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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第3章 クレーマー爺さんと捨てられた人形編
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一度信じたら信じ通すのが心意気~異世界では男だってお姫様抱っこされてしまう~

【あらすじ】ルルドナはゴミ山から脱出することはできるのか? 爺さんに月見草を探すように依頼されたクタニは、無事に見つけることができるのか?


【登場キャラ】

・クタニ(主人公):若返り転生おっさん。中身はハニワオタク。屋敷と山を購入し、借金生活。雑貨屋店長。

・ルルドナ:クタニの作ったハニワから生まれた少女。強気だがやや抜けている。昼に強制的に寝てしまう夜勤担当。

・イゴラ:ミニゴーレム少年。最初の客。

 ***(ルルドナ編継続中:三人称)


 ガタン、と体がきしむ。欠けた破片が土に落ち、動きはどんどん鈍くなっていく。

 もう、腕を伸ばしても数センチしか進めない。


 静まり返るゴミ山。夜風が湿った鉄の匂いを運び、ガラクタたちの影が長く伸びる。

 その視線の先で、土人形のルルドナは小さく息をついた。


 長いあいだ眉をひそめていた木の人形が、ぼそりと吐き捨てる。

「……ちっ、しゃあねぇ。力貸してやるか。おい、立て、みんな」

「へい!」「オイッス!」

 足の折れた椅子、背のないソファ、割れたベッドがゆっくりと動きながら並ぶ。

「寿命は縮むかもしれねぇが、腐って生きるくらいなら、粋な奴のために命縮めたがマシだろ」


「……え?」

「言うな。あんたの必死さ、こっちまで響いたんだよ」

 ざらついた声に、仲間たちも体をゆらして同意する。


 やがて全員の体から淡い光がにじみ、ルルドナを包みこんだ。


***(主人公視点:一人称)


 俺は森の中にいた。

(日が沈む前に、あの崖まで行かなければ)


 木々の隙間から崖の縁に出る。眼下に深い闇、その縁には月光を溶かしたような黄色い花々が群れていた。

 葉の表面が濡れた絹のように光り、根元には小さな丸い塊――まるで掌サイズのカブだ。

「念のため、多めに……」


 つい欲が出る。だけどそれが失敗だった。

 三つ目の月見草を引き抜いた瞬間、背中に硬い衝撃。


〈ドンッ!!〉


 50メートルはあろうかという崖から、勢いよく放り出される。

 ――空中。

 

 思わず息を止める。

(あ、これ、死んだかも)


 きれいに落ちていく。

 空気が頬を叩く。


〈パリーン!〉

 砕ける音が耳に響く。


「……ん? 人間の砕ける音じゃないな」

 おそるおそる目を開けると、俺は誰かに抱きかかえられていた。


「クタニ、無事?」

「え……ルルドナ?」

 赤いオーラをまとった少女が、静かに俺を抱きかかえていた。

「もう大丈夫よ」 

 彼女は俺を安心させるように、力強くほほえむ。


 その目を見つめ、俺もゆっくり、頷く。


 ――お姫様だっこされながら。


 ***

「大丈夫そうね。ほら、自分で立って」

 ルルドナは安心した表情を浮かべ、地面に立たせる。


 体についた土埃を払って、ルルドナを色んな角度から眺める。

 不思議な赤い、魔力のオーラをまとっている。


(受け止められたとき、ほとんど衝撃がなかった。魔法を使ったのか……?)


