博多弁の妹ほど頼れる存在はない
「どうにかなるって?」
俺は身をかがめたまま、ライムチャートちゃんに尋ねる。
上空を舞うガルーダは旋回の高度を徐々に低くして、こちらに狙いを定めている。
ライムチャートちゃんはその動きをじっとにらみつけながら、言い切る。
「夜明け前の鳥は食べもんがほしいだけやけん。別に私達が悪かとしたわけじゃなかよ」
「そんなこと言っても、俺達がごちそうなのは変わらない……って、来た!」
慌てふためくと、ライムチャートちゃんはそのまま倒れ込むように、両手をつく。
その両手と周りのパンとなった地面が光る。
「「ま、まさか……」 再構成の魔法。何を作る気だ? 祈るように目を閉じた俺の頭上を、ガルーダの爪がかすめる――!
しかし。
〈ポスッ〉
直後、間抜けな音がする。ガルーダの爪が掴んだのは……。
――巨大なハンバーガーだった。
直径2メートルは超えるほどの巨大ハンバーガー。
しかもあれは、てりやきチーズバーガーだ!
香ばしく甘辛い香りとチーズの酸味のきいたにおいが場違いにも立ちこめる。
「……」
バサバサ、とホバリングするように上空で静止し、己の爪が掴んだ獲物を見るガルーダ。
そのバーガーに納得したのか、
〈キェエエーー!〉
と機嫌良さそうに声を上げ、その場を飛び去っていった。
飛び去っていったのを確認してその場にへたれ込む。
「よ、よかったぁ……」
そんな俺に近づいて、額の汗をぬぐいながらライムチャートちゃんは満足げに言う。
「……ふう、チーズば入れとってよかったばい。あれないと危なったね」
いや、それはどうでもいいだろ。
「そう、なのか? チーズが生存境界線なのか、この世界は」
「この世界の魔物はグルメになっとるけんね。チーズくらい必須条件ばい」
そう言って手に持った小型のバーガーを俺に差し出す。
結構余裕あるな。
素直に受け取る。
「だけど材料って、どうやって調達したんだ? チーズとか肉とか……」
手元のバーガーをまじまじといろんな角度から見て言う。
ライムチャートちゃんは表情一つ動かさないですごいことを言い出した。
「森ん中にあるタンパク質の生き物ばそれっぽく再構築しただけやけん。土とか木とか、その中にいる……」
「ちょ、ちょっと待った! いい! 言わなくていい!」
世の中には知らないほうがいいことがある。口に入れたハンバーガーが美味しい。それでいいではないか。考えてはいけない。
店でやるとコンプライアンス違反になりそうな考えだけどな……。
「そりゃ残念ばい。転生者はその辺詳しかごたっけん、語りたかっちゃけど。どがんせよ、地面のパンがなかったら危なかったでごわす」
薩摩弁が混ざっているような気がしなくもないが、ともかくイゴラくんが地面をパンにしてくれていたお陰で助かった。兄妹の力の勝利ってところか。
「で、これからどがんすっと? 登って日の出ば見ると?」
ライムチャートちゃんはバーガーを口に放り込んで空を見上げる。
もう空はかなり明るくなっている。日の出は近い。
「そのつもりだけど……。まずはこの穴から出ないと」
そう、俺たちは、パンの地面のぶん低くなった窪地にいた。
地上まで2mくらいだろうか? 落とし穴に落ちているようなものだ。
「私は魔力切ればい。休むけん、あとよろしくね」
彼女はハンバーガーを食べ終えると、もそもそとレンガ帽子の縁に手をかけ―― 。
〈スポンッ〉
レンガの帽子に体を引っ込めた。
「ちょ、え……?」
あっさりと退場してしまった。
彼女が引っ込んだレンガの帽子を持ち上げてみる。
重い。
(このブロック、30キロはあるぞ。スコリィのやつは軽々と持ち上げてたけど)
これを持ったままでは穴から出ることができない。人の形してれば背負えることもできたのに。
俺は見上げながら考え込んでしまう。早くしないと、朝日が昇ってしまう。
そのとき。
ふいに、穴の上から──黒い影が、こちらを覗き込んだ。それは、妙に角張った不気味な影だった。




