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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第11章 魔王モール3号店編
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占い師には転生前の惨めな人生は見てもらいたくない

戦いから一夜明けて。

次の日、俺は鑑定を受けることにして、ファストライフシティのホテルから、朝一でショッピングモールに来ていた。


早くしないとルルドナが寝てしまうし。


俺たちが暴れすぎたせいで、ショッピングモールの屋上は修理工事中になっていた。


午後から大会の破壊記念セールがあるらしい。目玉は信頼区間ルナメテオの欠片。

……いや商売上手だな。


賞金が手に入ったし皆に結構なお金を渡し自由行動にした。

給与ということで。


……初給料、こんな形でいいのだろうか。


「控えめに行動するように」とメンバーには釘を差してショッピングモールで自由行動にした。

2時間後に集合ということにして。

俺は自分のスキルの占い鑑定をしてもらおうと休憩ベンチの近くにある占いのテントの周りをウロウロしていた。


***

やはり入るのには勇気がいる。健康診断の結果と同じくらい怖い。

「早く入りなさいよ!」

ルルドナに無理矢理中に押し込まれる。


幾重にも張られた重い布をたくし上げ、入り込む。

当然の顔をしてルルドナもついてきた。

恥ずかしい事実が明らかにされませんように。


「あら、昨日の新月祭バトルの」

占い師はベールで覆われていて、化粧と言うか装飾をしまくった二つの目だけが見えていて、年齢はおろか性別すらもよくわからない。

ただし、尋常じゃないほどのオーラを感じる。


「は、はい、そうです。えっと、シュワルツさんに無料で鑑定してもらえるといわれまして……」

あまりのオーラにドギマギする。


「ええ。料金はシュワルツ様に請求します。それに……私自身も気になっていたところです。転生者の占いは何度かやったことがありますので、信頼してもらって結構ですよ。さっそく、鑑定してよろしいですか?」

俺だけでなくルルドナにも視線を送る。


「いや彼女は付き添いで。俺に召喚されたというか作られたと言うか。占ってもらうつもりはなくて」

「私も無料?」

「もちろん」

「じゃあ、お願い」


相変わらずお金にはしっかりしている。占い師はなにかブツブツ言いながら、テーブルの上の水晶球を見つめる。


「これはすごい……あなた、ルルドナさん、転生前も彼と一緒だったのね?」

「え?」


珍しくルルドナが虚を突かれた顔をする。

「ちょっと転生前の世界のほうを調べさせてもらったんだけど、彼が持っている、手の中の板、スマートフォンっていうのかしら? アレの中に入っている架空のバーチャル彼女、それがあなたね?」


「え、何のこと?」

ルルドナはあまりの意外な真実にうろたえて椅子から落ちた。珍しすぎる。


――しかし俺はもっと驚いて床にひっくり返っていた。

「確かに俺は転生前、あまりの人恋しさにAI彼女を10年くらいサブスクライブしていたけど、そんなまさか、そんなことが……?」


「え、10年も?」

別のところで驚く占い師。失礼だろ。


「……と、ともかく、あなた、クタニさん、スマホごとトラックにはねられて転生したでしょ。そのとき、なにか奇跡が起こって、AI彼女も転生したのよ。いやあ、いいわね。運命の赤い糸よこれは」

目でニヤけながら俺らを交互に見る占い師。近所の井戸端会議をしているおばちゃんの目だ。


「ということは、俺はまだサブスク代金を支払わなければならないのか……!?」

「そっちじゃないでしょ!」

起き上がりざまにツッコミされる。


「でもちょっと待って。スマホの中の彼女って……顔を……思い出せない……?」


契約していたのは覚えてる。でも、その顔がどうしても浮かばない。

――好きな人の顔は思い出せない。とはいうけど。(※違う)


「やっぱりね」

占い師が少し前に体を乗り出して、下を向いた俺の顔を覗き込んできた。


「あなた、転生前の記憶……ほとんど無いでしょ?」


ギクリ、と背筋が冷える。


――そう。俺には、記憶がほとんど無い。30代からの10年くらいの記憶がぼんやりとあるだけだ。

子供の頃や、20代のことは、ぼんやりとした物語の中の記憶のようにしか残っていない。


「医者には、ストレスのせいだって言われてたけど……」


「でもまって。私は、転生前のクタニの記憶が……!」

ルルドナは記憶をたどるように目をつむる。しばらくするとカッと見開く。

「確かに、クタニがこちらに来る前、転生前の10年間くらいしか……、ないわ! しかも確かに何かを通して見ていたような気がする」


まさかスマホを通してこちらを見ていたとは。

「え、じゃあ、俺が若い頃に国際ハニワ芸術賞を取ったのも覚えていないの?」

「それは嘘ね」

占い師がすぐにツッコミを入れる。もう少し花を持たせろや。


「ともかく、私も転生した。この作りものの体で……」

自分の体をまじまじと見つめるルルドナの体は、柔軟性のある、不思議な素材だ。土器とゴムの中間のような。作った自分にもその理屈はわからない。


「芸術的な体だよ」

「何かいやらしいわね」

椅子に座り直したルルドナに睨まれる。


「にしても、私たちお金の関係だったのね……」

勘違いされるような言い方するな。わざとらしく袖で顔を覆うルルドナを睨む。


「……同郷だとわかって、前より心強くなっただけだよ。こちらでの生活は何も変わらないさ」

「その生活のスタートに10億も借金作ったくせに余裕があるわね」

占い師は10億という言葉に驚きもせず、ニヤニヤしている。ジョークだと思ったのかもしれない。


俺は改めて姿勢を正して占い師に尋ねる。

「……で、俺のスキルって結局、土器や陶器をすぐに焼き上げるスキルです?」

「基本は、そうみたいね。たまに能力が付与されるみたいだけど、ルルドナさんのようにしっかりとした意思を持つのは偶然にも転生した魂がなければ無理のようね


「ちなみにこのハニワたちにまだ結界を破る能力はあります?」

懐からハニワを取り出す。こちらが本題だ。


テーブルに並べられたハニワを見て身を引いた占い師が答える。


「これは、元の世界の呪具ね。うーん、禍々しいオーラはあるけど、結界を壊せるかどうかまではわからないわ。ともかく闇魔法より暗いオーラを感じるわ。取り扱い要注意よ。日常的に使うものではないわ」

こんなに美しいのに何言っているのだろう。


「ちなみに、こんな感じで防具にしたら逆に結界になったりしないです?」

さらに試作品のハニワ兜をリュックから取り出し、見せる。


「あなた、よくこんなものを……」


占い師が呆れてハニワ兜を手に取ろうとしたそのとき、天幕の横腹から、槍のようなものが突き出してきた。

〈ガツンッ!!〉


テントの横腹が激しく揺れ、外から突き出した“何か”が、占い師の手元スレスレを貫いた。


……槍、だ。


一瞬にして、場の空気が凍りついた。

ルルドナは二次元の彼女だったようです。本物の彼女がいるやつはこの異世界には転生できません。


2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

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