異世界で山に登って日の出を見に行くと大体モンスターに襲われる
――山登り、山頂。
「あぶない!」
無事に山頂にたどり着き、あとは風を避けながらくぼんだ岩場で朝日が昇るのを待つだけ。
……と油断していたら。
「あぶない!」
山頂の静寂は、6メートルもの翼を広げた怪鳥の攻撃で砕かれた。
「あれは、小型のガルーダです!」
リュックから咄嗟に土器を投げつけるが、虚しく空を切る。
「なんでそんなもん持ってるんですか!」
イゴラくんのツッコミに答える余裕はない。
「何か……有効な手立てがあれば。そもそも、敵を追い払うような魔法とか使えない!?」
「いえ、ボクが使えるのは、岩石を変化させる防御魔法とか回復促進とかそんなやつだけです!」
……ゴーレムのくせに優しい感じの魔法ばかりだな。
「もしかしてさ、地面に手をついて、大地を泥に変化させる魔法とか使えたりしない?」
妹の技をちらつかせてみる。
「物質の変化魔法ですか? むりですよ!」
君の妹はできるんだよなぁ。
その間にも、ガルーダは何とか爪で攻撃しようと迫ってくる。しかし相手も岩に爪を引っ掛けたら大事な爪が壊れるかもしれないのか、攻撃の機会をうかがっている。
「ひとまず、前みたいに、壁を作ることはできない?」
「あの魔法は攻撃を一度防いだらなくなってしまいます。ていうかボクの魔法はだいたい耐久性無いです!」
ネガティブなことを言うときはハッキリというらしい。
「あ、あれは?」
俺は指さして離れた足場を指し示す。
そこには、片方が鋭くとがった木の棒が落ちていた。
先が尖っていて槍の代わりになるかもしれない。ただ、この岩場からかなり遠い。距離にして30メートルくらい。
「あれを槍みたいに投げれば」
「いいかもしれません! 尖ったものを投げつければ、驚いて逃げ出すかも!」
「じゃあ俺が行くよ。やばくなったら防御壁よろしく!」
旋回するガルーダを見ながら、俺はタイミングを見計らって、走り出す。
残り20メートル、敵は来ない。
残り10メートル、まだ大丈夫。
「あぶない!」
イゴラくんの声。
敵が空から襲いかかってくる。
ただもうそちらに視線を送る余裕はない。
信じて走るしかない。
――身をかがめ、加速する。
『石壁橋の守護!』
〈ガガガッ〉
俺の進行方向の上方を覆うように岩のアーチが何本も出現し、敵の攻撃から守ってくれる。
一度その攻撃を防いだだけで消えてしまう。
耐久性に難ありというのは本当だったのだ。
だけど何とか鋭く尖った木の棒を手に入れることに成功する。
しかし問題があった。
「お、重っ……」
手にした瞬間、腕にずしっと重みがのしかかる。これは……ムリだ。
そう、木の棒は意外と重い。
俺の腕力ではとても投げつけることができない。
どうしよう、そう迷って動きを止めたのが失敗だった。
〈ブォン!〉
上空から鋭い爪が襲いかかる。
――かろうじて避けた、しかし……!
足元が滑ったのは崖の縁。
体勢を崩し、あっさりと落ちる。
〈ヒューー〉
崖から落ちる。
(ああ、もうだめだ〉
せっかく魔王モールから無事に帰還しているのに。
雑貨屋がこれからなのに。
あきらめ描けていた、――そのとき。
イゴラくんの声がした。
「グラナイト・グルテン!」
遠くから聞こえる声。
俺は無惨にも岩肌に叩きつけられ――なかった。
〈ポスン〉
俺が落ちたのは、パンの上だった。
何と、足下の岩場がすべてパンになっていた。
こんがりと良い匂いがする。焼き立てだ。
しかし、崖先まで出てきたイゴラくんは、ガルーダに襲われる。
「うわぁぁぁあ!」
彼は激しい攻撃を避け、バランスを崩し、――落下する。
まずい、そっちには、パンのクッションはない。俺はパンに足を取られてうまく動けない。
よく見たら彼は魔力を使い果たしたのか、気絶したように目を瞑っている。目の奥の光がない。
50メートルはあろうかという崖。
いくら体が頑丈なゴーレムでもただじゃすまないだろう。
「イゴラくんーー!」
何とか目を覚ましてもらおうと叫んだとき、彼の体が光に包まれふわりと一瞬、無重力になる。
――彼の下に現れる、赤く光る巨大な魔法陣。
赤光が稲妻のように発生し、空気がびりびりと震えた。
魔法陣を通過して現れたのは――大きなレンガの帽子に、ボサボサの髪、ヨレヨレの服。彼と体を共有している、彼の妹、ライムチャートちゃんだ。
彼女は一瞬で状況を把握し、軽く手を振って魔法を使う。
〈シュワンシュワン〉
崖の岩石を素早く変化させ、すべり台のようにして俺の近くに降り立つ。
「よかった……。イゴラくん、いやライムチャートちゃん」
「……やれやれ、手のかかる男どもやね。よう寝れんっちゃけど」
彼女の表情は、その言葉遣いとは裏腹に怒りに満ちた戦闘モードの顔だったのだ。
「な、何にせよ、助かった」と俺が感謝をしたとき、彼女がふらつく。
「!?……どうした?」
俺は彼女のレンガ帽子を支える。
重心が高いから頭を支えた。
なかなか重い。二人で間抜けな体勢になり、彼女は言う。
「ごめんね、兄が無理ばして魔力ばよう使ったみたいやけん……」
顔色が悪い。元からこんな色だった気もするけど。調子がすごく悪そうなのは確かみたいだ。
博多女子どうなのとツッコミができないほどやつれていた。
そもそもこんな短期間で入れ替わるのはイレギュラーのはずだ。調子がいいのを期待してはいけない。
「敵は……ガルーダっていう鳥のモンスターだ」
「ちょっと相性が悪かね……。魔力も残っとらんし」
彼女は敵を見上げて言う。
ガルーダは俺たちの様子を見て、旋回している。
周りは隠れるところもない。
パンの上で立ち往生する。
「……これ、詰んでないか?」
現実逃避したくなるほどの絶望感が、俺たちを包んでいた。
しかし彼女は足元をじっと見て……何かに気がついたように言う。
「いや、どがんかかなりそうばい」




