囚われて縄に縛られたら変な趣味に目覚めないように気をつけろ
どこぞやの文豪の世界に再転生してイモムシになったのかと思ったが、違った。手足を縛られ、首から下を大きなボロ袋に入れられていたのだ。
周りを見ると、同じように袋になったイモムシが転がっていた。
スコリィ、ペッカ(なぜか俺より少し大きい)、ガディ。
いないのはイゴラだけだ。スラコロウもいないが……たぶん物体扱いされたのだろう。
「起きたか。イモムシたちよ。ここは魔王モールの地下だ」
重そうな扉が開き、現れたのは、頭がかき氷のようにとがった魔物だった。
「私は冷凍食品担当、テーブ・ルマーク」
……名前も担当も、やけにしっくりくる。
「お前らのことは門を通った時点で筒抜けなんだよ。ビッグ・ブラザーシステムでな!」
そう言って、門兵の持っていたものと同じ光を手に灯す。
「門兵にスパイを仕込むとは……卑怯だな」
転がったまま睨みつける。
警備が厳しそうなのに、やけにすんなり通れたわけだ。
……それにしても、イモムシ状態で「苦虫を噛み潰したような顔」ができるとは思わなかった。
「いいから縄をほどけ! 俺たちは交渉に来ただけだ!」
「交渉? それは対等な立場の者同士がするものだ。イモムシが対等なわけないだろ?」
「……ぐうの音も出ないな!」
見張り役に論破されるとは思わなかった。
「だが運がいい。今日は月に一度の新月バトル祭だ」
月一って、開催されすぎじゃないか? まあいいけど。
「この流れは……優勝したらルルドナを返すってパターンだな? どうせ賞金も払わないんだろ?」
「え? いや、賞金は出るよ。入場料で黒字だし」
腕を組み、わざとらしく身震いする。
「それにしても……お前、心が汚れすぎじゃない? 最近の異世界人、怖いわぁ」
氷質の腕を組んで寒そうにする。氷の魔物にやられると腹が立つな。
「じゃ、じゃあ縛る必要はないだろ! ほどけ!」
「強制参加させるためだ。夜までは大人しくしていろ!」
そう言い残して去りかけたが、苦し紛れに叫ぶ。
「ここにシュワルツ副店長の娘がいるぞ!」
魔物が足を止め、ゆっくりと踵を返す。
「……シュワルツの娘?」
ガディの顔を覗き込む。ガディはにらみ返すが、テーブ・ルマークは鼻で笑う。
「なるほどな。だが俺はアルディ派だ。シュワルツ派じゃない」
……派閥あるのかよ。
「副店長の娘に乱暴したとなれば、ただじゃ済まないぞ」
「ここは魔王モール、しかも地下三階だ」
氷の声が低くなる。
「迷い込んで、うっかり階段から落ちることもある。……副店長の娘であってもな」
……なるほど。そういうこともできるのか。俺は睨みつけた。
「お前の顔、覚えたぞ。ここで死んだら化けて出てやる!」
これこそまさに苦し紛れだったが、相手の表情が真剣になる。
「……異世界人は、一度死んでから来る存在らしいな。だが、お前は妙にこちらの匂いが馴染んでいる」
テーブ・ルマークの大きな顔を近づけられ、匂いを嗅がれる。……気持ち悪い。
「ふん! 伊達に毎日粘土をこねてないぞ! ルルドナだって僕が作った!」
「……あの不可解な人形を創ったのはお前か?」
しばし考え込み、ぽつりと呟く。
「……面倒なスキル持ちだな。やはり、ここで死んでもらうか」
「え」
「この部屋は天井が落ちてくる仕掛けだ。迷い込んで寝ていたら仕掛けが誤作動して死んだ……それでいい」
扉が閉まり、カチン、と何かが作動する音がした。
***
〈ゴゴゴゴゴッ!〉
大きな音を立てて石の天井が下がり出す。
「うおお!?」
「なんすかこれ!?」
「……ぐぅぐぅ」
目を覚ましたメンバーが騒ぎ出す。一人寝ているけど。
じわじわと秒速10センチくらいで下がっていた天井は、もう1メートルくらいの高さにまで迫っていた。イモムシのまま死にたくない。
「夜のうちに捕らえられたんだ! 地下三階にいるらしい! どうにかできないか!?」
俺が早口で状況を説明する。
「アタシの魔法じゃ無理っす! ていうか、魔法封じの袋にいれられてるじゃないっすか!」
部屋中を這いずり回るスコリィ。動くのうまいな。イモムシの才能がある。……感心している場合じゃない。
「俺様も召喚魔法は無理だ! ていうか部屋はもう少し明るくならないのか!?」
ペッカが混乱して明かりを求める。天井の魔法灯の光は弱々しく、部屋がぼんやりと見える程度である。
「すやすやぐぅぐぅ」
これだけ騒いでも起きないガディはやはり大物である。
「イゴラくんやスラコロウはどこっすか?」
「わからない! この部屋にいないのは確かだ! ていうか起きてくれ!」
俺が叫んでガディの頭に頭突きをする。
「え、なんです?」
寝ぼけ半分のガディが俺の顔を見て、もぞもぞと動いて、部屋の様子と下がってくる天井をみて状況を把握する。
「絶体絶命?」
ガディを見たみんなが頷く。
「みんな! 四隅にいって天井に向かって尻を突き出せ! 尻で支えるぞ! イモムシにだってできることはあるはずだ! 最後まで諦めるな!」
声を上げ、尻を突き出す。
「やむを得ん!」
久々に大きなサイズになっているペッカは俺の真似をして尻を突き出す。
「そんなの嫌っすー!」
「いやーーー! お嫁にいけません!」
叫びつつも、二人はちゃんと隅へ移動した。
僕の尻が、天井に触れる。
もう、60センチもない。
「ペッカと俺は目を瞑っているから、耐えてくれ! 深く考えるな!」
「頼んだぞ!」
俺とペッカは目を瞑り、尻で支えることに集中する。尻で押し返すも容赦なく下がる天井。
――ダメか。
諦めかけ尻に力が入らなくなったそのとき、……天井の動きが止まった。というか圧力がなくなった。
――止まった!?
声を出す余裕もなく尻を上げたまま、恐る恐る目を開ける。
「あ、あ、あのぉ……、も、もう大丈夫ですよ」
始めて聞く声。
そこにいたのは、円状にくり抜かれた天井を右手で軽々と持ち上げて立っている少女。
彼女は、レンガ製の帽子を恥ずかしそうおさえ、はにかんでいた。




