表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第13章 ドッペルゲンガーと伝説の六古窯編
60/232

居場所は借金してでも手に入れろ

【あらすじ】借金で丘の上の屋敷を買って雑貨屋を始めたクタニ。魔王モールからルルドナを取り戻し、帰り道、男を上げ金運を上げると言われる山にイゴラくんと登り、スラコロウを仲間にし下りてきたが……。

 ――眠気と闘いながら山を降りる。


 山登りを終え、確かに男として一段階上がったような気がする。

 ……単に寝不足の妙なテンションになってるだけのような気もするが。


 「やっと、戻ってきたな」

 スロウタウンの脇を通り抜け、丘の上の自分の店に向かう。


 レンガの塊から戻ったイゴラくんは、いったん家に帰ってもらった。今日のところは休みを与えた。というか俺も休む。


 店の外見はすっかり直っていた。どうやらシュワルツさんの部下が素早く修理してくれたようだ。看板はまだないままみたいだけど。


(……領収書とかきてないよな。無料だよな)


 心配しつつ歩を進めると、スラコロウが声を上げる。

「お、いい感じの店だな! 給料もよさそうだな!」

「スライムのくせに意外と口うまいな……善処するよ」

 口がうまいのはこういう個人店には強い味方になる。真面目にやれば、の話だが。


 これはさらに良い感じの経営ができそうだな、と期待しながら懐かしのわが店の扉を開ける。

「ただいまー」

 ああ、なんだか心地よい響きだ。ただいまなんて少なくとも十年は、言ってないぞ。


 ――しかし、気分よく店に入ったが、そこには存在しえない存在がいた。


 そこには――俺がいた。いるはずのない俺が、いた。


「は?」

 そこにいたのは明らかに俺だった。

 だらしない服装、頼りない背中、死んだ魚のような目。


「てんちょーが二人……?」

 カウンターの向こうで店番をしていたスコリィが口をぽかんとあける。

 向こうの俺も驚いたようにこちらを見ている。


「な、なんだ? なんでまた俺が帰ってくるんだ……?」偽物が名演技をする。

「おいちょっとまて、この俺こそが本物だ。ほら、スライムのスラコロウも連れてきたぞ」

 俺はスライムを全面に出す。


 目を丸くしてスコリィが俺らを何度も見比べる。

「そんなのいきなり連れてきてもわからないっす……」

 確かにそうだ。

 にしても間近に並んでいるのに、目のいいピクシーをもってしても偽物と本物の見分けがつかないらしい。


 店には、ほかに誰もいない。

 ルルドナの姿も見えない。もう昼間だから。


「いいから出ていけ偽物!」

 〈ドンッ〉

 俺は疲れているからか、つい暴力的にふるまってしまう。

 山を夜通し歩いて帰ってきたのだ。無理もない。


「いったた……。やったな! 偽物!」

 偽物が睨みつける。


「馬鹿なことを言うな! お前が偽物だろう! 変な演技していないで出ていけ!」

「こっちが本物だ! お前が出ていけ!」


 その後も、平和な丘の上の雑貨屋から、泥沼のような言い争いが続いた。


 ***

 結局、放り出されたのは、後から来た俺だった。


 ――そもそも、てんちょーはそんな暴力しないっす!

 スコリィの言葉がきいた。

 そう、俺は本来暴力なんてしないのに、なぜ相手を突き飛ばしたのだろう?


「お前も分裂できるんじゃないのか?」

 サイコロ状の体をいくつも分裂させ、戻る、という分裂動作を繰り返す。


「スライムとは違うよ……」

 スラコロウは頭は悪くない。そういうは無理だとわかっているはずだ。

 もしかしたら慰めてくれているのかもしれない。


 ――平日の昼間。

 俺は村の片隅の目立たない花壇のふちに腰掛ける。花壇には雑草がたくさん生えている。


 スラコロウはついてきてくれた。

 というか彼自身、この俺に雇われたのだから、こっちに来るしかないだろう。


 店とは反対の方に来て彼とサンドイッチを食べていた。

 またしても涙味である。塩気が効いてちょうどいいぜ。


 だけど……この流れはどこか経験がある。


 自分が築き上げた信頼をほかの人間が持っていくのだ。


 そして本物なのに追い出される。

 さらには自分自身が本物かどうかわからなくなり、実力さえなくなって……また、一人になる。

 ……いつも、このパターンだ。

 何年も、何十年も繰り返してきた。

 あれ、でもどこの経験だ……?


