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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第3章 クレーマー爺さんと捨てられた人形編
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一度信じたら信じ通すのが心意気~異世界では男だってお姫様抱っこされてしまう~

ルルドナはゴミ山から脱出することはできるのでしょうか? そしてクタニは、月見草をみつけることができるのでしょうか?

***(ルルドナ編継続中:三人称)


ガタン、と体がきしむ。欠けた破片が土に落ち、動きはどんどん鈍くなっていく。

もう、腕を伸ばしても数センチしか進めない。


静まり返るゴミ山。夜風が湿った鉄の匂いを運び、ガラクタたちの影が長く伸びる。

その視線の先で、土人形のルルドナは小さく息をついた。


長いあいだ眉をひそめていた木の人形が、ぼそりと吐き捨てる。

「……ちっ、しゃあねぇ。力貸してやるか。おい、立て、みんな」

「へい!」

「おいっす!」

「寿命は縮むかもしれねぇが、腐って生きるくらいならマシだろ」


足の折れた椅子、背のないソファ、割れたベッド。無言でルルドナの背後に並び、軋む音を立てながらうなずく。

「……え?」

「言うな。あんたの必死さ、こっちまで響いたんだよ」

ざらついた声に、仲間たちも体をゆらして同意する。


やがて全員の体から淡い光がにじみ、ルルドナを包んだ。

――白く滲む視界の奥で、何かが変わっていく。


**(主人公視点:一人称)


俺は森の中にいた。

「月見草、月見草……」

日が沈む前に、あの崖まで行かなければ。


木々の隙間から崖の縁に出る。眼下に深い闇、その縁には月光を溶かしたような黄色い花々が群れていた。

葉の表面が濡れた絹のように光り、根元には小さな丸い塊――まるで掌サイズのカブだ。

「念のため、多めに……」


つい欲が出る。だけどそれが善くなかった。


三つ目を引き抜いた瞬間、背中に硬い衝撃。


〈ドンッ!〉


足が滑る。

視界が、ぐらりと傾く。


バランスを崩したところで、さらなる衝撃。


〈ドンッ!!〉


尻への強い衝撃。

50メートルはあろうかという崖から、勢いよく放り出される。

空中。はるかしたの地面を見る。


思わず息を止める。

(あ、これ、死んだかも)


きれいに落ちていく。

空気が頬を叩く。


〈パリーン!〉

砕ける音が耳に響く。


「……ん? 人間の砕ける音じゃねぇな」

声の方を見上げると、俺は誰かに抱きかかえられていた。


「クタニ、無事?」

「え……ルルドナ?」

赤いオーラをまとった少女が、静かに俺を抱きかかえていた。


彼女は俺を安心させるように、力強くほほえむ。


その目を見つめ、俺もゆっくり、頷く。


――お姫様だっこされながら。


***

「大丈夫そうね。ほら、自分で立って」

ルルドナは安心した表情を浮かべ、地面に立たせる。


体についた土埃を払って、ルルドナを色んな角度から眺める。

不思議な赤い、魔力のオーラをまとっている。


(受け止められたとき、ほとんど衝撃がなかった。魔法を使ったのか……?)


「おっほん! その手に持っているが月見草だな?」


声をかけて来たのは、依頼人の爺さんだった。

「そうですけど。あれ、なぜあなたがここに?」


「なぜもなにも、ここはお前さんの店のすぐ横じゃ」

爺さんの指の示す先を見ると、少し離れた位置に我が店があった。


「……なるほど、森を歩いていたらいつの間にか裏手の崖に出ていたのか……」


手に握っていた3つの月見草のうち、1つを爺さんに渡す。


「何はともあれ、これで間に合いますか?」

「ああ、十分じゃ」


ほれ、と分厚い何かの入った封筒を差し出す。封筒の中に入っていたのは、100枚以上あろうかという札束だった。


「こんなに受け取れません」

「ふん、金ならたくさんある。ともかくワシは月見の準備で忙しい。受け取らんと……ここで腹を切るぞ!」


「え、それは困ります! 通報されますよ!?」


「……ふん。まあいい。ありがとよ」


江戸っ子風の爺さんは、足早に去っていった。


「ふう、ともかくルルドナ、どうしてそんな姿に?」

「わからない。だけど、ゴミ山のみんなが力をくれたの」


「ゴミ山?」

「そう。私はいつの間にかゴミ山にいたの。クタニ、私を捨てたりしてないよね?」


「もちろん。ずっと探してたんだ」

「夢の中で、ほかの木材と一緒に捨てられる感じがした」


ほかの木材? あごに手を当て考える。

「……ああ、きっとリフォーム業者さんが間違って捨てたんだな……」

「じゃあ、今度から捨てられないようにしておいて。私、いくら頑張っても、昼間は意識を保つことができないみたい」

「今度から気をつけるよ。特別な場所に祭っておくよ」


こちらの冗談めいた言葉に、返事にうれしそうに笑顔を作るルルドナ。


「……ところで、なぜ崖から落ちてきたのよ?」

彼女の質問に、俺は崖の上を見上げる。


「何かに、突き落とされた。もしかしてモンスターか?」

「そうかもね。クタニは悪運強そうだから、今度から明るくても一人では森に入らないことね」


「まあでも一応家の中に戻ろう。今日は色々と疲れたよ」

「そうね。お店のためすることもたくさんあるし」


***

その日の夜。満月のきれいな夜空。


「ごめんください」

のんびりと満月を見ながらゆっくり粘土をこねていたら、また、客が来た。


「いらっしゃいー」

俺はルルドナによくわからない土器を作らされていたので、気のない返事をしてしまう。

コンビニの店長がいたら怒鳴られるところだ。


「ここに月見草があると聞いたのですが」

夜に来たお客は、またもやフードを深く被っていた。だけどイゴラくんではない。背がすらっと高く、何と言っても女性の声だ。


「おお、ありますよ」

棚の一番上に飾り付けた月見草を指差す。


「ホントだ! ですけど、お金が少ししかないんです。でも今夜のうちにどうしてもほしくて……、あの、残りの代金は後払いにできますか?」


彼女が差し出したのは数枚の紙幣。

あの爺さんは約100万も出してくれた。

にしても100万は高過ぎだと思い、満月の夜は80万で売り出していた。


フードの奥に見えた瞳は、どこか悲壮な雰囲気をまとっていた。


――俺は昔から、この目に弱い。


さて、どうするか。

信じるだけ、とはつらいものです。

ルルドナはその純粋な信じる心で戻ることができましたね。

ひとまず、月見草のクレーマー爺さん編は一件落着です。

さて、主人公は謎の人物の値下げを受け入れるのでしょうか。


2025.5.7 ルルドナの不自然なシーン修正しました。

2025.8.9 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

2025.8.13 タイトル微変更しました!


~アイテムメモ~

月見草:適正価格80万円。満月の夜に食べるとどんな病気も治してくれるらしい。


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