一度信じたら信じ通すのが心意気~異世界では男だってお姫様抱っこされてしまう~
ルルドナはゴミ山から脱出することはできるのでしょうか? そしてクタニは、月見草をみつけることができるのでしょうか?
***(ルルドナ編継続中:三人称)
ガタン、と体がきしむ。欠けた破片が土に落ち、動きはどんどん鈍くなっていく。
もう、腕を伸ばしても数センチしか進めない。
静まり返るゴミ山。夜風が湿った鉄の匂いを運び、ガラクタたちの影が長く伸びる。
その視線の先で、土人形のルルドナは小さく息をついた。
長いあいだ眉をひそめていた木の人形が、ぼそりと吐き捨てる。
「……ちっ、しゃあねぇ。力貸してやるか。おい、立て、みんな」
「へい!」
「おいっす!」
「寿命は縮むかもしれねぇが、腐って生きるくらいならマシだろ」
足の折れた椅子、背のないソファ、割れたベッド。無言でルルドナの背後に並び、軋む音を立てながらうなずく。
「……え?」
「言うな。あんたの必死さ、こっちまで響いたんだよ」
ざらついた声に、仲間たちも体をゆらして同意する。
やがて全員の体から淡い光がにじみ、ルルドナを包んだ。
――白く滲む視界の奥で、何かが変わっていく。
**(主人公視点:一人称)
俺は森の中にいた。
「月見草、月見草……」
日が沈む前に、あの崖まで行かなければ。
木々の隙間から崖の縁に出る。眼下に深い闇、その縁には月光を溶かしたような黄色い花々が群れていた。
葉の表面が濡れた絹のように光り、根元には小さな丸い塊――まるで掌サイズのカブだ。
「念のため、多めに……」
つい欲が出る。だけどそれが善くなかった。
三つ目を引き抜いた瞬間、背中に硬い衝撃。
〈ドンッ!〉
足が滑る。
視界が、ぐらりと傾く。
バランスを崩したところで、さらなる衝撃。
〈ドンッ!!〉
尻への強い衝撃。
50メートルはあろうかという崖から、勢いよく放り出される。
空中。はるかしたの地面を見る。
思わず息を止める。
(あ、これ、死んだかも)
きれいに落ちていく。
空気が頬を叩く。
〈パリーン!〉
砕ける音が耳に響く。
「……ん? 人間の砕ける音じゃねぇな」
声の方を見上げると、俺は誰かに抱きかかえられていた。
「クタニ、無事?」
「え……ルルドナ?」
赤いオーラをまとった少女が、静かに俺を抱きかかえていた。
彼女は俺を安心させるように、力強くほほえむ。
その目を見つめ、俺もゆっくり、頷く。
――お姫様だっこされながら。
***
「大丈夫そうね。ほら、自分で立って」
ルルドナは安心した表情を浮かべ、地面に立たせる。
体についた土埃を払って、ルルドナを色んな角度から眺める。
不思議な赤い、魔力のオーラをまとっている。
(受け止められたとき、ほとんど衝撃がなかった。魔法を使ったのか……?)
「おっほん! その手に持っているが月見草だな?」
声をかけて来たのは、依頼人の爺さんだった。
「そうですけど。あれ、なぜあなたがここに?」
「なぜもなにも、ここはお前さんの店のすぐ横じゃ」
爺さんの指の示す先を見ると、少し離れた位置に我が店があった。
「……なるほど、森を歩いていたらいつの間にか裏手の崖に出ていたのか……」
手に握っていた3つの月見草のうち、1つを爺さんに渡す。
「何はともあれ、これで間に合いますか?」
「ああ、十分じゃ」
ほれ、と分厚い何かの入った封筒を差し出す。封筒の中に入っていたのは、100枚以上あろうかという札束だった。
「こんなに受け取れません」
「ふん、金ならたくさんある。ともかくワシは月見の準備で忙しい。受け取らんと……ここで腹を切るぞ!」
「え、それは困ります! 通報されますよ!?」
「……ふん。まあいい。ありがとよ」
江戸っ子風の爺さんは、足早に去っていった。
「ふう、ともかくルルドナ、どうしてそんな姿に?」
「わからない。だけど、ゴミ山のみんなが力をくれたの」
「ゴミ山?」
「そう。私はいつの間にかゴミ山にいたの。クタニ、私を捨てたりしてないよね?」
「もちろん。ずっと探してたんだ」
「夢の中で、ほかの木材と一緒に捨てられる感じがした」
ほかの木材? あごに手を当て考える。
「……ああ、きっとリフォーム業者さんが間違って捨てたんだな……」
「じゃあ、今度から捨てられないようにしておいて。私、いくら頑張っても、昼間は意識を保つことができないみたい」
「今度から気をつけるよ。特別な場所に祭っておくよ」
こちらの冗談めいた言葉に、返事にうれしそうに笑顔を作るルルドナ。
「……ところで、なぜ崖から落ちてきたのよ?」
彼女の質問に、俺は崖の上を見上げる。
「何かに、突き落とされた。もしかしてモンスターか?」
「そうかもね。クタニは悪運強そうだから、今度から明るくても一人では森に入らないことね」
「まあでも一応家の中に戻ろう。今日は色々と疲れたよ」
「そうね。お店のためすることもたくさんあるし」
***
その日の夜。満月のきれいな夜空。
「ごめんください」
のんびりと満月を見ながらゆっくり粘土をこねていたら、また、客が来た。
「いらっしゃいー」
俺はルルドナによくわからない土器を作らされていたので、気のない返事をしてしまう。
コンビニの店長がいたら怒鳴られるところだ。
「ここに月見草があると聞いたのですが」
夜に来たお客は、またもやフードを深く被っていた。だけどイゴラくんではない。背がすらっと高く、何と言っても女性の声だ。
「おお、ありますよ」
棚の一番上に飾り付けた月見草を指差す。
「ホントだ! ですけど、お金が少ししかないんです。でも今夜のうちにどうしてもほしくて……、あの、残りの代金は後払いにできますか?」
彼女が差し出したのは数枚の紙幣。
あの爺さんは約100万も出してくれた。
にしても100万は高過ぎだと思い、満月の夜は80万で売り出していた。
フードの奥に見えた瞳は、どこか悲壮な雰囲気をまとっていた。
――俺は昔から、この目に弱い。
さて、どうするか。
信じるだけ、とはつらいものです。
ルルドナはその純粋な信じる心で戻ることができましたね。
ひとまず、月見草のクレーマー爺さん編は一件落着です。
さて、主人公は謎の人物の値下げを受け入れるのでしょうか。
2025.5.7 ルルドナの不自然なシーン修正しました。
2025.8.9 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!
2025.8.13 タイトル微変更しました!
~アイテムメモ~
月見草:適正価格80万円。満月の夜に食べるとどんな病気も治してくれるらしい。
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