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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第10章 三日月の宿場町編
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深夜の宿でドアをノックするのはフラグのたった美女とは限らない

【あらすじ】ルルドナを取り戻すため、魔王モール2号店へ向かうクタニ(転生者)、スコリィ(長身のストーンピクシー)、イゴラ(ミニゴーレム)、ペッカ(フォレストミニドラゴン)。広場販売で馬車代を稼ぎ、通販部隊に勝利し、中継地の宿場町へ。→【三日月の宿場町編】スタート!

 ――三日月の宿場町。

 俺達は安宿に泊まることにした。


 安い宿にしたから、基本的にすべての設備は……ボロい。ベッドや椅子、机も傾いている感じがする。

 だが、個室だ。夜に土をこねるには個室がいい。


「オイラはお前らの命の恩人だからな。VIPルームだな」


 四角いスライムはそう言っていい部屋に泊まろうとしたが、慌てて止めて、俺の部屋に泊まらせることにした。宿の人には大きめの足置きと説明した。


「そもそも名前はなんていうんだよ。宿帳に書けなかっただろ」

「スライムに名前なんてないぞ。すぐに分裂したりくっついたりするからな。オイラは今そういうことできないけど」


 ……固くて分裂できないのか。


「自我があるのなら、名前はあったほうがいいんじゃないか?」

「そうかなあ。オイラの村では必要なかったけどな。どうしても必要ならお前考えろよ」


「お前じゃない、クタニだ。じゃあ夕食までに考えておくよ。明日の夜までは一緒に行動するんだし」


 居酒屋の上の階が宿になっているパターンの宿だ。各自荷物を部屋に置き、ウェルカムドリンクの怪しいお茶を飲みながら、俺達は一階の飲食スペースで雑談する。


「ワタクシ、寝床は泉や池などあればそこでいいのですが……」

 水の精霊ガディが申し訳なさそうにしている。


「いやいや、年頃の娘さんを野宿させるわけにはいきませんよ」

 ちょっと紳士っぽく振る舞ったが、実はガディまで入れると集団割引が適用されるのだ。大人の事情という奴か。


「夕食まで時間があるから自由行動にしよう。明日は夜まで馬車で走り通してファストライフシティにつくからあまり疲れることはしないように」


 魔王通販部隊との戦闘では、俺達はほとんど動かなかったが、精神的に何か疲れはきている。


「アタシは、珍しいもの仕入れてくるっす!」

「あ、ボクも小麦粉やパンをみてきます!」


「ワタクシも街を見てみたいです!」

 宿に来るまで、宿泊客用にパンやお菓子の店がちょくちょく並んでいた。


 スコリィはピクシーの特性上、花の蜜など甘いものが好きらしかった。

 ガディはそもそもこういう宿場町に来ることが初めてらしく、子どものようにそわそわしていた。


「あまり食べすぎないように……。俺は部屋で粘土こねているから、皆は街を散歩がてら情報を集めてきてくれ。夕食は夜7時からだから、遅れずに集合するように」


 といって解散した。給料の先払いとしてお小遣いを2万ゲルほど渡した。


「俺様はここにいるぞ」とペッカ

「オイラも別に興味ないな」と四角いスライム。


 何故か不安そうなペッカは、四角いスライムと安物のソファに座り、猫のように香箱座りして日当たりの悪い窓の外を見ていた。


***

 その日の夜、夕食をとる俺たち。


 ――宿の一階、ほぼ居酒屋。


 宿泊客がそれぞれのテーブルで食事をとっている。メニューはなく、その日の食材で決まっているようだ。今日の料理は、野菜たっぷりの中華炒めのような素朴なもの。味は悪くない。


