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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第13章 ドッペルゲンガーと伝説の六古窯編
62/196

出来のいい偽物はいつもホンモノより周りに信頼されている

主人公とスラコロウが再び村に戻ってきたようですが……。

――その日の午後。

俺は追い出された村へ、こっそり入り込んだ。


話を聞いたお茶屋の娘は

「では、その偽物をぶっ倒してきてください。面白い話、期待してます!」

妙にニヤニヤしながら背中を押してきた。


……人生の一大事を、お茶屋の娘の好奇心のために動いていいのだろうか。


ともかく、来てしまったからには、やるしかない。


――俺は変装していた。

帽子とマスクで顔を隠し、完璧にバレないはずだった。

スラコロウはリュックに詰めてある。


「あれ、クタニさん? こんなところでどうしたんですか?」

いきなりイゴラくんに話しかけられた。


――速攻でバレた。


「いやぁ……ちょっとこの村を散策してね。芸術心をくすぐるものを探してさ」

誤魔化すつもりだったが、挙動不審さは隠せない。


「それならボクのパンはどうです?」

風呂敷を広げて見せるイゴラくん。そこにはレンガパンをはじめ、多様なパンが並んでいた。


「……なんでそんなにパン持ってんだよ! 売れ残り? いや、まだ午後3時だぞ?」


「いや、ちょっと……居づらくて」

「居づらい?」


「なんだか、ボクがいない間に……村の雰囲気も、みんなの美意識も変わってて」

それはきっと、偽物の俺のせいだ。


「人も世界も変わるものだよ」

「そうじゃなくて……うーん、もしかして、俺が一番変わってた?」


「……その通りです! なんだか小綺麗になって、態度もスマートで。あ、でも今日は普通ですね」

マスクと帽子で隠しているのに“普通”と言われた。


「……」

俺は黙って、それらを外す。


そして、自分の店の方を見つめる。


「今日から、普通に戻るさ」


どちらにしろ、行くしかない。奪われた場所へ。


今日、死ぬかもしれないのだ。

居場所を奪われた上に、命まで奪われてたまるか。


「明日になれば、すべて戻っているから。家で休んでいなさい」

カッコつけてイゴラくんを帰らせた。


**

「――で、何でまた村の隅っこで座り込んでんだよ」

スラコロウが言う。


――ここは村の端。

小さな雑草の中に可憐な花が咲いている。


「心の準備が……」

「……こりゃ、今日死ぬな」

潔いスライムである。


「ああ、もう……いきなりドッペルゲンガーだなんて、呪われたのかな」

「呪いはないぞ」

スラコロウがじっと俺をスキャンする。


「じゃあ、心霊現象か……?」

「もう、いいからぶっ倒しに行こうぜ!」


そうだ。理由なんて、あとでいい。とにかく倒せばいいんだ。


「ちょ、ちょっと待って! 粘土をこねて精神を整えさせてくれ!」


俺は前回、かなり強いハニワの兜を作っていた。

なんと四天王の2割の攻撃を防げるという(当社比)。


「よし、できた!」

それを被り、いざ出発。


「……お前、それ本気か?」

「何が?」

ハニワがバンザイしてるようなデザインの兜を装備して、俺は進み出した。


**

これから来る俺が、本物だ。

すべてが偽物になったとしても、俺が世界の中心になってやる。


支離滅裂な決心をし、酒を飲みながらふらふらと坂道を登る。

「また酒かよ……」

「うるせえ。ドッペルゲンガーを倒すんだよ」


昼前に出たのに、決戦の地に着いたのは夕暮れだった。


そして、俺は驚愕する。

――店が、閉まっていた。


『ライフワークバランスのため、夕方4時に閉店します』


自営業の風上にも置けない張り紙だった。

しかも、窓のデザインも変わっていて、まるで高級な児童施設のようだ。


「好き放題やりやがって……」


〈バンッ〉

いきなり扉が開かれる。

現れたのは、赤い土人形。


――ルルドナだ。


俺は思い切って彼女に向かっていき、顔を近づけて見せる。

「わかるだろ? 君が一緒にいたのは偽物だ。俺が本物だ」


震える足、落ち着かない心。

けれど、俺の顔を見ればきっと――


「あなたが……皆が言っていた“偽物”ね」

〈ドンッ〉

……殴られた。

酔いは一気に醒めた。


ハニワ兜がなければ危なかった。

けれど、その衝撃より、彼女のその言葉のほうが、きつかった。


それに――。

彼女の頭には、俺がプレゼントしたハニワの兜がなかった。


「ルルドナ、俺のあげた兜は?」

「兜? ……そんなもの、とっくに捨てたわよ」


俺は無言で立ち上がり、踵を返した。


**

――村の片隅。

「で、作戦あるのか?」スラコロウが尋ねる。

「……寝込みを襲う」俺が端的に答える。

「悪役じゃんそれ」

「勝てば官軍だ」


でも、彼女に殴られたのは……痛かった。

スラコロウが尋ねる。

「なあ、ルルドナって、まだこの世界に生まれたばかりなんだろ? いくらダサくても、生まれて初めてもらったプレゼントをすぐに捨てるって、おかしくないか?」


「……確かに。不自然だ」

頬が痛んで、それ以上考えが続かない。


「それに、兜のことを話された時、明らかに動揺してたぞ」

「つまり、何かが“おかしい”んだ」


「そもそも幻覚魔法とか呪いとかは?」

「見た限り、かかってなかった」


「じゃあ、自分の意志で、偽物に心を動かされた……?」

「……そうかもしれない。だけど、考えすぎるな」


けれど──。

あれが本当にルルドナだろうか?


「まさか……ルルドナも偽物って可能性は?」

「……その可能性、あるな」スラコロウが応える。


俺を、あんなふうに殴るなんて――本物のルルドナじゃない。

でも――。

「……俺、甘えてたのかもな」

立場に。環境に。


でもそれでも、自分が信じたものを貫き通したい。


俺がしんみりしていると、スラコロウが飽きた様子で転がり出す。

「あーもう、さっさと終わらせて鍼灸治療受けに行きたい……」


彼は体からチケットを取り出す。

体に、アイテム収納機能がついているようだ。


「って、おい、なにそれ……!?」


その広告の裏には、魔法陣のようなものが浮かび上がっていた。


まるで炙り出しのように。

それを見たスライムが驚愕の表情をする。


「これ……幻影魔法の術式に似てる……。もしかして……」

いつもハキハキしているのに、珍しく言い淀む。


「おい、いいから早く言えよ」

「……お前の偽物、オイラのせいかもしれない」

スラコロウはいったい何をしてしまったのだろうか……。


感想コメントお待ちしています!


2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

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