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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第11章 魔王モール3号店編
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あと10年早く転生していればよかった

 皆が魔法トークなどで盛り上がっている中、大勢が苦手な俺はこっそりと外に出ていた。

 5階に、円状に突き出すように作られた広めのバルコニー。


 喧騒が遠くに聞こえるほどよい静寂。星が瞬いて音楽を奏でそうだ。なのに、誰も、いない。

 もしかしたら夜は立入禁止なのかもしれない。

(……まあ今日くらいはいいだろう)


 手すりまで近寄って思わず言葉が漏れる。

「お、いい眺めじゃないか」

 周りは荒野だけど、少し離れた位置にファストライフシティの石レンガで作られた街並みが魔法灯に照らされて優しく浮き上がっている。


 照らし出された街並み幻想的だ。

(ファストライフなんてやめればいいのに)


 もっとも、魔王モールが近くにあると、街としては対抗しなければいけないのかもしれない。スローライフ的な生き方はしたくてもできない、という感じか。


「……異世界も、世知辛いね……」

 独り言を呟き、バルコニーの手すりに肘をつき、胸ポケットから出した親指サイズの小型ハニワたちを眺める。


 ――魔王の結界を壊した、珍妙な踊りをしたハニワたち。

 試しに、先ほどみたいに踊っているように動かす。

「ふん! はっ! ちゃんちゃーん!」

 振っても踊らせても……何も起こらない。

 ……あのときの、恥の感覚を思い出してそっと胸ポケットにしまおうとする。すると――。


「それ、もう動かないの?」

 後ろから声がかかる。――ルルドナだ。


 肩がびくっとなったのは気が付かれていない。

「う、えん、そうみたいだ。いろいろと試して、いざというとき動かせるようにしたいんだけど」


 あの沈黙、永遠の数十秒を思い出し、冷や汗が出る。ハニワたちを懐にしまいながら、冷静を装いつつ心に言い聞かせる。

 そうあれは、はったりではなく、結界を破るすごい魔法だったんだ。恥じることなんてなにもない。何にも、ないのだ。


「何か複雑な表情しているけど、使えるようにしておいたがいいわね。強力だから、いざというとき頼もしいわ」


「……頼もしくなっても、ルルドナには叶わないだろうけどな。あの隕石を割った蹴り、……すごすぎない?」



「単なる気合い、……と言いたいところだけど、蹴りたい部分に重力を集中させて、対象を脆くしてから蹴りつけたの。『真っ二つにする』と思って蹴ったら、ああなったのよ。たぶん、敵の作った月から魔力も少し吸えたのかも。まあでも基本は気合いよ」


 ……やっぱり気合いじゃねぇか。


「魔力を吸えたって、それ、闇落ちとかしないのか?」


「さあ? 闇属性の攻撃が強くなるだけじゃない?」


 全く気にとめない様子で飄々と言い放つ彼女は、すでに強キャラの風格だ。


「ともかくこのハニワ、ルルドナみたいに意思を持つ条件もあるかもしれないし、調べなきゃいけないな」


 ――やはり、鑑定を受けてみようか。……俺はもう、一人きりで生きているわけじゃないんだし。


「ま、そのうちわかるでしょ」

 そう言った彼女は不意に上空へ小さな塊を放り投げ、口でキャッチした。もぐもぐと頬を動かしている。

「……行儀悪いな。ていうか、食べ物はいらないんじゃ?」


「気分よ、気分。特に月の見えない夜は、なんとなくお腹が減る感じがするの。……クタニも、いる?」


 差し出されたのは、見覚えのある形――月餅だった。


「……一つ、もらおうかな」  受け取ると、懐かしい油と餡の香りがした。コンビニのレジ横でよく見かけた、あの中国菓子だ。この世界には中華街でもあるんだろうか。


 ていうかこれ、中国からの異世界人が持ち込んだのだろうか。異世界に中華街とかないよな……。中華料理好きとしては言ってみたい気もする。


「……にしても、家族っていいわね。ガディだっけ? あの子は幸せよ」

 しんみりとした彼女の横顔に、俺は少し調子に乗って言ってみる。


「おいおい、ルルドナ。……キミにとってはこの俺が家族みたいなものだろ。お兄ちゃんって呼んでもいいんだぜ」


「……バカ!」

 鈍い衝撃。隕石を、あの巨大な質量を粉砕した脚が、俺の尻を正確に撃ち抜いた。

 思わず床に四つん這いになる。


(……待て。隕石を真っ二つにした脚だぞ。俺の尻が二つに割れたらどうするんだ)


 はっとする。

(いやいや、待て待て。尻はもともと二つに割れているものだ。……ということは、今の衝撃で四つに増えたのか?)


 四つん這いのまま、俺はそっと手で自分の臀部の安否を確認した。


 ……よかった。二つだ。


 ……そんなアホな葛藤と安心を味わい、満足した顔で何度も頷く。そんな俺を見て、ルルドナは呆れたのか、さらにもう一度蹴りを入れた。


「……何よ、その満足そうな顔。変態?」

「い、痛い。……いや、痛気持ちいい。……いや、痛いな」


 複雑な表情で床と睨み合っていると、そっと肩に手が置かれた。


 耳元で控えめな声が囁かれる。


「クタニ、助けに来てくれて、ありがとう。……それと、コートも、ありがとねっ! それじゃ!」

 意を決した感じで、早口でそう言うと幼い少女のようにパタパタと駆け足で屋内へ戻っていった。


 膝をついたままその後ろ姿を見送り、ごろんと仰向けになる。

「……はあ……。あと10年、早く転生していればなぁ」


 視界いっぱいに広がる夜空。星々が控えめに瞬いている。空気は澄み切っていて、宇宙とつながっているようだ。

 その宇宙は、どこか元の世界より深く、意味深で、憎たらしいほどに綺麗で、このまま一晩中眺めていたいほどだった。


 ……ああ、本当に来たんだな、異世界。


 改めてそう心にいい聞かせ、最初の戦いが無事に終わったことと、これからの生活への期待を込めて、静かに口元を緩ませたのだった。

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