ゴーレム妹は人見知り
「あ、あのぉ、も、もう大丈夫ですよ」
目の前に、巨大なレンガ帽をかぶった少女が立っていた。
目の下にはクマ、ぼさぼさの黄緑の肩の上まで伸びた髪。服はアルプスの少女みたいなワンピースだけど、くすんでヨレヨレだ。細い手足は、いかにも引きこもりって感じで頼りない。
だけど、彼女は――魔法の光が宿る片手で軽々と天井を支えている。
俺たちを押しつぶそうとしていた天井の縁は、溶けたように粘土状になっていた。
拘束されたまま、俺は尻を突き上げた変な体勢で、ぽかんと美少女を見つめていた。
「あ、……ありがとう。……それで、君は?」
ようやく、質問する余裕ができて彼女の正体を尋ねる。
「わ、わたしは……」
目をそらし、言いにくそうに名乗る。
「イゴラ・ゴレムの……妹、ライムチャート・ゴレムです」天井を支えている少女が言う。
「は?」
彼女の体は明らかに人間だ。ゴーレムのイゴラくんの妹なんてあり得ない。
たしかに頭にはレンガの帽子をかぶっているけど……。
「……えっと、す、少し複雑な家庭環境と……、か、体環境でして。兄の魔力が不安定になる新月の日前後などは、わ、私が出てきちゃうんです」
「なるほど。だから門のときはイゴラくんで、寝たら君だったから、捕らえられずに済んだんだね」
頷く彼女。天井は持ち上げたまま。
「……それで、いつまでそれ持っているの? 重くない?」
「え? こ、これは、ですね……えへへ」
やや得意げに笑った彼女の手のひらから、やわらかな光が放たれ、天井がぼんやりと発光しはじめた。岩はゆっくりと溶けていき、やがて粘土のような塊となって彼女の手の中へ。
「こ、ここへ来たのも、お、同じ魔法を使ったんですよ……!」はにかみながら胸を張る少女。
足元には、いつの間にかぽっかりと穴が開いていた。どうやら、さっきの魔法で道を掘って、そこからここまで来たらしい。
「やっぱり! これは古代魔法の還元魔法っす! 歴史の授業できいたことあるっす! 仕組みがきになるっす!」
尻を突き上げたままの姿勢でスコリィが声を上げる。
……お前はもっと姿勢を気にしろ。
「これは……」
ドラゴンのペッカが感心する。
「ワタクシより魔力が高いかも」
デビルウンディーネのガディも素直に驚いた表情だ。
「えっと、……イゴラくんは?」
「あ、兄なら、この頭のレンガの中の空間で寝てます。魔力が安定すれば……、戻ると思います」といって頭を指差す。
イゴラくん、そんな不思議な存在だったんだ。
「じゃあ、時間が経てば特に何もしなくても自然にイゴラくんに戻るの?」
「わ、わたし、ひ、人前に出るの苦手で……いい、いつも兄に任せて引っ込んでるんです。兄の魔力が不安定なときだけ、わ、わたしが出てきちゃって……」
兄の中に引きこもる少女……! 新鮮でいいな!
「新たな推し要素が見つかったっす!」
スコリィが目を輝かせる。
俺は無視して続ける。
「不思議な関係だな……! イゴラくんはキミのこと知っているのか?」
「し、知らないと思います。ま、魔法みたいなので憑依している状態なので……」
「ていうかどうやってここがわかったの?」
「この不気味なペンダントで全部きいてました」
ライムチャートちゃんがクビからぶら下げていたものを取り出す。それは、俺が作り、みんなに渡していた、特殊アイテム。
「それは……通信ハニワ!」
「これはすす素晴らしいですね。どど、どんなに研究しても、こんなものを作れるとは思えません! デザインは良くないですけど」――さすがハニワ嫌いのイゴラくんの妹だ。ハニワのことになると容赦ない。……俺の自信作なんだけど。
「……あのみなさん、ひとまずここから出たほうがよくないですか?」
キリッとした顔で提案するガディ。さすがお嬢様である、
袋と縄で拘束され、まるで芋虫みたいな姿なのに、表情ひとつ崩れない。
そうだ、まずはここから脱出せねば……! 俺はできる限りジェントルな声で彼女に頼む。
「ときにライムチャートさん。俺たちの拘束を解いてもらうと助かるのだが」
――尻を突き上げたまま。
「あ、は、はい! き、気づかなくてすみません!」
おどおどした様子で、彼女は、俺たちの縄を、魔法ですべて溶かして解いてくれた。
誤字じゃない。彼女は、本当に“生命以外の固形物ならほぼすべて、分解したり溶したりできる”らしい。
……いやそれ、ちょっと規格外すぎないか。




