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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第11章 魔王モール3号店編
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あと10年早く転生していればよかった

魔王モールの打ち上げで、主人公だけ外のバルコニーに出てきたようです。

 皆が魔法トークなどで盛り上がっている中、大勢が苦手な俺はこっそりと外に出ていた。

 5階に、円状に突き出すように作られた広めのバルコニー。


 誰もいない。

 もしかしたら夜は立入禁止なのかもしれない。

 ……まあ今日くらいはいいだろう。


 窓から最も遠い位置まで言ってみる。

「おお、いい眺めじゃないか」

 やや離れた位置に、ファストライフシティの石レンガで作られた街並みが見える。


 魔法灯が街中をやわらかく照らし出して、幻想的な雰囲気だ。ホテルはやや大き過ぎるが。

 ファストライフなんてやめればいいのに。


 もっとも、魔王モールが近くにあると経営的に対抗せねばならず、スローライフ的な生き方は無理なのかもしれない。囚人のジレンマかな。


「……異世界も、世知辛いね……」

 独り言を呟き、バルコニーの手すり寄りかかってハニワたちを眺める。


 ――魔王の結界を壊した、珍妙な踊りをするハニワたち。

 試しに、先ほどみたいに踊っているように動かすが、何も起こらない。……あのときの恥の感覚を思い出してやめようとする。


「それ、もう動かないの?」

 後ろから声がかかる。――ルルドナだ。


 肩がびくっとなったのは気が付かれていない。

「うーん、そうみたいだ。いろいろと試して、いざというとき動かせるようにしたいんだけど」


 あの沈黙を思い出し冷や汗が出る。

 ハニワたちを懐にしまいながら、冷静を装いつつ対応する。

 そうあれは、はったりではなく、結界を破るすごい魔法だったんだ。恥じることなんてなにもない。何にもないのだ。


「そう、それがいいわね。ともかく気になるのは、クタニにスキルがたくさんあるってことね。普通は一つの転生に一つのスキルが原則だから、クタニはおかしいのよ。反動があるわけじゃなさそうだからいいけど」


「そうだよね。ルルドナみたいに意思を持つ条件もあるかもしれないし。涙くらいじゃ無理だったけど。このハニワたちが意思を持ったら偵察とかに便利だろうし」


 ――やはり、鑑定を受けてみようか。俺はもう一人きりで生きているわけじゃないんだし。

「ま、そのうちわかるでしょ」

 ルルドナはちらりとこちらを見て、月餅(げっぺい)のような菓子をぽんと投げて口に放り込む。お行儀悪い。


「あれ、食べ物はいらないんじゃ」

「うーん、まあ、こういうのは気分よ。特に新月の夜は、なんとなくお腹が減る感じがするわ。この月餅ってやつも美味しいし。……クタニも、いる?」


「一つ、もらおうかな」

 受け取ったお菓子を見る。転生前の世界の中国菓子の一つだ。俺も独特な風味が好きだ。以前はコンビニにおいてあったのに最近は見ない。

 ていうかこれ、中国からの異世界人が持ち込んだのだろうか。異世界に中華街とかないよな……。中華料理好きとしては言ってみたい気もする。


「……にしても、家族っていいわね。ガディだっけ? あの子は幸せよ」

「おいおい、ルルドナ。……キミにとってはこの俺が家族みたいなものだろ。お兄ちゃんって呼んでもいいんだぜ」

「……バカ!」


 尻を蹴られる。

 ……あ、この感覚、懐かしい。


 満足した顔で何度も頷くと、もう一度蹴られた。痛い。


 たまらずに膝をつき、痛嬉しい複雑な表情で床と睨み合っていると、そっと肩に手を置かれる。

 耳元で控えめな声が囁かれる。


「クタニ、助けに来てくれて、ありがとう。……それと、コートも、ありがとね」

 そう言うと幼い少女のようにパタパタと駆け足で屋内へ戻っていった。


 膝をついたままその後ろ姿を見送り、ごろんと仰向けになる。

「はあ、後10年早く転生していればなぁ」


 視界いっぱいに広がる真っ暗な空は、元の世界より深く、星々の瞬きはわざとらしいほどに綺麗だった。

次は、ルルドナの秘密がわかります。


2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

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