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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第2章 丘の上の雑貨屋、やさしいゴーレムの子
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異世界でも個人店の開店前はだいたい眠れないし、開店しても客は来ない

【あらすじ】ゴーレムとハニワは相性が悪いようで、最初の客であるゴーレム少年をにらみつける、ハニワから生まれた少女。


【登場キャラ】

クタニ:主人公。転生者。土をこねるのが好き。チェックのシャツ、黒いズボン、コケ色のハーフコートで短髪ボサボサ頭。背はやや低め。足腰だけは鍛えている。攻撃スキルなし?


ルルドナ:クタニ作のハニワから生まれた少女。赤のショートヘアに赤い和装の服。肌は土質っぽい。重力魔法をのせた蹴りが強い。身長160センチくらい。


イゴラ:ミニゴーレム。最初の客。

「ははは、浮気だなんて。それに、えらく流暢にしゃべるようになったね」

「ええ、そうよ。あなたの一部が入っているから。もう少ししたらあなたよりしっかりするはずよ」


「一部? ……手垢?」

「涙よっ!」

ルルドナの頭にのったままのハニワのかけらがガタガタと揺れる。


「そのときの記憶があるのか?」


「なんとなくあるわ。ともかく、私は転生前の世界とこちらの世界の両方の素材で作られたから、両世界の知識があるの」


「そりゃご都合主義な……」


「余計なことを考えたらだめよ。で、お店の方はどうなの?」


「ああ、さっきの子、イゴラくんっていうんだけど、最初の客さん。また来るって」

「くん? 変ね、あの子は女の子だと思ったんだけど。勘違いかしら? ともかく、あの子に次の客を紹介してもらうのよ!」


「なるほど。……でも、その前にここをリフォームしないと」

一応、以前の住人も店をやっていたようだが、あまりに狭すぎる。コンビニのカウンターの売り場くらいしかない。


「大工仕事できるの?」


「ネットで見た」

ピースサインをするとすぐに却下された。


「業者に依頼しましょう」

「……そうだね。じゃあ、明日」

「い ま で し ょ!」


どこかの大手塾講師がいいそうなセリフで俺は追い出された。


俺は、真っ赤な夕焼けを見ながら、駆け足でマリーさんの店に向かった。

――普段からランニングしててよかった。


**

「店のリフォームなら、家の旦那がやっているよ。でもあんた、お金あるのかい?」

「出世払いでおねがいします!」

プライドのない俺は土下座して頼んだ。


「ははは、いいよ。あんたは嘘はつかなさそうだし、トロそうだけど堅実に稼ぎそうだ」

「ありがとうございます!」

再び土下座。


「じゃあ、あの家に朝から旦那を送るよ。木材はどのくらいいる?」

「これくらいの商品棚を3つほど並べようと思っているのですが」


コンビニ棚くらいのサイズを手で示す。

「ああ、大体わかったよ。木材はそこまで強くなくていいんだね?」


「はい」

その後、壁紙などいろいろと打ち合わせしたけど、結局コンビニのような作りを目指してしまった気がする。棚3つ分と壁だけなら5万ゲルでいいそうだ。明日の午前だけで終わるだろうということだった。


