表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第11章 魔王モール3号店編
48/197

未来を予測する最善の方法はそれをつくり出すことである――信頼区間なんて蹴り飛ばせ

不思議な踊りで研究熱心な敵に打ち勝つことはできるのか?

――会場の奥に設置された大型モニター。


俺の手元のハニワとルルドナの周りにいたハニワが共鳴したのか、ルルドナの周りに置かれていたハニワが――暴れ出した。


会場全体が、目を見開いてモニター向こうのハニワたちの様子を見る。


モニターの向こうのハニワは、腕をぐるぐると回して、まるで踊るように、壁にぶつかる。

〈ピシッ! ……ピシッ!〉


その周囲の空間に、徐々に亀裂が入る。


『魔王様の結界が! ヒビが入っております! これは、呪いの類でしょうか!? 魔王様の結界を風化させています! ああ! しかも 土人形の少女、うっすら目を開けています! 怖いです! これは怒らせてはいけないタイプの人が怒ったときの目だー! こちらを呪い殺さんというほどの怒りが垣間見えるのは気のせいでしょうか!?』


それを見たシュワルツとイケメンワイバーンが、慌てた様子で近寄る。


「……いかん! あの土人形少女からは底しれないパワーを感じる! あれをやって終わらせるぞ! データサイエンス部長!」

「は……、はい!」


二人は天に手をかざし、……上空に禍々しい黒色のオーラを纏った巨大な球状の岩を出現させる。


――それはまるで、闇の月。


『シュワルツ様の次の攻撃は、『信頼区間ルナメテオ』です! 闇の月隕石です! 対象範囲の95%を確実に吹き飛ばします! しかしこの魔力量、……ああ、副店長! 魔王様魔力ローンを借りています! 給料半年分の魔力を、力に使っております! 皆さん、衝撃に備えてください!』


ナレーションが慌てた様子で言う。給料半年分の魔力ってなんだ。


――いや、にしても、アレだめだろ。でかすぎ。ショッピングモール吹き飛ぶって。


闇のオーラに包まれた球状の岩を見ていたら、目の奥の痛みが走る。


同時に、……思考がとぎれとぎれになり、足が動かなくなる。


――見上げ続けていると、黄昏色の残る夜空に、まるで、月。


スコリィもガディもペッカもピノキさんや家具たちも、同様に……動けない。

――これは、絶望。


絶望は良く知っている。

――いや違うさ。気にしすぎだ。きっとテンプテーションの魔法だ。また幻を見せられているんだ。


〈ゴオオォォォ!〉

だが、ものすごい圧力の風があたりを駆け巡る。


わかっている。これは幻影魔法なんかじゃない。


もっと……身近で、ずっと冷たい絶望だ。


踏み出せと言われた俺達が、よく知っている絶望。

動き出したら、――死ぬ。


……そう、絶望は突然、やってくる。人は、あっさりと死ぬ。


そもそも避けることはできない。大きすぎる。

対抗できそうなライムチャートちゃんはまだレンガの中で休んでいる。


この石の塔の結界で守られるかもしれないけど……。

いや、あの大きさは無理だろう。


「「信頼区間ルナメテオ!」」

遠くに聞こえる敵の声。上空の岩が勢いよく落ちてくる。足が動かない。


〈ゴゴォーー! バリバリバリバリ!〉

周囲が嵐の爆音に包まれる。

空気が割れる音。


こちら向かって落ちてくる、闇の月。


死を覚悟したそのとき、――胸ポケットから何かが飛び出すのが見えた。


***


巨大な岩が風を切る音。

いや、落ちてくるのは小さな闇の月だ。


――もう助かるのは不可能だ。


そう悟ったとき。


ポケットから飛び出したハニワ人形が、少女……ルルドナと入れ替わる。


俺の前、城壁の縁にふわりと降り立つ土質の脚。


――ルルドナ。


彼女が脚を振り上げる。

その蹴りに幾重もの魔方陣が重なる。


浮くような感覚。

〈ゴゴゴゴォ!! ダーン!〉


腹の底に響く爆音と土煙とともに、……会場が静まる。


少女の片足を高く蹴り上げた姿。


二つに割れ不自然なほどゆっくりと闘技場に落ちる、――黒い月。


「クタニ」


足をおろし、くるりと振り返った少女が俺に声をかける。

俺は手を伸ばし抱きつくような中途半端な格好をしていた。

咄嗟に助けようとしたのか、それとも――ただ、触れたかったのか。


固まってしまった俺に、彼女は続けて言う。


「ちょっとは、まともな顔になったじゃない」


少女――ルルドナは俺に笑顔を向けていた。

ちょっとだけ意地の悪そうな、屈託のない笑顔。


「元からこうだよ。粘土を練るのが好きなだけな、拙い顔だ」

手を引っ込めた俺はいつもより強がって口の端を上げる。


ルルドナの後ろでは、真っ二つに割れた黒い月が……妙にゆっくりと左右に倒れていった。


感想・コメントお待ちしております!

2025.4.14 やや修正しました.

2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