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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第10章 三日月の宿場町編
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趣味を理解されない苦しみは田舎オタク共通~この異世界の設定~

魔王通販舞台のゲリラバザー対決に勝ったようですが。

戦いが勝利に終わり、俺は強気に出ていた。


「さあさあ、俺の作ったハニワ人形を買ってもらいましょうか」


親指サイズのハニワ人形を背負っていたリュックから取り出す。

――その数、およそ100体。


「ぐっ……! どんな相手でもビジネスの取引は必ず守ります。それが魔王モールの掟……!」

俺は口の端を上げ高らかに言う。

「では、ハニワ人形100体お買い上げで、100万ゲルになります!」


「……て、てんちょー。さすがにそれはひどいっす」スコリィのいつものツッコミ。

「そうですよ。そんな不気味なものに100万ゲルはないですよ」イゴラくんのいつにないツッコミ。


「悪徳商人になるつもりか?」ペッカの批難。

「不潔です」誰だ不潔って言ったやつ。


「兄ちゃん、そりゃないぜ。ゴミ人形のほうがまだましってもんだぜ」

ピノキさんたちにも異世界人にハニワの良さが伝わらないらしい。


拳を掲げて叫ぶ。

「抽象芸術の極地、ハニワの良さがまだわかんないのか!」

……。


返事なし。


肩にポンと手を置くスコリィ。

「推しが周りに理解されない悲しみ、わかるっすよ。でも、押しつけはよくないっす。推しだけに」


「うまいこと言ってんじゃねー! あーもういいですよ、全部で1万ゲルでいいですよ。俺がコツコツ作り上げた百体のハニワたち1万ゲルでいいです!」


「……なんか、すみません」

魔王通販部門のシラトリに謝られ、サンドイッチとコーヒーの余りを美人オーガのメイドにもらった。


こうやって、俺たちの魔王通販部隊のゲリラバザー対決は無事に終わったのだった。


**

〈ガタタンゴトン、ガタタンゴトン〉

魔王通販部隊をやりすごし、馬車は森の中を進む。


御者にきいてきたガディが残り時間を皆に伝える。

「あと6時間くらいでひとまず宿泊所らしいです」


皆で買ったものを確認する。合計3万ゲル分を買っていた。高級小麦粉、高級はちみつ、一人暮らし本、ミネラルウォーターと『いい水百選』、小型のロクロと『世界の粘土図鑑』。


「完全な赤字だ……。これが試合に勝って勝負に負けたってやつか……。だけど、彼らはどうやって俺たちの好みを調べたのだろう?」


「そういうデータを集めるデータサイエンス魔法があるらしいっす」


「夢がないなあ。販売ってのは自分の好みを周りに広めるのが楽しいのに……。ああ、異世界にハニワブームを巻き起こしたい」


「夢見すぎっす」とスコリィ。

「やめたほうがいいですよ。不気味すぎます」イゴラくんも続く。

彼はハニワのことになると毒舌である。


ペッカもガディも勢いよく首を縦に振っている。

……もうこのメンバーでハニワの話をするのはやめよう。


「とにかく、馬車移動で時間があるんだから、魔王や一昔前の大戦のこと聞かせてくれ。それで、ルルドナ救出の戦略も考えよう」


「そういうことなら、俺様が話そう」ペッカが語り出した。


***(ペッカの語り)

「この世界はそもそも、いろんな大陸がそれぞれ平和に暮らしていた。交流はあったが、そこまで多くはなかった。しかし、大型の移動手段ができ、魔王が世界を支配しようとした。力での支配だ。


――だが、勇者に倒された。


宝も城も奪われた魔王は、命までは奪われなったが、ほぼすべてを奪われ、小さな島に流された。

しかし突然、魔王と生き残った奴らで小さな店を始めた。小さな店だ」


つい口を挟む。

「もしかして魔王は異世界人かと思っていたけど、違うのかな?」

「さあな。異世界人が変化の魔法で魔族っぽくなっているだけかもしれんな……。とにかく、魔王は力による支配をやめ、小さな店から、次第に店舗を拡大し、ショッピングモールをやりはじめた」


一見美しい成功物語のようだけど、魔王がやっているとシュールである。


「我々が気が付いたときは遅かった。いつの間にか魔王は世界中にショッピングモールを展開し、この世界の経済を握り誰も反抗できなくなっていった。もっとも、庶民は反抗する意味もないからな」


「安く、そこそこの品質のものが何でも手に入る。ただ人々はモノを大切にしないようになり、狂ったように物を買い始めた。ピノキさんたちの古いおもちゃや家具が修理されないで、山や海に捨てられるようになった」


「ドラゴンとの関係は?」

「知識で圧倒していたドラゴン族は伝統工芸で対抗しようとして、転生者からマーケティングなども学んでいたが、勢いを止めることはできなかった」


「ドラゴンはもしかして絶滅に向かっているのか?」

「そこまではいかない。だが随分と数は減った。世界は平和になりすぎた。俺達も経済の複雑なことはよくわからなくなったし、今は一見うまくいっているし、いいのではないかと思うようになってきた」


なんか本当に俺のいた元の世界と似ている。

「ともかく我々魔物は、この世界の残された森や自然の中で力を磨くことにした」

「転生者は魔王を倒そうとはしないの?」


転生者はチート能力を与えられる。それで倒そうとするやつがいるかもしれない。

「わからん。だが誰も立ち向かったという話はきかない。ショッピングモールが襲撃にあったという話もきかない」


「俺は倒しに行くわけじゃないんだけど、それはいい?」

「まあ、無理強いはしないさ。俺様だって今回は偵察という意味で向かうつもりだ。一匹の力でどうにかできる次元を超えている」


ガタンゴトンと馬車は揺れる。

「まあさっきの魔王通販の奴らだって、悪どいことしてたし、誘拐はするし、油断してはいけないのは確かだね」


俺の言葉にガディが頭を下げる。

「うちの父がご迷惑を……」

「いやいやとにかく様子を見てみようよ。実際にこの目で見てみないと何事もわからないよ」


「ああ、俺様も同意見だ。一人暮らしも慣れてきたし、都会に行ってみるのも悪くない」

ひとり暮らし始めた大学生のノリじゃん。……まあいいか。

午後の昼下がり。馬車は不気味なほど穏やかな道を進んでいった。

魔王の秘密がまたわかりました。純粋な経済活動に見えますが。

さて、次の宿泊所で衝撃の事実が明らかになります。


感想・コメントお待ちしております!

2025.8.14 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

2025.8.15 誤字脱字の修正しました!

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