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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第11章 魔王モール3号店編
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占いなんて信じないと言っている異世界人に限って裏でがっつり占いをしている

話がまとまりましたが、占い師からもう少し話があるようです。

俺とルルドナは占い師のところに戻ることにした。


歩きながらルルドナがふらつく。

「私もう寝る時間よ……」


ふらつくルルドナの肩を支える。

彼女の体は思ったより軽い。

「ああ、もうそんな時間か……。いや、でも、あとちょっとだけ起きてて」


ひとまず彼女をベンチに座らせる。ルルドナの肩を支えながらふと思い出す。


「そういえば、ミッドライフシティの広場販売で悩んでいたとき、助かったよ。ありがとう」

「……そんなこといいのよ。それより、私もう、限界……」


そういうと、ルルドナは俺に寄りかかって寝てしまった。

そのあどけない寝顔を見ていると、ほんとにあの強力な技を繰り出した少女なのかと疑問に思う。


感謝を込めて、そっと背中をぽんぽん叩く。

〈シュウーー〉

すると、彼女はハニワの兜ごと小型サイズになって俺の胸ポケットに収まった。


「おお、さすが異世界。便利だ」

質量保存の法則が適用されて無いことに顔をほころばせながら歩き出した。

占い師がまた来てくれと言っていたから、そこに立ち寄ることにした。


***

占い師の天幕の中に入ると、聞いたことのある声をかけられる。


「あ、てんちょーっす」


何とメンバー全員が占い師のところにきていた。スコリィ、ペッカ、ガディが。

推し活浪費をやめる方法をきいている、暗いのが怖くならない方法をきいている、強面になる方法をきいている……。


「あのねえ、キミたち、それはいいところでもあるんだから、無理に変わろうとしないほうがいいよ」

俺がしたり顔で言う。やや感銘を受けたようなペッカが、いやだめだと首を振っていう。


「……弱点は補うに越したことはないぞ」

ドラゴンのくせに暗いのが怖い、と言えなかったくせに偉そうだな。


「いいんですよ。占い師というものはどんな客にも優しくアドバイスするものです。あなた方の戦いは非常に面白かったですし、サービスしますよ。……あなたには伝えたいこともありますし」


ベールの奥から俺の方を見て、意味深に言う。


「商売人の鏡だ……」

ペッカはなぜか感銘を受けている。一番真剣に占ってほしいみたいだ。


「ではSWOT占いを始めます!」(※SWOT分析とは、自分のことを、強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)の4つの項目で整理して分析する方法)


「……それ、本当に占いなんですか?」


よく経営分析で用いられるやつじゃねーか。

「シンプルな方がいいんですよ。結果はお墨付きです。それに、無料の占いに文句を言ってはいけません。普段は高いんですよ」


ネットに載っているような分析をして高い料金を取っているなんてまるで悪質コンサルタントだ。


それぞれにアドバイスがなされる。

ミルク飲めだの、そのままでいいだの、強みを活かせだの、ネットに載っていそうな典型的なアドバイスをしていく占い師。


それぞれ価値のあるような無いようなアドバイスを受けて、納得したようなしてないような顔をする。


「じゃあ、最後は……あなたね」

「え、あぁ、はい」思わず気の抜けた返事をしてしまう。

もうどうでもよくなっていた。


やたらとかしこまった声になったので、思わず背筋を伸ばして正面に座る。

「あなたのこと、その魂を、深く調べてみたんだけど、あなた、もしかしたら転生前……」


「ちょ、ちょっとまってください! そういう話は皆がいないときに」


慌てて止める。皆の視線が背中に突き刺さる。


「あら、意外とセンチなところがあるのね」


「ええそうです。そうですよ。転生者一のセンチメンタル野郎です。とにかくそういう話は俺はもういいんです。元の世界に未練なんかないし。……それに何より、俺がこの世界でスローライフをするのにそんな話関係ないでしょう?」


ベールの奥からじっと底知れぬ瞳が見つめてくる。

「……まあいいわ。今は機が熟してないだけかもしれないわね。聞きたくなったら私のもとに来なさい。もっともここにはいないかもしれないけど」


そう言って名刺を一枚渡してくる。

『丹波・ルネラリック』と書かれている。裏には緻密な異世界っぽい文様が描かれている。

しかしこの名前、どこかできいたような響きだ。


……そうだ。瀬戸さんや常滑さんと似ているんだ。

ていうか、この人も転生者なのかな。転生者は多いときいているけど本当に多いな。だけどやっぱりこの世界、陶器関係者多すぎない?


