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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第12章 誰得山登り編
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慣れてきたとき油断してどうでもいいミスをする

穴に落ちてしまった主人公とボックス状のイゴラ。上から覗き込む影は……。

 覗き込んでいたのは、不気味な四角い物体。30センチ四方くらいの……。

 どこかで見たことあるような……。


「おい、オイラの村の近くで派手にやったのはお前らか?」

 その声には聞き覚えがあった。


「……ス、スラコロウ!? からだが硬くて柔らかくなりたくて仕方がないスライムの? 馬車にただ乗りしてファストライフタウンで別れてそれっきりだったスラコロウ?」


 このスライムは固くなってしまう体質のサイコロ状のスライムだ。治療のためにファイストライフタウンに向かっていたのを、馬車にただ乗りさせてやったのだ。別れてそのままだったから気になっていた。

「体は治ったのか?」


「いや、見ての通りだ。だけど、集中すれば形を変えられるようになったぞ。少しは柔らかくなったってことだな」


 そう、昔と同じく立方体の体だった。だけど、得意げに体を変えるようになった。


〈グニュゥーーン〉

 四角から球体へ、さらにぐにゃりと渦巻くような……


 ──もはや何かの未知生物だ。

「鍼灸を三日三晩してもらったら、少し良くなったぞ!」


 絶対に無理だろうと予想していたけど、マジでそんな技術があるのか。

 ――異世界鍼灸、半端ないな。


「よかった!それで、……階段状のものに変化することはできる?」


「何だ、出られないのか?」

「そうなんだ。荷物持ちでね。……協力してくれないか?」


「いいだろう! オイラの能力にひれ伏すがいい」


 階段状になった彼は、穴の下の方まで段を下ろしてくれる。

 俺は恐る恐る分で上る。もちもちしてて意外と登りやすかった。

 ひれ伏すというか踏みつけてしまったけど。


 登った後、階段は器用に上の方に折りたたまれて立方体に戻る。

「ありがとう。助かったよ。これを抱えたままだと出ることができなくて困ってたんだ」

「そのレンガの塊って、イゴラか?」


 ようやく、出ることができた。

 俺はレンガの塊になった兄妹を抱え、穴の外で一息つく。

「うん」

「あいつも立方体になるのか。さすが弟子だな」


 馬車の中で勝手に弟子にしただけだろ。


「……それで、これから今すぐに山頂に行きたいんだけど、この辺に近道とか無いか?」疲れ切った声で尋ねる。


「近道は無いが、魔法で山頂まで飛ばそうか?」

「え、そんなことできるの? 地元の魔法?」


「ああ、昔から、何百年もかけて、自然と転移魔法陣ができちまったんだ。オイラたちは魔法が得意なスライム族で、よく行く場所には転移魔法をはっている。あ、これは他の奴らには内緒だぞ」


***

 ――山頂。

 朝日がちょうど差し込む。


 俺は丹波さんにもらっていたガラスの欠片を朝の光に照らす。

 ガラスがみるみる七色に変化していく。


「おお、これはすごい」

 透明だったガラスが、朝日を浴びて、

 赤、橙、黄、緑、青、藍、紫──七色に輝き始めた。

 まるで、命を吹き込まれたかのように。


 これがあれば随分と稼げるはずだ。

 この山の朝日は金運が上がるというか、金稼ぎに使えるのか。


 難なく転移魔法陣で山頂まで運んでもらって、急いで物陰においておいたリュックからガラスの欠片を取り出す。


 ついでに自分の陶器なども光に当ててみたが、変化はない。ガラス限定みたいだ。


「それは価値があるのか?」

「まあ、そうだな。異世界人とかに高く売れるんじゃないのかな」

 高価なお守りアクセなどと宣伝すれば、3万くらいで売れそうだ。


「色くらいで変な奴らだ。重要なのは形だろ」

 どっちもどっちだと思うよ。しかし、助けてもらったばかりなのでツッコミを我慢する。


「でも形のないスライム状になりたいんでしょ?」

「オイラの求めるのは、曲線美だ。ドロドロになるのが理想なわけじゃない」

 そう言うと、ツボのような見事な形になる。


「おお、素晴らしい」

 褒めるが、すぐに元のサイコロ状に戻る。

 意外とセンスのある変化をしたスライムに驚く。


「だけど、曲線のあるものへの変化はとても疲れるんだ。さっきの階段みたいに角張ったモノへの変化は楽なんだけど。やっぱり鍼灸だけじゃだめだ。表面がしっとりもちもちサラサラの体がほしいんだ」

 ……何だか成人女性の肌の悩みみたいになってきたな。美容系スライムかよ。


「そんなものなんだ……。ともかく、一歩前進したのはいいことだ」

 俺は残りのガラスを光に当て、変化させる。


「そうだな。だけどもうオイラ、体質変化の鍼灸治療で貯金を全部使ってしまったんだ」


「はっはっは。俺なんて借金100億だよ」

 軽口を言うと、意外にも真剣な声が返ってきた。


「……お前は、何がどのくらいで売れるかわかっている。オイラにはわからない。借金がどうこうより、物の価値が検討つかないほうが、深刻だ……」


「じゃあ、俺の雑貨屋で働いてみる?」

 七色になったガラスをすべて紙に包みながら、俺は誘ってみる。


「……! いいのか!?」スラコロウがうれしそうに少しだけ弾む。


 高くなった朝日は薄雲に隠れ、俺らをぼんやりと照らしている。

「ああ。さっきの変化でちょっとおもしろいのがあったから、試したいことがあるんだ」


 もしかしたら、今までで最高の仲間を見つけたかもしれない。


 俺は自分のグッドアイデアを頭の中で自画自賛しながら、口の端を上げる。

 ―――それが、すべてを失う引き金になることも知らずに。

これで誰得山登り編終了です。


感想・コメントお待ちしております!

2025.4.03 タイトル修正しました。


2025.4.29 表現を修正しました。

2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

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