魔王モールのデータサイエンス部長は勉強熱心
突然帽子の中に消えたライムチャートちゃんの行動に動揺していると、シュワルツが声をあげる。
「……どんな珍しい魔法でも無駄だ! 出よ! データサイエンス部長!」
〈シュウゥーン!〉
煙とともに竜と人の亜人のような白スーツが出現する。
『データサイエンス部長だ! 若手の黒メガネの高身長イケメンワイバーンだー! 』
空中に浮かんだ白服スーツのイケメンは眼鏡を中指でクイッとして、呪文を唱える。
「……データサイエンス魔法、ヒストグラムワイヤー」
次の瞬間、俺たちは、頭から生えた魔法の糸で結ばれてしまう。
『これは、データサイエンスの基礎魔法! 地味に動きにくい!』
ナレーションの解説。ネタばらしでは……。
スコリィが頭の魔法のワイヤーをつかんで叫ぶ。
「こ、これは切れないっす! でも無理して切るより、このまま遠距離魔法で押し切った方がいいはずっす!」
彼女が直感でものを言う。
……そんなにうまくいくわけが……。
『ああっと、一瞬で弱点を見抜かれたー! 遠距離攻撃で攻めればそんなに脅威ではありません!』
ナレーションがネタバレ解説をする。……いいぞ! もっとやれ。
「今のうちっす! 黒縁メガネイケメンなんて時代遅れっす! アンデサイト・ストーム!」
私情を挟んだスコリィから、複数のドリル状の岩石が出現し、複雑な軌道を描きながらイケメンに向かっていく。
『これは珍しい! 岩石と風の合成魔法だ! ストーンピクシーならではか!これは軌道が複雑! 防ぎ切れるか!』
「予測し、防げ――先読みの盾」
データサイエンス部長から静かに呪文が唱えられる。
――すると、空中モニターのようなA4サイズの板状バリアが出現する。
〈ガガガガガッ!〉
『全て防いだー! さすが新魔法! 無駄なく最小の動きで、強力な魔法を防ぎ切った!』
「はっはっは、どうだうちの部長は強いだろう!」
シュワルツが勝ち誇ったような声をあげる。
「そんなせこい省エネ魔法なんて誰も推さないっす!」
イケメンワイバーンが右目をピクリをさせ、こちらを睨みつける。
……意外と挑発に弱いのか?
「考える時間で先手を取られるぞ! 間抜けー」
俺も挑発してみる。
ワイバーンがメガネを外して、鬼の形相でこちらを睨みつける。
「動く者を消し炭にせよ、――回帰分析フレア」
外したメガネを腕ごと振り回す。メガネが光り出す。
……絵的にどうなの、あれ。
〈ゴオォォーー!〉
滑稽な動作とは裏腹に、……彼の周囲に赤紫の光の炎が巻き上がる。
「テンチョー、言い過ぎっす! あれ絶対やばい魔法っす!」
スコリィがこっちを批難する。
……うっせえ、ノリだよ。
『これは! まさに最新魔法! あの光がメガネから出ている間は、相手の動きを予測し近づく者全てに火柱を上げ、消し炭にするぞ! さあどう出る!?』
またナレーションがネタバレを言う。もっと言って。
「そんなもん、動かずに魔法撃ちまくればいいんだよ! 」
持ち直したガディとピノキさんたちがそれぞれの魔法を放つ。
『これはすごい! 水魔法と闇魔法の融合だ! その数は200を超える! ものすごい魔力の嵐! もはや災害です! さあ、回帰分析魔法はこれを防げるのか!?』
火柱が魔法の行く手を阻む……はずだった。
〈ジュオォォォーーー!〉
次の瞬間、轟音とともに火の柱が蒸発する。
水と闇の複合魔法が、炎を一瞬で飲み込み、蒸気と黒煙が会場を包んだ。
『軌道の先読みは正確だが、属性の相性は最悪だ! 回帰分析フレア、水と闇の魔法に全てかき消される! 後からの触手も迫る! これは万事休すか!?』
――だが、それでも届かない。
〈キィン! キィン! キィン!〉
全ての攻撃は、薄く青白い魔法の板に吸い込まれ、弾かれた。
『さすが! ベイズセオリーバリア! あらゆる攻撃軌道を先読みし、完封する!』
「な、なんだと……?」
「そんな……」
ガディとピノキさんの2人が愕然とする。
『最新魔法、やはり強い! 強烈な魔法を見事防いだー! 先読み省エネの時代がきたかー? いやしかし、メガネを振り回し疲れたのか、データサイエンス部長、かなり疲れている!』
〈ハァハァハァハァハァハァ〉
イケメンワイバーンはガクガクと膝を震わせ、ようやく手探りでメガネを拾い上げた。
その動きは、戦士というよりは、全力で走り切った研究者のようだった。
……いや疲弊しすぎだろ。運動不足かよ。
「にしても先読みの魔法、強すぎるな……計算制度を下げさせれば……でもどうやって……」
俺はあごに手を当てて考え込む。
――そのとき、ポケットに土器人形の感触。
「……これだ!」
俺はハニワの人形6体を取り出して、目の前の手すりに並べる。
「なんでそんなに持ってるんすか!? キモいっす!」
スコリィのいつものツッコミ。
「何とでも言え! 新魔法を見せてやる!」
『これはこれは、見たこともない土人形だ! 新魔法を使う宣言来たー!』
魔法を唱える。
「創作魔法! ハニワリズムメモリー!」
〈ズンタンズンタン!〉
ハニワをリズムよく両手に持ってダンスさせる!
敵も味方も、思わず身構える。
……。
会場が静まる。
「……」
……。
後に、【永遠の数十秒】と呼ばれる時間が、……過ぎ去る。
ナレーションが沈黙を破る。
『こ……これはいったいどういう魔法なのかー!? データサイエンス部長、あまりの予想外の出来事に、震えている! 部長クラスの知識をもってしても、予測不能なようです!』
敵味方、共に凍りついて、数十秒が過ぎる。
――【永遠の数十秒】
だが、何も起こらない。
まったく、何も起こらない。
会場中が俺とハニワ人形を見つめる。
『……もしかして、はったり?』
ナレーションが遠慮がちにたずねる。
〈……コクン〉
あまりの気恥ずかしさに、思わず首を縦に振る。
『は、はったりだー! 何の意味があったのでしょう? まさかこれでデータサイエンス魔法を狂わせようとしてのでしょうか?』
……うっせー。そうだよ。
『なんと浅はか! しかも間が悪い! この間にデータサイエンス部長は戸惑いつつも体力を回復させたようだ! 恥ずかしい! 穴がなくても掘って入りたい!』
ナレーションがこちらの心情を説明する。
……余計なことを言うな。
――しかし、次の瞬間。
俺にも予想外のことが起こった。
『い……いや、そうではない! 皆さんモニターを見てください! 景品の可憐な土人形の近くに置かれていた不気味な人形が暴れて壁を殴っております! 魔王様の結界を壊そうとしています!』
ナレーションの動揺した声。
会場が凍りつく。
――ここから、全てが変わった。
実行した俺ですら、伝説の始まりになるとは思いつきもしなかった。




