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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第11章 魔王モール3号店編
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ゴーレム妹は人見知り

「あ、あのぉ、も、もう大丈夫ですよ」

 目の前に、巨大なレンガ帽をかぶった少女が立っていた。


 目の下にはクマ、ぼさぼさの黄緑の肩の上まで伸びた髪。服はアルプスの少女みたいなワンピースだけど、くすんでヨレヨレだ。細い手足は、いかにも引きこもりって感じで頼りない。


 だけど、彼女は――魔法の光が宿る片手で軽々と天井を支えている。

 俺たちを押しつぶそうとしていた天井の縁は、溶けたように粘土状になっていた。


 拘束されたまま、俺は尻を突き上げた変な体勢で、ぽかんと美少女を見つめていた。


「あ、……ありがとう。……それで、君は?」

 ようやく、質問する余裕ができて彼女の正体を尋ねる。


「わ、わたしは……」

 

 目をそらし、言いにくそうに名乗る。

「イゴラ・ゴレムの……妹、ライムチャート・ゴレムです」天井を支えている少女が言う。


「は?」

 彼女の体は明らかに人間だ。ゴーレムのイゴラくんの妹なんてあり得ない。

 たしかに頭にはレンガの帽子をかぶっているけど……。


「……えっと、す、少し複雑な家庭環境と……、か、体環境でして。兄の魔力が不安定になる新月の日前後などは、わ、私が出てきちゃうんです」


「なるほど。だから門のときはイゴラくんで、寝たら君だったから、捕らえられずに済んだんだね」


 頷く彼女。天井は持ち上げたまま。


「……それで、いつまでそれ持っているの? 重くない?」


「え? こ、これは、ですね……えへへ」

 やや得意げに笑った彼女の手のひらから、やわらかな光が放たれ、天井がぼんやりと発光しはじめた。岩はゆっくりと溶けていき、やがて粘土のような塊となって彼女の手の中へ。


「こ、ここへ来たのも、お、同じ魔法を使ったんですよ……!」はにかみながら胸を張る少女。


 足元には、いつの間にかぽっかりと穴が開いていた。どうやら、さっきの魔法で道を掘って、そこからここまで来たらしい。


「やっぱり! これは古代魔法の還元魔法っす! 歴史の授業できいたことあるっす! 仕組みがきになるっす!」

 尻を突き上げたままの姿勢でスコリィが声を上げる。

 ……お前はもっと姿勢を気にしろ。


「これは……」

 ドラゴンのペッカが感心する。


「ワタクシより魔力が高いかも」

 デビルウンディーネのガディも素直に驚いた表情だ。


「えっと、……イゴラくんは?」


「あ、兄なら、この頭のレンガの中の空間で寝てます。魔力が安定すれば……、戻ると思います」といって頭を指差す。


 イゴラくん、そんな不思議な存在だったんだ。


「じゃあ、時間が経てば特に何もしなくても自然にイゴラくんに戻るの?」


「わ、わたし、ひ、人前に出るの苦手で……いい、いつも兄に任せて引っ込んでるんです。兄の魔力が不安定なときだけ、わ、わたしが出てきちゃって……」

 兄の中に引きこもる少女……! 新鮮でいいな!


「新たな推し要素が見つかったっす!」

 スコリィが目を輝かせる。

 俺は無視して続ける。

「不思議な関係だな……! イゴラくんはキミのこと知っているのか?」


「し、知らないと思います。ま、魔法みたいなので憑依している状態なので……」


「ていうかどうやってここがわかったの?」


「この不気味なペンダントで全部きいてました」

 ライムチャートちゃんがクビからぶら下げていたものを取り出す。それは、俺が作り、みんなに渡していた、特殊アイテム。


「それは……通信ハニワ!」


「これはすす素晴らしいですね。どど、どんなに研究しても、こんなものを作れるとは思えません!  デザインは良くないですけど」――さすがハニワ嫌いのイゴラくんの妹だ。ハニワのことになると容赦ない。……俺の自信作なんだけど。


「……あのみなさん、ひとまずここから出たほうがよくないですか?」

 キリッとした顔で提案するガディ。さすがお嬢様である、


 袋と縄で拘束され、まるで芋虫みたいな姿なのに、表情ひとつ崩れない。


 そうだ、まずはここから脱出せねば……! 俺はできる限りジェントルな声で彼女に頼む。


「ときにライムチャートさん。俺たちの拘束を解いてもらうと助かるのだが」


 ――尻を突き上げたまま。


「あ、は、はい! き、気づかなくてすみません!」

 おどおどした様子で、彼女は、俺たちの縄を、魔法ですべて溶かして解いてくれた。


 誤字じゃない。彼女は、本当に“生命以外の固形物ならほぼすべて、分解したり溶したりできる”らしい。


 ……いやそれ、ちょっと規格外すぎないか。

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