ついでに、契約書や広告ビラのために紙とペンも余分に買っておいた。


**

「で、明日商品棚ができるとして、並べるものは?」

「今日作った土器と、これから作る作品と、森で取れたもの」


「全然足りないじゃない。今夜は徹夜ね」

「……え?」


「朝まで作るだけ作って、明るくなったら森に売れそうなものを取りに行くのよ。業者さんが帰るときに、しれっと売りつけるの」


「そんなうまくいくかなぁ……」


「やる気次第よ。安心して。今夜は私が、徹夜で応援してあげるから!」


頭を高く掲げ、腕を振り上げて言うルルドナ。


「繰り返すわ。土器作る! 森の野草を総菜にする! 業者さんにそれを売る! わかった?」


「そんなにうまくいくかなあ」

「やる気次第ね。大丈夫、一晩中応援してあげるわ。最低60個は作るのよ」


少しひび割れた頭を高くし、腕を振りながら言う。

その夜、ルルドナは俺の家庭教師のように振る舞った。


「これちょっとゆがんでいるわよ」

「ホントだ」

「こっちに並べておくわよ」

「頼む」

「これ、ひび入ってる!」

「よけといて!」


全く迷惑な話だ。

……いや、ありがたいのか。


俺は土器の型を大量に作る。

転生スキルのおかげで、作ってまとめて置いておけば完成するようだ。


――その調子で、真夜中。

「できたー!!」

60個を作り上げ、クタクタになって眠りについた。


***

――が、ニ時間くらい寝ただけで、ルルドナの声で起こされる。

「起きなさい!」

「ううーん……」

本当なら二度寝するところだが。


森へいって食べられる野草や小川の小魚などをとる。

「あの野草も、この野草も食べられるわ」

知識豊富なルルドナ。

半分眠った頭で言われたとおりの野草を取る。


信じられないほどたくさんの食べられる野草が生い茂り、あふれんばかりの小魚がいた。

豊かな森ってこんな感じなのか。


ぼんやりとした世界でぼんやりと感動する。

――今は、無事に店を開けなければ。


背伸びをしたとき、野草を探しているルルドナが目に入る。彼女は少し寒そうだった。

「ルルドナ、寒い?」

俺は彼女に自分の薄いコートを掛ける。

「え……?」


「できる男はさりげなくこういうことをするのさ」

「……そういうことは、できる男はわざわざ言わないと思うけど……ありがと」


片手を上げて返事代わりにし、野草を再び取り出した。


***

「総菜だけど、さっき作った小皿にちょうどいい感じに盛りつけるのはどうだろう?」

――森から帰って、ここは台所。


野草をゆでたり焼いたりしながら、販売戦略を考える。

「なるほど。セット販売ね」

「うん。特に小皿は量産できるから、セット販売で安売りしても十分利益になる」


「総菜がおいしいのが前提だけどね」

「ふっ……。これを食べてみろ」


ルルドナに総菜を出す。


「……! おいしい!」

「どうだ。一人暮らしで鍛えた料理スキル! 素材の味を引き出す塩加減で右に出る者なし!」


「まったく、そういうことだから……」

「だから?」


「まあいいわ。異世界に来たんだから。昔のことなんて忘れましょ」

「異世界に来たんだから、……か。いいな、それ!」


「やけにテンション上がってるわね」

「いいんだよ。異世界に来たんだから!」


「なにそれ。ふふふ」

機嫌良く笑うルルドナ。だけどその両手と両足にはまだギブスのようなものがついている。

それを痛々しい感じで見つめていると、

「これ? 気にしないでいいわよ」

と元気に振り回す。――だけど。


〈グラッ!〉

バランスを崩してよろめくルルドナ。

「あぶない!」

足を踏み出し慌てて手を伸ばす。

ぎりぎりのところで彼女の体を受け止める。


「あ、ありがと」

「……間に合って、よかった」


「意外と、動けるのね」

「走り込みだけはしてたからな。さあ、もう準備も整いそうだから、座っててくれ」


彼女を抱え、ゆっくりとイスに座らせる。

土でできているその体は、なぜかすごく軽かった。


ようやく、太陽がはっきりと顔を出し、窓から光が差し込み出す。

――さあ、開店だ。


***

次の日の八時頃、マリーさんの旦那さんと二人の業者が来て手際よく店舗にしてくれた。

この家は奥に広く、手前の半分ほどを店にした。店と住居がちょうど半分ずつで、囲むように土間がある。


結局、間取りはコンビニのようになってしまった。さすが一日コンビニに勤めたことはある。もちろん、冷蔵庫や冷凍庫などはないけど。

「じゃ、あっしらはこれで」


あまりに手際よく作業が終わり、昼前に終わってしまった。途中監督するふりをして寝ていたことは内緒だ。帰ろうとする業者たちを呼び止める。


「あ、ちょっと待ってください。よかったらこれ……」


本当は寝てしまいたい俺は森の小川で取れた小魚と香草を佃煮のようにしておいたものを差し出す。


「お、気が効いてるね!」

業者が笑顔で受け取る。


「こんな美味いもん、どこで覚えたんだ?」

「一人暮らしが長くて……」

「ははは、そりゃ頼もしい!」


業者たちは次々に口に放り込んで、惣菜はすぐになくなった。


「うまかった! ごっそさん!」


笑顔の業者を家の外まで送り出し、お辞儀をする。


何か忘れている気がしたけど、そのときは作業が終わったことにほっとして、俺は機嫌よく家に戻った。


***

……あれ、ルルドナがいない。


いつものように、窓際でくるまって寝ていると思ったのに、姿がどこにも見当たらない。

「どこかに出かけたのかな……」


昨日、イゴラくんに驚かれたのがショックだったのかもしれない。

そういえば、昨夜――

彼女は森に戻り、割れたハニワのかけらを拾い集めたと言っていた。


それらをつなぎ合わせ布団のようにかぶせ、まるで“同族の破片”に抱かれるように眠ってたのが印象に残っている。

ひび割れた体に、静かに寄り添うように。

……まあ見た目はハニワ型の棺桶なんだけど。


「……どこか暗いところで寝ているのかな」


それ以上は考えず、ともかく急いで商品を棚に並べ始めた。今日は、開店初日なんだ。


「たくさんの土器、薬草数種類、森野菜の塩漬け、森のフルーツ、小魚の佃煮、森のきれいな石、薪用木材か」

というか、ほとんど土器になってしまっている。

ちなみに一人暮らしが長かったおかげで、日持ちのする漬物や佃煮は得意だ。


(ルルドナが言っていた通り、土器を多く作っておいてよかった……)


俺は簡単な木の板に雑貨屋と大きく書いて、通りから見えるように並べ、西洋の個人商店らしくドアを開け放しにした。


「よし、店の体裁が整ったかな」


あこがれていた自分の陶器をさりげなく売る雑貨屋。

ドアを開け、カウンターに腰掛け、年甲斐もなくワクワクした。


……が、同時に緊張の糸がきれたのか、眠くて眠くてカウンターの奥でウトウトと船を漕いでしまった。それも、日が傾く時間まで。


――当然、客はゼロ。


「もう今日はどうせ客は来ないだろうし、ビラ配りにいきたい。だけどそうすると店が空になる……初日から店に誰もいないのは印象悪いよな……」


うーん、と惣菜をつまみながら悩んでいると、店の入口に小さな影が現れた。


「あのぉ」

一応、開店できたようですが。やってきた小さな影は誰でしょう?


2025.4.20 修正しました。

2025.5.31 修正しました。タイトル変更しました。

2025.8.9 主人公の一人称を僕から俺にしました。

2025.8.13 ルルドナとの開店前準備シーン追加しました。


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