 ともかくはっきりしていることは。

「……みじめだ」

 ということ。

 その様子を見たスラコロウが質問してくる。

「ていうかお前、本物なんだろう? 何でそんなに自信ないんだ?」

「自己肯定感がめちゃくちゃ低いんだよ、俺」


 花壇の雑草を見ながら言う。

 たぶん俺はこの雑草より自己肯定感が低い。


「なんだそれ。自分で自分のこと肯定しないで誰が肯定するんだ? そんなんじゃアメーバになっちまうぞ」

 体が硬いことが悩みのスライムのくせに……、とツッコミたいのを我慢する。


「人間は、大変なんだよ」

「それは種族差別だぞ! 異世界国際法上では有罪だ!」


「……ていうかスラコロウ、田舎育ちなんだからそういうの知らないだろ?」

「逆だ! 田舎者は都会のことはよく知らないけど、本を読んで国際的なことはよく知っているんだ!」

 妙な説得力。


「『井の中の蛙大海を知らず、されど大空を知る』というやつだ!」


「あ、それわかる。俺もそうだった。でも……言ってて虚しくならないか?」

「……なるな」

 村の隅の花壇に座る田舎者二人で見上げた空は、吸い込まれるように晴れ渡っていた。


***

「で、昼間っからこんなところで酒飲んでるのかい」

 呆れたマリーさんの声。買い物帰りという彼女に出くわした。オーガ族のがっしりした女性。


 俺とスラコロウは、サンドイッチを食べ終わると、そのまま酒を買ってきて、一杯やり始めていた。

 午後三時。子どもがおやつを食べる時間。


(知り合いの村人と久々に会う姿が酔っ払っている姿とは、我ながら、……悪くない!)


「呑まずにいられますか! どうですマリーさんも! ピンクコボルトの婦警さんも呼んで! 雑草の花を見ながら、花見をしましょう!」


 俺は花壇の端っこに生い茂っている、ムラサキカタバミに似た植物を愛でながら言う。


「あんたとは飲んでみたいけど、まだまだ仕事があるからね」

「ええー、つれないですよぉ」

 へべれけになってからむ。

 我ながらうざい。小さい「ぉ」なんて初めて発音した。


 呆れて、ため息をつくマリーさん。

「まぁ、たまにはいいんじゃない。あんたは、結局、羽目を外しきれないだろうけどね」

 年の功なのか、すぐに見抜かれる。


 マリーさんは「ほどほどにしときなよ」といって去っていった。

 俺は酔いが冷めそうになるのを抑えて、手に持ったおちょこの酒を飲み干す。


「おかわり〜」

 上機嫌に俺が言うとスライムは転がりまわって喜ぶ。

「お前はヒト族なのにいける奴だな!」


 スラコロウは、酒と焼き鳥の串をぽいっと口(?)に放り込みながら、上機嫌に言った。

 こいつはお酒が大好きなようだ。次々と飲み干し、魚の骨や焼き鳥の串まで食べている。


「串まで食ってる! スライムはいいなあ! お前、色々食えるんだな!」

「ああ、紙でも木でもなんでも食えるぞ」

「俺の作品は食うなよ!」

「ガラス質のものは食いたくねえなあ。金属はいけるぜ!」

「金属いけるのか! すげえな! 伝説の剣も食っちまえ! でもお金だけは食うなよお! はっはっは」


***

 日が沈んで肌寒くなったので、俺は居酒屋へ向かう。

 窓から席が空いているか軽く覗き込んだら……悪夢が見えた。


「え、あれ、俺? ていうか、みんな?」

 慌てて首を引っ込める。

 そしてこっそりと覗き込む。

 ルルドナ、スコリィ、イゴラ、ペッカ、ガディまで。みんな勢揃いだ。


 めちゃくちゃ仲良く飲んでいる。ってマリーさんやピンクコボルトの婦警さんまで……。

 周りの村人も歓迎しているようだ。


「……確かに俺だ。そりゃそうだ、飲むよね。ルルドナ、取り戻したし」

 俺は酔いが覚めるどころか、脳の奥からすっと血の気が引く。


「お前、顔色やばいぞ」スラコロウが心配そうに言う。

「……きっと、お酒飲み足りないんだ……」

 身を低くしたままその場を離れ、酒を大量に買った。

 ――やけ酒。

 夜通し村の端っこで飲み続けることにした。ああ、月が綺麗だ。


「……居場所ってのは、借金してでも手に入れるもんなんだな」


「まあ俺、100億も借金あるけどな! それでも居場所はない! はっはっは!」

 ヤケクソでその場をぐるぐると回る。完全に悪酔いしている。


 スラコロウが同情したように言う。

「まあ、……座れよ」

「どこに?」

「オイラに」

「お前にかいっ!」

 そんなやり取りをしながら夜は更けていった。


 ***

 ――明け方。

 ふらふらと村の外を歩いていた。深夜すぎに、誰かに追い出された。


 誰が追い出したのかも、いつ村を出たのかも覚えてない。


 ただ、温かい居酒屋の中の笑い声だけは、ずっと耳に残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