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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第9章 馬車移動と硬いスライム編
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一難去ってまた一難、異世界の馬車移動はフラグしかない

 珍しくペッカが慌てた感じになり声を上げる。


「な、なんだ!?」

「しまった! いまのなし!」


 かわいらしい声が響く。子どものようだ。


 サイコロの形をしたイスは、壁にぶつかった衝撃で変形していたが、またもとの立方体の形に戻る。

 馬車の中が静まり返る。

 

「……いや、もう遅いよ」

 

 無害そうな足元に転がった立方体を撫でまわす。青緑色の石のようだが、触ると餅の表面のように微妙なざらつきがある。


「うーん、この質感、スコリィのそれと似ているな。肌を硬質にする魔法か?」


 抗議するように四角いスライムが叫ぶ。

「違う! そういう体質だ! 硬くなってしまうんだ! ていうか撫でるな! つつくな!」


 声がどこから出ているかわからないけど、良いツッコミだ。


「えっと、キミはどういう種族? どうしてこの馬車に?」

「……」


 返事はない。

 周りのメンバーを見渡すが、首をかしげるばかり。誰も知らないようだ。


「馬車のタダ乗り、御者さんに言おうかな」


 俺が立ち上がると、サイコロから声が上がる。


「ちょっとまった! オイラはスライム族! ファストライフシティまで移動したい!」

「スライム!? こんなに硬いのに? 体質って言ってたけど自在に硬度を変えられるの?」


 俺は興味津々でなでたりつついたりする。四角いスライムは転がって離れる。


「なでるなつつくな! オイラは緊張するとかなり固くなるんだ」スライムが叫ぶ。


「緊張すると固く? 本来は柔らかいの? こねたりしたら柔らかくなるの? それとも温めるとやわらかくなるとか?」


 俺は離れたスライムを捕まえて足で挟み、改めてなでたりノックして音を確かめたりする。水まんじゅうの表面が餅のように固くなった感じか。


 さらに顔を近づけてにおいをかぐ。スコリィが思わず非難してくる。

「変態っす!」


「物質に対する愛情が深いと言ってくれ」流れるように反論する。


「やめろー! 物質っていうな! とにかく、黙っていてくれ。オイラは長い距離の移動が苦手なんだ。金もない!」


「ほう、では何が得意なんだね?」まるで物質の専門家のように尋ねる。

「ふふん、オイラは熱いのも冷たいのも全然平気だ。それに切られても平気だ」


 ペッカは珍しそうに立方体のスライムをつつく。


「耐性のあるスライムか。しかしこんな硬いスライムは初めて見るな」

「やめろチビドラゴン! オイラはもう50年も生きているんだぞ! お前はいくつだ!?」


 さすが異世界。みんな年齢感覚が違う。


「60だ。ドラゴンとしてはかなり若いがな」

「……う、ちょっと上か。オイラだってスライムとしてはかなり若いほうだけど」


「歳が近いし、森に住む者同士、仲良くなろうじゃないか」

 いじわるそうな顔になるペッカ。


「仲良くなるか! ファストライフシティに行くまでの間だ」

「ファストライフシティにはどうして?」


「オイラは、病気の治療に行くんだ」

「なんの?」


「この、カチコチになる体質を治すんだ! プニプニになりたいんだ!」

「治るようなものなのか?」


「わからない! だけど名医がいるらしいから、その可能性に賭ける!」

 スライムの目がようやく表れる。カッと見開いて、ちょっと怖い。


 その様子を見たイゴラくんが感激して立ち上がる。


「男らしいです!」


 しかしペッカは不思議そうだ。

「そうだろうか。医者に診てもらおうとしているだけではないか」


 イゴラくんが珍しく反撃する。

「男はコンプレックスを医者にすら相談……したくないんですよ……!」


「まあまあ、落ち着いてイゴラくん。わかるわかるよぉ。俺もそういう時期があった」

 俺がなだめると、イゴラくんは息を整えながら座った。


「おい、チビゴーレム、お前は見どころがあるな。ファストライフシティまで弟子にしてやろう」

 そういうと、そのブロックのような体から、にゅ~っと手らしきものを伸ばす。握手を求めているようだ。


「え」

 イゴラくんはなされるがままに握手をする。


 俺が視線を上げるとスコリィが口元をひくつかせ複雑な表情をしていた。


 ――イゴラくん、モテモテでちょっとうらやましい。


 ガディはやたらとおとなしいと思ったら、スヤスヤと寝ていた。

 この一連の騒動で、一番の大物はガディということが明らかになった。

 

 馬車はガタンゴトンと心地よく揺れながら道を進んでいく。


***

 ……で。

「いつの間にか乗ってていいことになっているけど、俺はまだ許可してないんだけど」

「ダメなのか?」スライムが不思議そうに尋ねる。


「……」

 ここで簡単に許すと威厳が損なわれる。


 だけど、ちょっと考え込んだだけで、俺はあっさりと許してしまう。だってそういう性分なんだから。こいういう場面で正義を振りかざす性分じゃない。


「いいよ。ただし、何かファストライフシティまでに何かアクシデントがあったら、協力すること」

「おう!」

 ……御者にバレたら、馬車代払ってやるか。子ども料金くらいなら十分に残るだろうし。


 その後、馬車は何事もなく進んでいたが、俺は知っている。異世界に転生して始めて乗る馬車でアクシデントが起こらないわけがない、と。

 

 しばらくすると、――予想通り、馬車が大きく揺れて止まる。


「て、敵襲ーー!!?」


 御者の大声は、恐れているという感じではなく、珍しいものを見たという変な声だった。

 外を見てみると、前方に大量の馬車が見えた。


 スコリィが驚きの声を上げる。

「あれは、魔王通販部隊アマゾネスワンっす……!」

「……なにそれ」


 よく見ると前方に止まった馬車の荷台が白鳥の形をしている。ペリカンじゃないんだ。


 反応に困っていると、スコリィがたたみかける。

「あいつら、データサイエンス魔法で物欲を先読みして、注文する前にブツを送りつけてくるっすよ!」


「データサイエンス、あらゆるデータから対象を観察・分析しモノを売りまくるとかに使う科学的手法か……!」

 ペッカが驚きつつ説明をしてくれる。ありがたい。


 スコリィが珍しく震えている。

 ――あの、天真爛漫、傍若無人のスコリィが。


 だけど俺は冷静にツッコミをする。

「それ、ただの押し売りじゃないの……?」


 大げさに首を振って否定するスコリィ。


「いやいやいや、彼らの読みは外れないっす! 以前、推しにはまっていたとき、信じられないほど浪費させられたっす!」


 ……物欲に負けただけじゃねぇか。


 ともかく、御者が敵襲と言うほどだから、やばいくらい売り方がうまいのかもしれない。だけど俺は販売の勉強ついでに相手をしてやる、とかえって意気込んだ。


 もちろん、商売を始めたばかりの青二才が、そうそううまくいくわけが無かったのだが。

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