趣味を理解されない苦しみは田舎オタク共通→ペッカの語り
戦いが完全勝利に終わり、俺は強気に出ていた。
「さあさあ、俺の作ったハニワ人形を買ってもらいましょうか」
親指サイズのハニワ人形を背負っていたリュックから取り出す。
――その数、およそ100体。
「ぐっ……! どんな相手でもビジネスの取引は必ず守ります。それが魔王モールの掟……!」
俺は口の端を上げ高らかに言う。
「では、ハニワ人形100体お買い上げで、100万ゲルになります!」
……。
なぜか沈黙が場の空気を支配する。
「……て、てんちょー。さすがにそれはひどいっす」スコリィのいつものツッコミ。
「悪徳商人になるつもりか?」ペッカの批難。
「不潔です」誰だ不潔って言ったやつ。
拳を掲げて叫ぶ。
「抽象芸術の極地、ハニワの良さがまだわかんないのか!」
……。
返事なし。
肩にポンと手を置くスコリィ。
「推しが周りに理解されない悲しみ、わかるっすよ。でも、押しつけはよくないっす。推しだけに」
「うまいこと言ってんじゃねー! あーもういいですよ、全部で1万ゲルでいいですよ。俺がコツコツ作り上げた百体のハニワたち1万ゲルでいいです!」
「……なんか、すみません」
魔王通販部門のシラトリに謝られ、サンドイッチとコーヒーの余りを美人オーガのメイドにもらった。
こうやって、俺たちの魔王通販部隊のゲリラバザー対決は無事に終わったのだった。
……俺の心を除いて。
***
〈ガタタンゴトン、ガタタンゴトン〉
魔王通販部隊をやりすごし、馬車は森の中を進む。
ガディが残り時間を皆に伝える。
「あと6時間くらいでひとまず宿泊所らしいです」
皆で買ったものを確認する。合計3万ゲル分を買っていた。高級小麦粉、高級はちみつ、一人暮らし本、ミネラルウォーター、小型のロクロと『世界の粘土図鑑』。
「完全な赤字だ……。これが試合に勝って勝負に負けたってやつか……。だけど、彼らはどうやって俺たちの好みを調べたんだ? 会ったばかりだぞ?」
俺の疑問にスコリィがハチミツをなめながら答える。
「データサイエンス魔法は、会ったばかりの人の好みもわかるらしいっすよ」
すごい魔法だが、俺はため息をついて批判する。
「夢がないなあ。販売ってのは自分の好みを周りに広めるのが楽しいのに……。ああ、異世界にハニワブームを巻き起こしたい」
「やめたほうが、いいですよ。不気味すぎます」
イゴラくん。彼はハニワのことになると毒舌である。
ペッカもガディも俺から目をそらす。
……もうこのメンバーでハニワの話をするのはやめよう。
「とにかく、馬車移動で時間があるんだから、魔王や一昔前の大戦のこと聞かせてくれ。それで、ルルドナ救出の戦略も考えよう」
「そういうことなら、俺様が話そう」ペッカが語り出した。
***(ペッカの語り)
「この世界はそもそも、いろんな大陸がそれぞれ平和に暮らしていた。交流はあったが、そこまで多くはなかった。しかし、魔王が世界を支配しようとした。力での支配だ。
――だが、勇者に倒された。
宝も城も奪われた魔王は、命までは奪われなったが、ほぼすべてを奪われ、小さな島に流された。
しかし突然、魔王と生き残った奴らで小さな店を始めた。小さな店だ」
つい口を挟む。
「もしかして魔王は転生者、なのか?」
「さあな。転生者が変化の魔法で魔族っぽくなっているだけかもしれんな……。とにかく、魔王は力による支配をやめ、小さな店から、次第にこの大陸で店舗を拡大し、ショッピングモールをやりはじめた」
一見美しい成功物語のようだけど、魔王がやっているとシュールである。
「要するに、力では無く、経済で支配しようとしたのだ。我々が気が付いたときは遅かった。いつの間にか魔王は世界中にショッピングモールを展開し、世界経済を握り、誰も反抗できなくなっていった。もっとも、庶民は反抗する意味もないからな。魔王モールで安く、そこそこの品質のものが何でも手に入る」
「……ただ、狂ったように物を買い始め、人々はモノを大切にしないようになった。ピノキさんたちの古いおもちゃや家具が修理されず、山や海に捨てられるようになった」
少しだけ寂しそうなペッカの横顔。
「……魔王とドラゴンとの関係は?」
「知識で圧倒していたドラゴン族は伝統工芸で対抗しようとして、転生者からマーケティングなども学んでいたが、勢いを止めることはできなかった」
ドラゴンが伝統工芸……シュールすぎる。だけどそれは、転生前の動物たちと似ている感じがする。
「ドラゴンはもしかして絶滅に向かっているのか?」
「そこまではいかない。だが随分と数は減った。世界は平和になりすぎた。ドラゴンを始め、他の種族も世界経済の複雑なことはよくわからなくなった」
なんか本当に俺のいた元の世界と似ている。ドラゴンじゃ無くて大型の動物だけど。少しうつむいたペッカが続ける。
「我々は、この世界の残された森や自然の中で力を磨くことにした。俺様たちフォレストドラゴンは、木彫り細工中心だ」
ドラゴンの爪が木彫りに使われている異世界があるとは。
「転生者は魔王を倒そうとはしないのか? 勇者とかになったりするんだろ?」
転生者はチート能力を与えられる。なら、魔王を倒そうとするやつがいるかもしれない。
「わからん。だがここ最近は、誰も立ち向かったという話はきかない。ショッピングモールが襲撃にあったという話もきかない」
「俺は倒しに行くわけじゃないんだけど、それはいい?」
「まあ、無理強いはしないさ。俺様だって今回は偵察という意味で向かうつもりだ。魔王モールは巨大になりすぎた。一匹の力でどうにかできる次元を超えている」
ガタンゴトンと馬車は揺れる。
「まあさっきの魔王通販の奴らだって、悪どいことしてたし、副店長は誘拐はするし、油断してはいけないのは確かだろうな」
しまった。副店長はガディの父親だった。俺の失言にガディが勢いよく頭を下げる。
「うちの父がご迷惑を……!」
あまりに深く頭を下げるので、慌てて面を上げさせる。
「いやいや、とにかく様子を見てみよう。実際に自分の目で確かめないと何事もわからない」
「ああ、俺様も同意見だ。一人暮らしも慣れてきたし、都会に行ってみるのも悪くない。ショッピングモールというのは、何でも手に入るのだろう?」
ひとり暮らし始めた大学生のノリじゃん。……まあいいか。
午後の昼下がり。馬車は不気味なほど穏やかな道を進んでいった。




