は、透明、半透明なものを高級アイテムに変化させるという。

実際、俺はガラスの欠片を大量に変化させて、七色にした。


そして俺の隣にいるスライム。

青緑の半透明の物質。

こいつも、……半透明じゃないか!


「スラコロウ、お前、まさかあの時の光で」

「そうだ。オイラもあの光で変化してたんだ」

スラコロウは重々しい声で続けた。


「正確にはオイラじゃなくて、オイラの中にしまっていた広告が変化したんだ。広告の裏にある魔法陣、これが幻覚を見せる発動源だ! オイラたちはきっと、クタニの偽物を見せられていたんだ!」


スラコロウは器用に広告を破り捨てる。

「ということは、あれはドッペルゲンガーじゃなくて……幻覚魔法?」

「そうだ、幻覚魔法だ! きっと、お前の偽物がみんなをだましているんだ!」


ドッペルゲンガーじゃないなら3日経っても死なないってことか。

俺は胸を撫で下ろした。


***

――ホッとしたのもつかの間。

「みーつけた! ここだなぁ!」

気味の悪い声が空間を切り裂き、風の塊のようなものが横からぶつかってきた。


〈ズザァァーー!〉

何の警戒もしてなかった俺は風の塊をもろに受けて、勢いよく転がった。

「ぐっ……! こいつ、俺の偽物!」


偽物は何か風の魔法が使えるようで、俺とスラコロウに、強い風の弾丸をぶつけてくる。


「おい、これどうするんだよ。広告は捨てたのに幻覚はとまらないぞ!」


スラコロウは苦悩の表情を浮かべて言う。

「広告の魔法陣だけじゃない……この魔法、周到すぎる……どこから切り崩せば……!」


解呪に関しては強いスラコロウですら迷うほど、強力な幻覚。


……にしても、眼の前の偽俺は、随分とイケメンになっている。


サラサラの髪に、引き締まった顔、取れたての魚のような瞳。心なしか背も伸びている。

口元には余裕の笑みが浮かんでいる。


……くそ、自己肯定感の化身かよ。そんなの俺じゃない!


……一方の俺にあるのは、ハニワの兜だけ。


「でも、幻覚魔法ってわかれば、怖くない!」


俺は体当たりを仕掛ける。脚力だけが取り柄の、俺の全力技だ!


……が、ひょい、とよけられる。


「よけるな卑怯者!」

「よけないと、この美しい体に傷がつくだろ」


「俺と同じ顔でそんな事言うな! 身の毛がよだつ!」

「これが本来の美しい姿! お前こそが偽物だ!」

「キモすぎだー!」


再び闘牛のように突進する。この不思議なハニワの兜があればきっと決定打を与えられるだろう。

――しかしそこで、

〈ガシッ!!〉 


ハニワの兜を誰かにつかまれる。


「戦いの相手は、私がするわ」

――声の主はルルドナだった。


***

ルルドナは俺の体当たりを片手で止めた。


彼女の力は、異常だ。

重力魔法と合わせて攻撃してくる。

それをかいくぐってダメージを与えるには……。


重力魔法を使った瞬間、一瞬だけ隙ができるのを知っている。その瞬間、相手に攻撃すれば……!


だけど、魔法を使ってこない。兜を押さえつけられている。


「偽物にだまされるな! あれは幻覚だ!」俺が大声で言う。

「何言ってるの? 偽物はあなたでしょ?」ルルドナは平坦な調子で返事をする。


そのまま、硬直する。

しびれをきらした俺は、兜をつかまれたまま、相手に勝負を挑む。


ネットで見た、柔道の”内股”のまねをして倒しにかかる!


「柔よく剛を制す! くらえルルドナ!」


――しかし、俺は力を利用され投げ返される。

これは……”内股透かし”!


〈ドンッ!〉

あっさりと倒される。


ていうか、異世界のヒロインが柔道使うってどういうことだよ。


さらに、腕を掴まれたまま、再び背負われて――。

〈ドカン!〉


一本背負い。背中に強烈な衝撃が走る。


「おい、いったん下がれ!」

スラコロウが俺に声をかける。


いや、こんな強いやつから逃げるなんて無理だろ。


腕をがっちりとつかまれて抑え込まれている。


ルルドナの顔が、目の前に来る。

「そんな情熱的に腕をつかまれて見つめられると、惚れてしまいそうなんだけど」

「言ってなさい」


てっきり、照れると思いきや、冷酷な反応がかえってきた。

その表情はまるで、冷酷な鉄器職人のようだ。


それに――やはりその紅赤の頭には、何もつけられていない。


「おいあの兜、本当に捨てたのかよ」

「……そうよ」


真上から至近距離でにらみつけられる。


「本当に捨てたんだな? 俺が丹精込めて作った、……三日月の飾りのついた兜」

「そうよ。あんなの、ダサくてたまらないから捨てちゃったのよ」


――深紅の瞳。

こんな近くで誰かの目を覗き込んだことはない。


「よく、わかった」

「わかったのなら、大人しくやられることね」


でも俺は、まっすぐに睨みつける。

「……もう口を開くな、偽物」


その言葉に、偽ルルドナの動きが止まる。

俺を押さえつけていた手が緩む。

その隙に足を振り上げ、思い切り――頭突きをする。

〈ガツン!〉

「うっ……!」


彼女の腕をふりほどき、転がって距離をとる。


「偽ルルドナめ! お前も、偽物だな! あの兜には、三日月の飾りなんてついていない! 俺が贈ったのはこれと同じデザインの、ハニワの兜だ!」


俺は自分が被っているハニワの兜を指差す。


相手が初めてよろめく。

「……そ、そんなダサい兜をプレゼントするなんて……! ありえない……!」

「うるさい! 美的感覚なんてひとそれぞれだ!」


「そうだけど、その兜だけは、ない……!」

そう言い放つと、彼女は頭を抱え、苦しみながら霧のように消えていった。


夕暮れの赤い光が、黙って立ち尽くす俺の頬を照らしていた。

ルルドナすら幻だったようです。さて次はどうなる?


感想コメントお待ちしています!


2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!


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