魔王モールのバトルは目利きが重要
魔力封じの袋から出された俺たちは、ようやくイモムシような状態から元の姿に戻った。
手と足を思い切り伸ばしてしみじみと呟く。
「まるでイモムシから蝶になったみたいだ。……これが、変態……!」
「それは元からっす」
呆れ顔でスコリィがツッコミを言う。
……あえて否定はすまい。
***
――俺たちはまんまと地下から抜け出した。
地下から上がる階段は固そうな金属レンガのような壁で閉じられていたが、全てライムチャートちゃんが溶かしてくれた。
特に見張りなどがおらず、ずっと階段を登っていく。
――地下一階が馬車乗り降り場。
何台もの馬車が行き来して忙しそうだ。
その地下から、客用の階段と使って、何食わぬ顔でショッピングモールを散策する。
元の世界にいたときのショッピングモールと同じような作りだが、あまりに広大で、すべて壁や床は白いレンガ作りでむしろこちらの方が洗練されている感じがある。
ネットで見た西アジアの市場のような、雑多と整然とが混ざったような空気があった。乾燥した野菜や果物、ジュースやコーヒーを売っており、パンや揚げ物や一口菓子など鮮やかな色をつけて売っている。
――しかし従業員は、……動物だった。
シャム猫の総合案内、リスの試食販売員、イヌの警備員、ゾウが窓拭きをし、ビーバーが品物を陳列している。それらの顔はどこか疲労の影があり、まるでブラック企業に入ってしまった新人たちの無理した笑顔に見える。
しかし、そんなことはお構いなく、異世界の住民はショッピングを楽しむ。
「いやぁ、なつかしいっすね」
3階の見晴らしの良いスペースにいったスコリィが、手を目の上にかざして階下を見ている。
そこにあるのは、円状の吹き抜け。その中央に、幾何学的な色石で組まれた、塔状のオブジェ。
「ルルドナは飾られているって言ってたんだ。それらしい場所にいるかもしれない」
「展示場は大体上の方っす。たぶん最上階の6階っす」
「じゃあ、一般人来場者っぽく自然に向かおう」
俺たちが吹き抜けの階段で向かっていると、……骨董品コーナーがあった。めっちゃ見たい。異世界の骨董品なんて滅多に見れるものじゃない。
「ここじゃないか? ルルドナはここじゃないか?」
ソワソワしながら俺が提案するも、否定される。
「……いや、あそこみたいっすよ」
スコリィの指差した先、一番目立つ位置。吹き抜けのホールのど真ん中に立っている塔のオブジェの一番上。
「ルルドナ!」
見上げたのは巨大な石の檻。そこに眠らされてちょこんと椅子に座っていたのがルルドナだった。
綺麗な白いドレスをつけられて、頭には白銀の 冠、ピンクのリボンでくるまれてまるで何かの景品のようだ。
近くには俺の贈呈した小型ハニワが並べられている。
ひとまず無事なようで安心する。胸の奥が、少しだけ軽くなった。
「あれがルルドナさん? か、かわいい……」
ガディが口元を抑えて顔を赤らめる。
「わかる!? いやぁ、照れるなあ」
俺はまるで自分の子どもが誉められたような感覚になる。
「アタシが最初に推し活始めたっす!」
スコリィが無駄に張り合ってくる。
「うわー、あの子、可愛いかばい」
ライムチャートちゃんも素直に感心している。……ばい?
「何か書いてあるぞ!」
ペッカが叫ぶ。
――ルルドナの足元から下がった横断幕。
そこに書かれていり文字をガディが読み上げる。
「『新月祭バトル大会! 優勝者にはこの不思議な土人形と賞金一千万ゲル!〜当日エントリー受付中〜』だそうです」
***
「出ます」
――新月祭バトル受付。
俺たちは高い参加費を支払い、参加することにした。
5人1組で参加が条件だったから、ライムチャートちゃんも参加してもらうことにした。
「わ、わたし、い、一対一のバトルなら負け無しです。それに、魔王は嫌いです。場合によっては観戦しに来た魔王も倒します」
おとおどしながらも魔王嫌いなところや物騒なことをはっきり言うようだ。……負け無し?
「あの結界は解除するの無理っすね。そもそも別次元か何かにいるみたいっすよ。あれは投影魔法に近いっすね」
スコリィが冷静になって言ったのがきっかけだった。
「アタシ、魔法学校で魔法鑑定スキル講義は満点だったから間違いないっす」
ピースサインをしてくるスコリィ。ピクシー系なので目がいいのかもしれない。
戦闘だけなら、かなり強いメンバーになりそうだったけど、ルールが見たこともないものであった。
『このショッピングモールに展示してある非売品を選びます。参加者がそれぞれ選び、タグを受け取る。総合ポイントを合計し、それに比例した強さの魔物が召喚されます。それを見事倒せば、ポイントです。5人チームで、最も強い魔物を倒したチームの優勝です!』
高すぎても倒せなきゃ意味が無いってことか。
「にしても目利きが必要なバトルだと……?」
異世界の品の目利きなんてできるのか……?
説明に小さく注意書きがしてあった。
『※あと、最悪死にます』
さすが魔王が運営する大会……。
高すぎるやつを選んでも強すぎる魔物を召喚してしまうし、これは意外と厄介だぞ。しかし俺は強気に言う。
「遠慮せずに高そうなの選んできてくれ。こちらにはかなり戦闘力の高いメンバーがたくさんいるから大丈夫」
ドラゴンにウンディーネ、レアスキルもちのゴーレム亜人、――かなり強いパーティだ。
スコリィも魔法学校で優秀だったらしいし。
俺は、……まあ頭数に数えないからテキトーな品物を選べばいいだろうし。
――数時間後、俺は自分の悪運の強さを忘れていたことを後悔した。