名刺を渡してくれるということは少しは気に入られたのかもしれない。


――俺は思いきって悩みを切り出す。

「……ところで、占い師さん。最も深刻な悩みがあるのですが」


「興味深いわ。そんな兆候、私の占いでは全く視えなかった……」

両手を軽く組み合わせてこちらを見つめてくる。この瞳。テンプテーション系の魔法とかないよな……。しかし、そんな術に負けてはならない。


「金運が、上がる方法を教えてくれませんかね」

ベールの奥の瞳が点になったような気がした。


「……今日一番下品な質問がきたわね」


「流石にそれはないっす!」

後方から思わずスコリィのツッコミが入る。


「金がなきゃ何も始まらねぇんだよ! パンも、粘土も、スローライフも!」

開き直った俺が言うと皆は白けた目でこちらを見る。


「きっと変えられない運命っす」

スコリィめ。また今度てめーの長所をオタク語りしてやる。


「そういう話こそ皆がいないときにしろ」

とペッカ。暗いのが怖いという相談も皆がいないときにしたほうがいいぞ。


「お金を稼ぐのは自分の頭で考えるのがいいんですよ」

ガディまで。オヤジを力でねじ伏せたくせに。


「あら、いい仲間をもったみたいね。同じ転生者として羨ましいわ」

占い師が機嫌良く言う。


「まあ、お金の関係ですけど。俺が店長でみんなは……スコリィは俺に借金があってそれ返すまで働いていてて、ペッカはまあいっとき協力してもらってて、ガディは、あれ、ガディはこれからどうする? もう、シュワルツさんとの話は決着したようだけど」


みんなの視線がガディに集まる。

軽く咳払いをして彼女が俺を正面から見つめる。

「それなら先程、お父様からクタニさんの下で働くようにと言われまして。特にルルドナさんと懇意にするように、と」

なるほど。

そもそもガディの父親の大技を破ったのはルルドナだ。

一目置かないわけにはいかないだろう。


「それは助かる。ガディがいたら集客力が段違いだ。給料は低いけどいい?」

「ええ。それは気にしません」


全員がなんとなくほっとした雰囲気になる。

「じゃあ、改めてよろしくね」

「はい!」


「よろしくっす!」「よろしくな」

みんなが笑顔で受け入れる。

……なんだ、いいチームじゃないか。


皆を見渡していると、占い師が身を乗り出して言う。

「話がまとまったようね。とにかくあなた、金運なら山に登りなさい。ちょうどスロウタウンの近くにあるわ」

俺達がどこから来たかどうかはお見通しのようだ。これも占いだろうか。


「山?」

宗教的な話だろうか。異世界人だからそういうことはないだろうけど。


「そう。地図を後から渡すわ。その山に登って、何かガラス状のものを透かして朝日を浴びると金運が上がるらしいわよ」

「……それってよくある迷信じゃ」

「案外効くらしいわよ。モンスターもめったに出ないし、そもそもその山に自分の足で登ったら男らしくなるらしいわよ」

男らしく……。俺には無縁の言葉だ。


「てんちょー絶対に登ったがいいっす! もう少し男らしくなったほうがいいっす!」

背の高いストーンピクシーの声に皆が頷いて、……俺の山登りが決まった。


次回より山登り編スタート! って誰得だよ……。

次は、誰得の山登り編です。


感想・コメントお待ちしております!


2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

2025.10.16 微修正しました。

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