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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第12章 誰得山登り編
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山を登ると男は哲学者になれる

【あらすじ】魔王モール3号店で無事にルルドナを救い出した雑貨屋一同。占い師に言われたとおり、山に登ることになったクタニだが。さて、誰得山登り編です。

――帰りの馬車の中。


「てんちょー、本当に山なんか登るんすか?」

 

「まあ、俺は脚だけは鍛えているし、気晴らしに行って男を上げてくるよ。ペッカも来ない?」


「俺様はいかん。そもそも俺様は空を飛べるのに登る意味がない」

 たしかにそうだ。


「他に登りたい人は……?」

 返事がない。ただの相乗りのようだ。


 皆がそっぽを向く中、ガディだけちょっと申し訳なさそうに俺に声をかけてくれる。

「ワタクシ、山の上に湖があるなら登ってもいいのですが……。それに、あまり乾燥しているところはお肌に悪いですし」

 俺はお肌以下か。いや情のこもった言葉だけでありがたいか。


「てんちょー、留守はまかせるっす。るすだけに」

 うるせぇよ。うまいこと言うんじゃない。一本取られただろ。

 独りでゲラゲラと笑い転げるスコリィ。……自由で羨ましい。


「ともかく山の近くについたら俺だけ降りるから、みんなはあの家、自由に寝床にしていていいよ。シュワルツさんの部下が修理してくれているはずだけど」

 一人になるのも悪くない。モンスターは出ないって言うし、休暇だと思って楽しむことにしよう。


「わ、わたし、じ、実はあの家の家族にも存在知られて無いんです。あ、あなたの家に泊まっていいですか」

 ライムチャートちゃんが焦った様子で言う。


「ああ、複雑だと言っていたし、もちろん泊まっていいよ。ていうか、そろそろイゴラくんに変わるんじゃないの?」


「わ、わからないです。この体の魔力が安定したら兄に戻ります」

 彼女を改めて見る。

 ブロック状の大きなレンガの帽子に、ボサボサの黄緑髪の毛、白い肌、目の下のクマ、アルプスの少女のような服、細い腕。レンガの大きな靴。


 これで、古代魔法の使い手なんだから異世界人ってのは見た目ではわからない。


「じゃあ、イゴラくんが出てきたら山に誘ってみるよ。男らしくなれるって」

 俺は軽い気持ちで言った。……もちろんフラグだった。


 **

 数時間後。

 日が沈むと同時に、山へ向かう2つの影。

 山頂で朝日を見るにはこの時間に出なければならないという。

 ……過酷だな。


 ルルドナは夜になって大きなサイズになったので馬車で皆と帰ってもらった。

「私がいたら、頼って男らしくなれないかもでしょ」と言っていた。鋭い。


 ライムチャートちゃんがようやく兄のイゴラくんに体を返して、少女の体からゴーレムの体になる。

「男らしくなれる」と俺が冗談めかして言ったら、イゴラくんは目を輝かせてついてくるとの一点張りだった。

「ボクも鍛えなければなりません」

 まあ、男同士だし、案外一人ぼっちで山を登るよりいいかもしれない。独りだと余計なことを考えてしまいがちだし。


「それで、……なかなか本格的ですね」

 俺はキャンプ道具を買い込んでいた。パンパンになったリュックを背負っていた。臨時のテントに寝袋、非常食に、着替えに……。


「ふん、山を舐めてはならない。ネット動画で配信者が言ってた」

「またネットですか」


「スコリィみたいな野暮なツッコミはしないこと」

「野暮かどうかはともかく、……そうですね。ボク達似た者同士みたいですし」

 確かにキャラが被っている。

 いや、イゴラくんは俺みたいに心が汚れていないだろうけど。


「イゴラくんは俺なんかよりずっと優しいよ。力もあるし、魔法も使えるし、何よりパン作りに対する情熱はホンモノだ」

 夜の山のテンションのせいか、妙に褒めてしまう。


「そんな、ボクなんてまだまだですよ。ミッドライフシティで倒れたとき痛感しました……。ボク、パンを焼くとき妙に力んでしまって、すぐに疲れちゃうんですよね……」


「気にしなくていいって。あの経験のお陰で俺もちょっと成長できたんだし」

 真っ暗な中、魔法灯の明かりをともしながら俺達は歩き続ける。


 あのときに限らず、ここ数日、いろいろな経験をしたけど……。


 ――夜の山道の静けさに押され、本当に成長できたのか、自分に問いかける。

 そういえば、俺はあまり活躍していない気がする。


「それに、ファストライフシティに行ってからバトルの間もほとんど寝てたなんて……。俺は確かに新月の夜に何日も寝込むことがあるんですけど。ここ最近はなかったのでもう大丈夫だと思っていたのですが……本当にすみません」


