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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第3章 クレーマー爺さんと捨てられた人形編
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信じるのが強さではない、強さとは信じることである

【あらすじ】若返り転生し、スローライフのため借金で丘の上の屋敷を買いリフォームして雑貨屋を始めたクタニ。そこで雑貨屋の扉を開けた小さな影。

 やってきたのは昨日のゴーレム少年だ。


「おお、イゴラくん」

「昨日はありがとうございました」

「どうだった?」

「バレちゃったんですけど、味があるって喜ばれました!」

「そりゃ良かった。ま、これでも食べてみな」


「え?」


「総菜を作ってみたんだけど。今日はもう売れないだろうから。……って、ゴーレムは人間と同じもの食べるの?」


「はい。異世界からの人は不思議がるんですけど、食べるものは基本的に一緒ですよ」

「まあこちらとしてはそれが嬉しいけど。ともかく味の感想聞かせてよ」


「じゃあちょっとだけ」

 もぐもぐとしているゴーレム少年。

 ……中にどんな消化器官があるのだろう。

「どう?」


「不思議な味ですね。塩っ気が強いですけど……これ、おいしいです!」


「ふふふ、昔から味付けだけは得意でね。塩が強いのは保存のためだから……」

「お惣菜屋に変更してみれば? 器も一緒に売るとか!」


「考えとくよ。……それじゃあ、店番よろしく」

「え?」


「1時間ほどでいいんだ。村の広場でビラ配りしたいんだよ。店主は村の広場でビラ配りしてますといってくれればいいから。どうせ客も来ないだろうし」


「……そういうことなら。まあ、いいですよ。お総菜もいただいたし」

「ありがとう! では行ってくる!」


***

 俺は駆け足で村の広場まで行く。


 広場では人々が広場に設置してあるベンチなどでゆっくりしている。

 幼い子どもたちが走り回って遊んでいる。


「今日から始めました、雑貨屋ですー! ビラをどうぞー! よろしくお願いしまーす!!」


 俺はコンビニで教わった発声方法で、腹の底から声を出して配る。

 少し恥ずかしかったが、もう異世界でまで恥ずかしがってはいられない。


 珍しがった人々が群がって、手持ちのビラはどんどんなくなっていく。


『雑貨屋、日替わりで土器や森の恵みを販売!』

「へえ」

「面白そうだな」

 集まってくる人や亜人やモンスター。ものすごく好意的だ。

「お店を始めたのか! いいねえ!」


「がんばれよ!」

 いくつもの手が、俺の肩や腕を叩く。


(……異世界って、こんなに温かいのか)

 胸の奥に、じんわりと熱が広がる。


 ――だが、それも束の間だった。


「おい! 誰の許可をもらって配っている!」


 ごつい警官のような男が二人やってきた。人間じゃなくて、コボルトだ。

(犬のおまわりさんじゃなくて、コボルトのおまわりさんか)


「許可はないですが、どこでいただけばいいでしょう? 転生したばかりで勝手がわからなくて」


「そういうことか。ふん、こっちだ」


 ああ、転生前のようにネチネチと問い詰められるのだろうか。


 ――実際は、全然そんなことはなかった。


 立派な建物の奥に通された俺は、販売や広告のルールについての説明を担当のピンクコボルトから受ける。

「販売行動許可証ですね。1万ゲルです」

「い、1万……?」

 俺の財布が悲鳴を上げた。異世界にも“役所仕事”があるとは……。だけどルールだ、おとなしく支払う。


 無事に家路についた。すでに日は傾きかけていた。


 夕日を見ながら俺はふと思う。

 ――異世界っていたってまともでは?