「にしても、テンプテーションの魔法は厄介だな。ショッピングモールではあんな魔法がかけられるのか?」

 唯一ショッピングモールに行ったことがあるスコリィに尋ねる。


「うーん、推し活する人には効いてるか効いてないかわからないっすけど、多少はあるんじゃないんすか?」


「そんなことをして売るなんて許せません」ガディは静かに拳を握りしめる。


「あんな魔法、一時的な販売にしか使えんだろう。長い目でみると必ず疑問に思う者が出てきて、破綻する」

 ペッカの分析に俺が質問する。

「でも強力なんだろ?」


 ペッカは認めたくないような表情で答える。

「ああ。俺様やガディ嬢でもかかってしまうとは、かなり強力な魔法だ」


 視線を向けられたガディが続ける。

「しかし買い物欲を刺激する魔法なんてどうやって開発したのでしょう?」


「ま、そういう魔法があるってことがわかっただけでも良しとしよう。いざとなればこのスライムのスラコロウがどうにかしてくれるさ」


「え、スラコロウ?」

 目をまんまるにして俺を見るスライム。


「うん、サイコロ状のスライムだからスラコロウ」

 スライムは意外と照れくさそうに話し出す。


「何か……いいのか悪いのかわかんねえな。ま、短い付き合いだが、そう呼んでくれ。オイラはスライムのスラコロウ!」

 四角形から少しだけ形が崩れるスライム。みんなが拍手する。


「あ、柔らかくなってない?」

 俺がつついてみる。柔らかくなっている気がしなくもない。


「つつくな! 撫でるな!」

「じゃあこねちゃおうかなぁ」

 

 こねるような手つきで撫で回す。

「変態っす!」すばやいスコリィのツッコミ。


 俺の手が一瞬、固まる。


 その隙にスラコロウはぴょんと逃げて、ガディの膝の上に着地する。

「オイラはここがいい」


「あら、ふふふ」

 乾燥したグミのようになった機嫌のいいスライムが膝に座り、まんざらでもないガディ。


 ……エロスケって名前にすればよかった。


 四角いスライムを羨ましがっているようを悟られぬよう、俺たちは素朴な料理を楽しんだ。


***


 夕食後、俺はエロスケ、もといスラコロウと部屋に戻る。

 月魔力時計を見ると、9時前だった。ともかく焼き物を多く作っておかねば。


 ペッカに召喚してもらっていた粘土をこねる。

 スラコロウが俺を見て言う。


「よくそんなものに熱中できるな」


「お前も大人になればわかるよ」

「オイラより年下のくせに」


「精神年齢の話だ」

 ふーん、と興味無さげに言って、窓の近くに行ってさっさと寝てしまった。


 宿屋の三階。部屋に備え付けていある魔法の光は弱々しい。


「安宿だからこんなものか」

 俺は細かい作業はあきらめ、簡単な小皿やコップを作ることにした。


 ――ルルドナを心配する気持ちは強かった。強大な敵に対する不安も大きい。だけど、そういうときこそ、単調作業に没頭するのが俺の精神安定法だ。


 こねこねこね。


 3時間ほど没頭する。手を休めたとき、ドアが小さくノックされた。

 瞬時に気がつく。


 ――この展開……! きっと好感度の上がったキャラが告白しにやってきたのだ! 

 足取り軽くドアに近づいたとき、……意外な声がした。


「……俺様だ。入っていいか」

 ペッカの声。様子がおかしい。すぐに深刻であることを理解し対応する。


 ドアを開けると……ペッカが震えながら立っていた。

「すまない。部屋の明かりが消えてしまった。ひとまず、入れてくれ」


 薄暗い廊下から逃げるように中に入ってくる。廊下の魔法の灯りも弱々しく、ほとんど暗闇だった。

「大丈夫か? 水、飲む?」


「ああ、すまない」

 俺はガディにもらっていたミネラルウォーターをコップに注いで渡す。器用に受け取ったペッカは一口飲んだきりベッドに座って俯いている。


 しばらくして、スライムが寝ているのを確認し、言いにくそうに話し始める。

「……実は俺様、弱点がある」


「そりゃ、誰だって弱点はあるよ」

 弱点のない生き物なんてこの世にいない。いるとしたら神様だけだ。


「そうじゃない。……この前、皆が言っていたような弱点じゃない。俺様は深い森の中で暮らすフォレストドラゴンなのに……、暗闇が、……怖い」

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