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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第11章 魔王モール3号店編
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異世界でも娘と父が仲良くし続けるのは至難の業

【あらすじ】魔王モールのバトルに見事勝利し、フードコートで打ち上げをすることになった一同ですが……。娘が激怒しているようです。

「で、お父様?」

 上品モードに戻ったガディ。俺を挟んで父と娘が座る。


 ――ここはショッピングモールのフードコートの大型の円テーブル。


 俺らと副店長は円状に座っていた。

 三号店フルコースというものを副店長のおごりで食べている。謝罪をしたいとのことだった。


 全員、回復魔法を受けて戦いの傷はほぼ回復していた。

 ライムチャートちゃんはまだ箱になってスコリィの横の荷物入れに収まっている。

 ピノキさんたちは騒がしいところは嫌いだと帰っていった。


「なぜ今回のようなことを?」

 迫力ある娘の笑顔にしょんぼりと答えるシュワルツ。


「副店長に抜擢されたのはいいものの、データサイエンス魔法検定1級に落ち続け、酒に溺れ、家族に当たってしまった。そんな日々が2年も続いたある日、異世界人がのうのうと看板を掲げていて感情的になってしまったのだ。仕方ないだろう? 昔はライバルの看板をこっそり壊すなんて当たり前だったんだ」


「昔と今は違いますよ、お父様。隠れてやればいいなんて、短期的に良いことがあることはあっても、長期的には最も愚策です」

 迫力のあるガディを前にして、シュワルツは首を垂れる。

「ごもっともで」


「森をめちゃくちゃにしたのも魔王の指示か?」

 不機嫌な様子でペッカがいう。


「あれは、ノリで……。フォレストドラゴンさんの森とはつゆ知らず……。修繕部隊を明日の朝一で修理に向かわせますのでお許しください」


 ふんっ、と鼻息を吐いて、ペッカは「まあいいだろう。面白い経験もできたし」と言って森の野草の前菜をうまそうに食べる。


 俺は完全に仲介役になっているため食事も楽しめない。

 仲介役なんて生涯、絶対にすることはないと思っていたのに。

「まあ、俺の買った森ですし。軽くでいいですよ、軽くで」


 ルルドナが冗談めかして言う。

「にしても新規店の看板壊して、眠っていた私を誘拐したのよね。美しさって罪ね」

 お願いだから余計な事言わないでくれ。


「看板の件は、……図に乗ったのは認める。申し訳なかった。弁償する。引き抜きは、魔王様の指示だったのだ。魔王ショッピングモールにないものはすべて集めよと。しかし解析不能と判明して、見世物にしていたが、結界壊そうとするし、眠らせるのもめちゃくちゃ上位魔法が必要だし、ぐんぐん魔力経費かかるようになって、大会の景品にすることにするのだ」

 美しさの点は見事にスルーしてくれる。いいぞ。


「それで皮肉にも景品自身が暴れだして、負けったってわけっすね。いやあ、ルルドナさんきれいだったなぁ。さすが私の推しっす!」

 スコリィがルルドナを誉めつつ少しだけ嫌味を言うが、シュワルツは気にせず続ける。


「しかし魔王様の結界が破られるなんて前代未聞だ。ここ30年できいたことがない」


「言い訳ですか? 見苦しいですよ、お父様」

 辛辣な言葉が娘から降りかかる。しかし気にせず父親は続ける。


「いやあ、それにしても強くなったねえガディちゃん。旅は人を成長させるって本当だね」

 いきなりデレるオヤジ。大魔法でとどめを刺されたのに気にしていないようだ。異世界は価値観が違う。


「しかしクタニ殿、もしかして異世界転生のレアスキルをお持ちで? あのゴーレム、ハニワというんですか? あれの力はすさまじいですよ」

「うーん、そうかもしれないですね。実はよくわかっていなくて……」


「一度鑑定してもらったほうがいいかもしれませんね。よかったらぜひ、うちの魔王モール鑑定をご利用ください。今なら1割引きクーポンを発行できますよ」


 ちゃっかり営業してくるシュワルツ。

 ――しかし、その瞬間。


 〈ドンッ!〉

 ガディがテーブルをこぶしでたたく音。

 全員が姿勢を正す。


「お父様、今は謝罪をしているんですよ」

「ははあぁー! 申し訳ございません。お申し付けくだされば、すべて無料で鑑定承ります」

 すっかり頭の上がらないオヤジ。


「えっと、考えておきますね」

 ――鑑定。

 俺はそういうのをされるのが苦手だ。なんだか自分を限定されるみたいでいやなのだ。

 それに俺は粘土をこねていればそれでいい。


「大体、私は自然を感じられる土地で家族と一緒に暮らせればよかったのだ。高い報酬で引き抜かれて、舞い上がり、副店長の地位のために意地を張っていたのかもしれない」

 肩を落とし窮屈そうにするシュワルツ。


「シュワルツさん、やはり能力があろうと、無理なことをしてはいけませんよ。俺も転生する前に仕事で無理をして一日でクビになったことがあります」

 一日でクビのエピソードに全員がドン引きする中、おっさ……シュワルツは、しんみりと言葉を返す。


「そんな苦労をされていたのですか! ……そうですね。私はやはりガーゴイルらしく警備のほうに配置換えしてもらいます。どちらにしろ降格ですし。最新魔法など無理に習得せず、純粋な戦闘能力をアピールして再スタートします。クタニ殿、よいきっかけをありがとう」


 深々と下げられた頭に、喉の奥からしわがれ声で紡がれる言葉。

 やはりおっさんはいい。

 男のつらさをわかっている。


 看板を壊したことやルルドナを誘拐したことを完全に許して、彼のグラスにビールを注ぐ。

 無言で頷き合う。


「これで……、許してくれるかい? ガディちゃん」


「……仕方ないですね。お母様に手紙書くんですよ」

「ああ、書くよ。必ず。あいつは元気にしているのかい?」


 ガディは少し顔を手で隠し、視線を上に向けながら言う。

「ええ、元気ですよ。ちょっと里のほうが忙しそうですけど」


 それを見て申し訳なさそうに微笑んでシュワルツが返事をした。

「そうか」

 グラスでミネラルウォーターを飲んだガディの口元がゆるむ。


 どうやら、一件落着したようだ。


 ……異世界でも娘と父親の関係は大変そうだ。

ひとまず関係は修復されたようです。魔王モール三号店打ち上げ編、もう少し続きます。


2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

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