「おっほん! その手に持っているが月見草だな?」


 声をかけて来たのは、依頼人の爺さんだった。

「そうですけど。あれ、なぜあなたがここに?」


「なぜもなにも、ここはお前さんの店のすぐ横じゃ」

 爺さんの指の示す先を見ると、少し離れた位置に我が店があった。


「……なるほど、森を歩いていたらいつの間にか裏手の崖に出ていたのか……」


 手に握っていた3つの月見草のうち、1つを爺さんに渡す。


「何はともあれ、これで間に合いますか?」

「ああ、十分じゃ」


 ほれ、と分厚い何かの入った封筒を差し出す。封筒の中に入っていたのは、100枚以上あろうかという札束だった。


「こんなに受け取れません」

「ふん、金ならたくさんある。それにこれは満月の夜には万能薬じゃ。このくらいの価値はある。ともかくワシは月見の準備で忙しい。受け取らんと……ここで腹を切るぞ!」


「え、それは困ります! 通報されますよ!?」


「……てやんでぇ! いいから受け取っておきやがれ。……恩に着るぜ」


 急に江戸っ子風の口調になり、爺さんは足早に去っていった。


「ふう、ひとまず一件落着か。ルルドナ、どうしてそんな姿に?」

赤く光るオーラに包まれている。力にあふれている様子だ。

「わからない。だけど、ゴミ山のみんなが力をくれたの」


「ゴミ山?」

「そう。私はいつの間にかゴミ山にいたの。……クタニ、私を捨てたりしてない……よね?」


「もちろん。ずっと探してたんだ」

 そう答えると、彼女の顔が明るくなる。

「夢の中で、ほかの木材と一緒に捨てられる感じがしたんだけど……」


 ほかの木材? あごに手を当て考える。

「……ああ、きっとリフォーム業者さんが間違って捨てたんだな……」

「じゃあ、今度から捨てられないようにしておいて。私、いくら頑張っても、昼間は意識を保つことができないみたい」


「今度から気をつけるよ。特別な場所に祭っておくよ」

 こちらの冗談めいた返事に、うれしそうに笑顔を作るルルドナ。


 そこで、ようやく彼女の体の異変に気がつく。

「……って、おい、大丈夫か、その手!?」

 改めて見ると、ルルドナの右の手の先がなくなっていた。焼き物が割れたように、手首より先が割れている。


「うん、大丈夫。痛みは、ほとんどないの。また、修理してくれる?」

「ああ、もちろん。だけど……、どうしてこんなことに?」


「わからない。でも捨てられてないとわかったから、たぶんもう大丈夫」

「そう、なのか」

 安心して息をつく。

(また、土と薬草を練り込んで治療すればいいのか?)

 考え込んでいると、ルルドナが質問してきた。


「……ところで、なぜ崖から落ちてきたの?」

 彼女の質問に、俺は崖の上を見上げる。


「何かに、突き落とされた。もしかしてモンスターか?」

「今はもう気配はないけど、そうかもね。クタニは悪運強そうだから、一人では森に入らないことね」


「ともかく、家の中に戻ろう。今日は色々と疲れたよ」

「そうね。お店のため、することもたくさんあるし」


***

 その日の深夜。満月の登り切ったきれいな夜空。


「ごめんください」

 のんびりと満月を見ながらゆっくり粘土をこねていたら、また、客が来た。


「いらっしゃいー」

 俺はルルドナにやたら余分に土湿布を作らされていたので、気のない返事をしてしまう。


「ここに月見草があると聞いたのですが」

 夜に来たお客は、またもやフードを深く被っていた。だけどイゴラくんではない。背がすらっと高く、何と言っても女性の声だ。


「おお、ありますよ」

 棚の一番上に飾り付けた月見草を指差す。


「ホントだ! ですけど、お金が少ししかないんです。でも今夜のうちにどうしてもほしくて……、あの、残りの代金は後払いにできますか?」


 彼女が差し出したのは数枚の紙幣。

 あの爺さんは100万の価値があると言っていた。これでは明らかに足りない。


 フードの奥に見えた瞳は、どこか悲壮な雰囲気をまとっていた。


 ――俺は昔から、この目に弱い。


 さて、どうするか。

クタニは謎の人物の値下げを受け入れるのでしょうか。


2025.5.7 ルルドナの不自然なシーン修正しました。

2025.8.9 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

2025.8.13 タイトル微変更しました!


~アイテムメモ~

月見草:適正価格80万円。満月の夜に食べるとどんな病気も治してくれるらしい。


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