「何言ってるんだ。イゴラくんのパンを食べていたお陰で勝てたんだよ」

 ほとんど妹のおかげであることは伏せておく。まだ妹のライムチャートちゃんのことは知らないみたいだし。


「そんな慰めは」

「いや、案外普段から食べるものは馬鹿にできない。それに俺がしたいのは賞金稼ぎじゃない。売上を伸ばすことだ。雑貨屋の主力商品は今のところイゴラくんのパンなのだから、しっかりしてもらわないと」


「これから、どうするんですか? パンの売上だけじゃ10億なんてとても返せませんよ」

「どうにかなるさ」

「はぁ……」


 坂が険しくなるに連れ、次第に口数が少なくなる。登山あるある。

 まだ時刻は宵の口。登山道は一本道だから迷うことはない。さすが人気の山らしく道は踏み固められていて、思っていたより登りやすかった。

 しかし、きつい。

 リュックに物を入れすぎた。

 イゴラくんにもそれなりに持ってもらっているけど、まあまあ平気そうだ。


「智に働けば角が立ち、情に棹させば流され、意地を通せば窮屈だ」

 俺は突然、元の世界の文豪の言葉を思い出して言う。きっと、この文豪だって、生きづらかったのだろう。


「何ですか? それ……。考えさせられる言葉ですね」

「頑張りすぎても、人に流されても、意地張っても、結局しんどいってことだ。転生前の世界の文豪の言葉だよ。俺のいた国ではとても人気がある小説家だ。俺は最高の小説家だと思っている」


「へぇ。意外と読書家なんですね」

「まあね」

「……だけど、どこの世界でもいくら本を書けるくらい頭が良くても、やっぱり窮屈なんですね」


 そう、頭が良くても、生きにくいのだ。この世界は。眼の前に伸びる坂道を魔法灯で照らす。

 先は全然見えない。


「……こっちにも、そういうこと書きそうな小説家はいる?」

「多分いると思いますよ。あまり詳しくないんですけど、ボクの部屋に親が買ってくれたのか大量の本がありますので、今度貸しますね」


 絶対、妹が集めたんだ。しかし口にはしない。

「そりゃ楽しみだ。俺はこう見えても哲学的でね。そう……人生と山登りは似ている。どちらも途中で辞めるわけにはいかない」


 今思いついたことを口にする。思いつきをすぐに口にするのは哲学者っぽくないな。しかし意外と感銘を受けてくれるイゴラくん。


「……いいですね。人生と山登り。途中でやめたら、だめですよね。パンだって同じかもです。すぐ焼けるのではなくて、こねて、発酵熟成させて、じっくり火を入れて、ようやく焼き上がる。ね、似てるでしょ?」


「すっかり哲学者だな。そう、人生と山登り、そしてパン……どれも同じ、途中でやめたら何も達成できない」

 転生した身で何を言ってるんだ、とツッコミが入らないか不安になりつつ発言する。


「パンなんて表面が焼き上がっていても中身が半生のときがありますからね」

 うまいことをいう。才能あるかもしれない。ちょっとだけ上りがきつい岩場に出る。足元がよく見えないので油断すると危険だ。


「そうそう。もっとも、人生は途中で別の山に登ることにしてもいいけどね。自分なりの高さの山に登ればいいのさ」

 いい感じにまとまってホッとする。きっと店長としての威厳が保たれた。


 上りのきつい岩場を先に登って、イゴラくんの手を引いて引っ張り上げる。

「ですね……。なんか哲学って、いいですね。俺もやってみたいです。……それで、その小説は、その言葉のあとどう続くんですか?」


 また、踏み固められた勾配のきつい道が続く。

「……とにかくこの世は生きにくい、だってさ」

「……ぷっ。何ですか、それ」

「ね? この作者最高だろ?」

 あはははと笑いながら、2つの影は意外と愉快な気持ちで暗い山を登っていった。

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