 快適な異世界スローライフが始まりそうな予感がした。借金のことがなければ。


 だけど、たいていはそう感じたとき、――転落が始まっている。


***

 店の前にいたのは、年季の入った背の低い爺さんだった。目深にハンチングをかぶっている。

 シワが深く、種族もはっきりしない。


「おう、あんたが店主のクタニってのか」

「……そう、ですけど」

 カウンターの奥に半べそのイゴラくんが見える。


「だめじゃないかぁ。子どもに店番させちゃあ!」


 そういって店の入口をドンドンと叩く。


 カウンターへ体を滑り込ませ、イゴラくんを奥に避難させる。


「えっと、何の御用ですか?」


「ワシは客じゃあ! 昔、この辺に生えていた月見草がほしいんじゃ!」

「月見草?」


「ふん、日本異世界人の言うカブのような野菜じゃ。きれいな黄色の野菜でなぁ、満月の夜に食べれば精がつくんじゃ! 昔はたくさん生えておったが、今じゃめったに生えておらん」


「なるほど。この近くに生えているならそのうち棚に並びますよ」

「満月は今夜なんじゃい! 探してこんかい! ワシはここで怪しいやつがこんか見張っちょるけん」


「あなたが怪しいのでは……」

 小声で言うが、悪口を言ったのは感じ取ったらしい。


「つべこべ言わんで、はよせんかい!」


「えっと代金は」

「金なら……たんまりある」


 札束をちらりと懐から見せる爺さん。

 ――しかしその手は少し震えていた。


 何か事情があるのかもしれない。

 お金も欲しかったので、依頼を受けることにした。


 怯えているイゴラくんを先に帰らせて、俺は森へ向かった。


***そのころ、ルルドナ(主人公以外は三人称)


 ハニワの棺桶に横たわっていたルルドナは、知らぬ間にゴミ捨て場に捨てられていた。


 ――ゴミと間違えられて。しかしそのことを本人は知らない。


(昨日徹夜させたから、機嫌悪くして捨てたの? ……いや、そんなことはないはず)


 疑いの心が浮かぶ。だけど彼の転生前を知っている。

(違う。彼はそんなふうに物を扱う人じゃない。そんなふうに――私を扱う人じゃない)


(だって彼は、決してそんなことをしない人生だった)

 闇が濃くなる時間帯であった。風が強く、周囲の木々を揺らしている。


 彼の涙で生まれたルルドナ。


 ――だけど彼を信じたい、と進み出す。


 その瞬間、直感した。彼がこれからピンチになることを。


(早く行かないと……!)


 体を転がしてゴミ捨て場から抜け出そうともがく。


 捨てられた衝撃なのか、体中に細かいヒビが入っていた。ゆっくりと動いて脱出しようとすると声がかけられた。


「無駄だよ。おれたちは捨てられたんだ」

 話しかけて来たのは足の折れたイス。


「そんなことは、ない」


 次に割れた鏡が話しかける。

「現実を見ろ、捨てられたんだ」


「信じない」


 足元が欠けてしまっていて移動しにくそうだ。


 次は壊れたテーブル。

「諦めろ」


 次は破れたぬいぐるみ。

「やめたほうがいい」


 次は煤けた木の人形。

「どうして動く? ここでゆっくりと生きていくのでいいではないか。暗く汚いが、平穏だ」


 木の人形をにらみつけ、ルルドナは言い放つ。


「私は、異世界の主人の記憶をもっている。クタニは、ずっと孤独だったわ。ずっと、どこにも雇ってもらえず、友人は去り、恋人もおらず、やっと決まったコンビニという店でも一日でクビになったの」


〈ピキッ〉

 頬から頭にかけてヒビが入る。


「ははは! それは無能な主人だな!」


「そしてさらにこちらの世界に来てもすぐに100億の借金をしたの」


〈パキ〉

 肩にヒビが入る。


「無能通り越して無惨な主人だな……」


「それでも、彼は諦めず、平気なふりをして、お店を出した」


 〈ピキピキ〉

 腕のヒビが大きくなる。


「そんなやつが店を出すなんて無謀だろう」


 足を引きづる。


「そう。無能で無惨で無謀で、自信も無い」


〈パキパキ〉

 ――また体が割れ、欠けた細かい破片が散らばる。


 人形や家具たちはあきれている。

「絶対について行っちゃだめなタイプじゃ……」


「でも――」

 ルルドナは暗いゴミ捨て場から、月の輝く道へ向かって進み続ける。


「優しい」


〈ガシャン〉


 ――ついに、右の手首より先が落ちる。

「……」

 ゴミ山の住民たちはだれもしゃべらない。


「……クタニのところに、戻らなきゃ……!」

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