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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第11章 魔王モール3号店編
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敵が最後の悪あがきをして成功する確率は限りなくゼロに近い

 〈ドオォォーーン!〉

 闇の月のような巨岩は、ルルドナの蹴りで2つに割られた。ゆっくりと左右に倒れる。

 

『な、なんと! 絶体絶命を救ったのは、結界の中から出てきた土器人形の蹴り! 一刀両断! いや一蹴両断か!? 信頼区間の棄却域は、なんと真ん中だ!! 平均値の罠を目撃した気持ちです!』 


 ナレーションが混乱している。


 ――いや、会場全体が混乱していた。

 

 巨岩がVの字に割れ倒れる。たった一人の小柄な少女の一撃で。


「……ルルドナは少し見ない間に随分強くなった?」

 すぐ間近に降り立って少女に、何とか言葉をひねり出すと、冷静にルルドナが言う。


「私、重力魔法が使えるみたい。隕石だって、風船みたいに軽くできる」


 それ、いきなり反則級の能力じゃないの……?


「……あれ、でも蹴りは」

「気合よ」

「いや気合すごすぎだろ!」


 ルルドナは俺のツッコミに笑顔になる。懐かしいやりとりに頬が緩んだ感じだ。


 ***

『すさまじい威力の蹴りでした! しかしあの土器少女は今回の景品! 景品が戦いに参加して良いのでしょうか!? 反則では!? と声が上がっていますが……』


 会場がどよめく。

 しばらく固唾を呑む。


『問題ないようです! あれは召喚の一種という判定です! 胸ポケットのハニワによって召喚されたようです!』


 〈オオオオォォー!!〉

 会場が盛り上がる。観客が見たいのは面白い戦いだ。正当なルールではない。


「そもそもこの大会が不当よ! 私は景品なんかじゃないわ!」


 ルルドナがナレーション席を睨む。


「あの浮いているやつに無理やり連れてこられたのよ!」

 空中で副店長とデータサイエンス部長が、しれっと身を縮めて手を取り合っている。


『おおお! 副店長、そんな悪どいことをしていたのか!? 魔王っぽいけど、魔王モールとしてはどうなんだそれは!?』


「シュワルツ! お前の企みは終わりだ! 降参しろ!」

 珍しく威勢よく声を上げる。こういうのは勢いって昔のラノベに書いてあった。


 だが、彼はひるむことなく、勢いで乗り切ろうとする。


「……まだだ! まだ終わらん! 超パレート法則レイン!」

 そういうと頭上に大量の黒雲が発生しだす。


『副店長、最後の反撃だー!  また給与魔力の前借か!? この魔法は、能力の高い2割の敵を動けなくする魔法だ! 土器少女! 明らかにその2割に入っておりますー!』


 〈ザザァァーー〉

 不気味な雨が辺りに降り注ぐ。土砂降りの、ひどく強い黒い雨。


「雨は、まずい」

 俺はすぐに気が付く。


 ルルドナはまだ防水加工をしていない。大量の水が浸透したら、もろく変形してしまう。慌てて自分のコートを脱ぎ、彼女に被せる。


 俺の行動を見てシュワルツが高らかに笑う。

「はははっ! そんなことをしてもムダだ! 雨は防げても、魔力は浸透するぞ!」


 だがそのとき。

 ――シュワルツの高笑いを遮り、雨が、一か所に集まりだす。

 

 まるで、滝のように。

〈ゴオォォォオオ!〉


「――水を、使ったな! オヤジィ!」

 低く、不気味にも透き通った声が響く。


 会場に取り残されていた水の精霊の娘、ガディが口の端を上げる。


 副店長はギョッとした顔で愛娘を見た。

 大量の黒い雨が、ガディの方へ吸い寄せられ凝縮されていく。

 次第に、彼女の周りに黒いオーラをまとった水の巨大な魔法陣ができる。それは会場の全てを覆うほどの巨大。次々と上空へ何重にも展開される。


「し、しまっ……」

 慌てる副店長。しかし、もう誰の目にも遅いのは明らかだった。


ノアの闇洪水(ダークノア・フロード)!」


 彼女の周囲の魔方陣から激しい水のうねりが発生し、嵐の海のような水流が四方からシュワルツとデータサイエンス部長を吞み込んだ。


 ――空中に出現した嵐の海。

 まるで巨大な化け物のように二人を咀嚼していく。


『これはーー! ウンディーネ一族の限られたものだけに使えると言われる幻の魔法だ! 雨の日限定の超大魔法! でもなんか黒い! 娘から父への嫌悪感が混じってるのか!?』


 やがて空中の洪水が静まった。


 副店長シュワルツは、一緒に浮いていたデータサイエンス部長とともによろよろと地面に降り立ち、……仰向けに倒れた。


『副店長シュワルツ様! データサイエンス部長! あまりのダメージにダウーン! これは勝負あり! まさかの挑戦者側の勝利ですーっ!!』


 ナレーションが興奮気味にまくしたてる。


〈ワァァアアアアァー!〉

 観客席から歓声が上がる。


「……勝った、のか……?」

 何とか、乾ききったのどの奥から声を絞り出す。


「……そう、みたいっすね」

 今まで喋れなかったスコリィが隣でぽつりと呟く。高度すぎる戦いの応酬に、どうやらオーバーヒートしていたらしい。


 皆は、戦いの終わりを感じて、次々とその場にへたり込んだ。

 

 ――次の瞬間。

 

 俺には、別の衝撃が来た。


「クタニ、このコート、少しくさいわ……」

 うつむいたルルドナがそっとコートをとり、俺に返す。


 黙ってそれを受け取り、真顔で匂いを嗅いだ。


 たしかに、汗のにおいがする。


 ――幸い、加齢臭ではなかった。


「そうか」

 ある意味俺は、その会場の誰よりも強く、胸をなでおろしたのだった。

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