夜中に出てくるモンスターは気持ち悪い奴が多い
ペッカが暗闇を怖がって来ているようですが……。
「……俺様は深い森の中で暮らすフォレストドラゴンなのに、暗闇が……怖い」
ペッカは小さく震えながら呟いた。
「……まあ、わからなくもないよ。森の中は月明かりも入るし、完全な暗闇ってわけじゃないだろ?」
「そうだ。俺様の目は夜でもよく見える。だが、光が完全に消えた空間にいると……子供の頃の記憶が蘇る。今日のような暗い夜は魔法灯がないと寝ることもできない」
ペッカの顔には珍しく怯えが浮かんでいた。普段は威勢がいいのに、こんなふうに弱音を吐くのは初めてだ。
「子供の頃、俺様は……」
そのとき、 ギチギチギチギチ…… という不気味な音が廊下から響いた。
ペッカの顔色がさらに悪くなる。
「……何の音だ?」
俺もすぐに警戒した。ドアの外に出てみると、常夜灯の消えかけた廊下の先に…… うねうねと動く異形の影 があった。
「あれはクレセントワーム……! 月の出ていない暗い夜に出現するやつだ」
巨大なミミズナメクジモンスター 。
長さは5メートルはあろうかという巨大さだ。体をうずまきのように丸めて近づいてくる。
「クソッ、ペッカ! 出番だ!」
「……無理だ」
ペッカは青ざめた顔で俯いた。
「無理って……ペッカ、誇り高きフォレストドラゴンだろ!?」
「無理だ! 暗闇が……動けない……!」
ペッカの体はガチガチに固まり、足が震えていた。完全に恐怖で身動きが取れない状態だった。
「くそっ……!」
その間にもクレセントワームが ギチギチギチ…… と這い寄ってくる。
「俺がやるしかないか……!」
と、身構えたそのとき。
「こっちっす!」
「任せてください!」
それぞれの部屋からカーキ色のジャージのスコリィと、黄色のパジャマのイゴラが飛び出した。
スコリィは素早く魔法を撃ち込むが、ヌメヌメしたクレセントワームの体にはあまり効果がない。イゴラが体当たりするも、弾力がありすぎてダメージにならない。
「ちっ、硬いしヌルヌルしてて攻撃が……!」
「やばい、魔力が吸われるっす! こいつは近くから魔力を吸い取るっす!」
ドレイン系の能力……!
宿の魔法の灯りが消えかけていたのも、こいつの仕業か。
「一旦距離を取れ!」
ゆっくりと這うように近づいてくる巨大なミミズを睨みつける。
二人が来てくれたけど状況は好転しない。
ガディはきっと熟睡している。
俺はいつになく頭をフル回転させた。
こいつ、ナメクジとミミズの合成みたいなやつだから…… 。
「塩だ!」
「は?」
「ナメクジは塩で縮むだろ! 塩をかければ、倒せるかもしれない!」
すぐさま、荷物の中を探る。確か保存用の塩が——あった!
俺は袋から塩を掴んで、クレセントワームに向かって全力でぶちまけた!
「くらえっ!」
〈ジャリジャリジャリッ!〉
塩がクレセントワームの体に降りかかる。
〈ジュウウゥゥ!!〉
異様な音とともに白煙が立ち上る。
〈ギィィィィィィィィッ!〉
クレセントワームは苦しそうにのたうち回り、体がしぼんでいく。
「効いてる!」
皆が袋に手を入れて、袋の中の塩を撒き散らした。
「これで……!」「くらえ!」
クレセントワームは最後の断末魔を上げると、ついに動かなくなった。
俺たちは息を整えながら、それを見下ろした。
「……やった、のか?」
ペッカはまだ震えたまま、ベッドの上で息を詰めていた。
「ペッカ。終わったよ」
ペッカは情けなさそうに俯く。
「……すまない。俺様……本当に、何もできなかった」
「まあ、誰にでも苦手なものはあるさ。でも、克服する方法はいくらでもある」
「……克服、できるのか?」震えるペッカの声。
「そりゃあ、もちろん」
ほとんど空になった塩の袋を振りながら、軽く笑う。
「例えば、塩を常備するとか」
俺の軽い口調にペッカは驚いた顔をして、それから苦笑いを浮かべた。
「……お前、センスないな」
「お互い様だろ」
ペッカはまだ怯える様子だったが、どこか安心したようにも見えた。
ペッカは随分と心をひらいてくれたようです。
夜の話なので夜に更新してみました。
感想・コメントおまちしています!
2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!




