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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第9章 馬車移動と硬いスライム編
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ちょっとだけ買おうと思ったら大体余計なものまで買っている

 ――魔王通販部隊アマゾネスワン。

 大量の馬車で各地を巡り、すれ違う馬車にゲリラ的にバザーを開く、魔王直属の超行商部隊だ。


「わたくしは、アマゾネスワンの――白鳥(しらとり)と申します!」

 澄んだ声が響く。黒い肌に白いシルクハット、白服がやけに映える長身の女が馬車の進行を塞いでいた。


「さあ! 降りてくださいませ! ただいま特別バザー開催中! 一人一品、お買い上げいただければ道をお通しいたします!」


 ……買わないと通さない。まさに魔王的ルールだ。


 俺らがためらっていると、黒いゴーレムやオークたちが馬車の周りを跳ね回り始めた。

 〈ドドンッドン! ドドンッドン!〉

 車輪が揺れて、胃袋も揺れる。だんだん気分が悪くなる。


「いいっすか、これは戦いっすよ!」

 経験者のスコリィが珍しく真顔になる。

「相手は営業トークで好みを射抜いてきます! 惑わされちゃダメっす!」


 しかし地面はすでに即席の露店で覆われ、俺らが降りた瞬間、バザーの匂いと声が洪水のように押し寄せてきた。


 馬車のドアを開けると、そこにいたのは細い目をキラリと光らせた商人。

「これはまた、面白い顔ぶれですねぇ。異世界人、ストーンピクシー、小さなゴーレムにドラゴン、そして……デビルウンディーネまで!」


 スライムはまだ見つかっていない。サイコロ椅子のふりをして転がっている。


「安いもの一つだけ買って通り抜けるぞ」

 俺はそう決めてバザーに足を踏み入れた――が。


「お試しのサンドイッチとコーヒーをどうぞぉ! もちろん毒なんて入ってませんからねぇ」

 にっこり笑う美人のオーガメイドが差し出す。

 

ふわりと鼻をくすぐるパンの香り、湯気を立てるコーヒー。

 ――これは、サンドイッチ戦略!(※本当の意味は違う)

 だが、相手の戦略に気がついても無駄だった。


 気がつけば、コーヒーとサンドイッチ片手に買い物が始まっていた。


 イゴラは高級小麦粉(2000ゲル)。

 スコリィは花のはちみつ(4000ゲル)。

 ペッカは分厚いライフハック本(1500ゲル)。

 ガディは(5000ゲル)。

 俺は……持ち運び可能な小型ロクロ(8000ゲル)。


「みなさん、すごーい! でももっと素敵な品もありますよぉ?」

 オーガメイドが甘く囁く。気がつけば財布の紐は跡形もない。


 その時だった。

 胸ポケットの中で、もぞもぞと動く感触――そして、頬に鋭い痛み。


「いって!」

 小ルルドナが、じっと俺を睨んでいた。

「しっかりなさい!」


 頭の中がスッと晴れる。周囲を見れば、仲間たちは皆、うつろな目で商品棚を見つめている。

 ――誘惑(テンプテーション)系の魔法! 物欲を直接刺激して買わせるやつだ!


「いけない! みんな、出るぞ!」

 叫ぶが、返事はない。足は棚へ、視線は値札へ。


 進路を塞ぐ白鳥が、紅い唇を吊り上げた。

「……ここを逃がすと、二度と手に入らないかもしれませんよ?」

 その目を見た瞬間、視界が吸い込まれる。


「……そうかもしれませんね」

 俺の口から、勝手に言葉がこぼれた。


 次の瞬間。

 〈ドンッ――!〉


 サイコロが弾丸のように飛び込み、白鳥の悪魔に激突した。

 シルクハットが地面に落ち、周囲の空気が凍りつく。


 俺はその光景を、どこか遠くの出来事のように見つめていた――。

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