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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第8章 デビルウンディーネのガディ登場、広場販売編
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露店で商品が売り切れるなんて普通はない

 スコリィはその夜ずっと看病していると言ってきた。

 俺は「さすがに徹夜は……」と止めたけど、ピクシーはもともと夜行性だからいいらしい。


 ペッカとガディと一緒に宿に戻った。

 狭いが個室だ。俺が夜まで作業するから、部屋は分けている。


 注文された看板のため、粘土をこねる。

 こねるこねる。

 こねこね。

 ……。


 ああ、やはりこの時間が一番落ち着く、粘土サイコー。


 予約されていたデザイン通りに看板を作り、予備の皿や花瓶も多めに作り、ついでにハニワもいくつか作る。


「ああ、粘土をこねるのってなんでこんなに気持ちいいのだろう」


 俺は至極の気分で独り言を言う。

 店長業務なんてやらずにこういうことをずっとしていたい。


 ……しかし胸ポケットからツッコミが入る。

「変態ね」

「誉め言葉だ」

「結果として仕事になっているからいいけど……」


 窓からの月明りに小ルルドナをおいて、寝床に潜り込む。

 今日はいろいろとあって疲れた。楽しかったとかよかったとかいう感想よりなにより疲れたという感想が出てきてしまうのは歳の証拠かもしれない。


***

 三日目の朝。天気は少し回復し、薄曇りといった感じだ。


 朝早くにイゴラを見舞いに行く。横になっていたが、案の定まったく同じに見えた。スコリィはイゴラの寝ているベッドの脇に突っ伏してよだれを垂らして寝ていた。


「まあこれはこれで」

 俺は彼女に上着をかけ、皆で静かに外に出た。


 **

 午前中、メンバーには情報収集とビラ配りを軽くしてもらって自由行動にした。


 情報収集に関しては、娘のガディが仲間になったから、そこまで必要ないんだけど。


 商売人に商売をするのが一番儲かる。特にミニ看板など特注品は。

 各自、担当エリアを決めてビラを配ってもらう。


 俺は頼まれた看板をすべて届けて、10時半前に、コーヒーを楽しみに『ムーンバックス』へ駆け込んだ。いや、ミニ看板を届けに来たのだ。


 マスターは客席の一番奥でうとうとしていた。もともと夜営業のこの店のマスターは、とても眠そうであった。いつも眠そうだが。半眼の目を何度も瞬きさせて俺の看板を見つめる。


 俺はここの落ち着いた雰囲気に合わせて、常滑焼っぽい感じでかつ青みがかったベージュの色合いにした。これなら路地裏からでも目立つし、雰囲気を損ねない。


「へぇ。悪くないね」

 少しだけ目を大きく開けたマスター。眠そうな顔のままコーヒーを手早く淹れてくれる。


「いいでしょ?」

 コーヒーを二人ですすりながらミニ看板を鑑賞する。

 相変わらず店内には誰もない。経営は成り立っているのだろうか。


「色もよくこんないい感じに出たね。白藤色というか。どうやって着色料を手に入れたの?」

「それは……」

 俺はネタを言ってしまっては、値切られないか心配になる。マスターの顔をちらりと見る。……そんなことをする人には見えない。


「実は異世界転生スキルで、焼き物をすぐに作り上げるというか土器や陶器を作れて、色も自在に出せるみたいで。そういうのはイメージ着色できるんですよ。今は薄い色しか出ないですけどレベルアップしたらもっと濃淡も自在かもしれないです」


「そうなんだね。そりゃ便利だ。材料いらずってすごいスキルだよ。戦いには向かなさそうだけど」


「まあ……、そうですね。マスターは、異世界人です?」


「そうかもしれないね」

 微妙な言い方をしてこちらを見るマスター。


「……いや、君になら言ってもいいか。俺は常滑・ヘーヒスト。異世界に転生して、……ヒモになった。この辺の地主ヘーヒスト家の娘に気に入られて、婿入りした」


 俺は目をカッと見開く。

「ヒモ! 最高ですね! ……というか同じオーラを感じます!」


「うん、俺も君には同じオーラを感じていたよ。一番薄暗いあの席に二日連続で座って、ハニワ人形に話しかけて」


 熱い握手を交わす。


 俺は名刺をもらう。裏には大きな家紋が描かれていた。すごい家柄のヒモになったみたいでうらやましい。俺の100億借金とは大違いだ……。


「何かあったら連絡してよ」

 コーヒー代金を支払って、店を後にする。


 さあ、噴水広場――戦場へいこう。


***

 揚げジャムパン、ジャム、俺の作った皿、コップ、ハニワ、そして陶器のミニ看板、……かなり変わった品揃えだけど、今はこういうものを売るしかない。


「これらを売りさばけば、みんなで馬車に乗ってショッピングモールまでいけるぞ! さあ、最後だ、頑張ろう! 油断しないように!」


「おう!」「はい!」

 昼前、売り始めてすぐに、人が集まってきた。揚げパンを中心にかなり売れた。ハニワは売れなかったが、ミニ看板は3枚追加で注文が入った。


 ペッカもガディもノリノリで売っていた。だんだんと堂に入っており、とても人里離れて過ごしていたとは思えない。異世界も変わってきているのかもしれない。


 ドラゴンにウンディーネ。古代伝説級の異世界民にこんなことさせているのは俺だけではないだろうか、天罰など当たらなければいいが、とやや心配になる。


 お昼が過ぎたころイゴラとスコリィが合流した。

「お騒がせしてすみません。ちょっと力が入りすぎてたみたいで。もうすっかり大丈夫です!」


 イゴラが深く頭を下げる。やはりゴーレムとしてはかなり小さい。なんとなくゴーレムは体力があると勘違いしていた自分を反省する。


「いいよいいよ。売り上げ目標は達成したし。俺と一緒に、ゆっくりパンを作ろう」


 こういうとき、無駄に休ませてはいけない。少しでいいから、手を動かさねばならない。と経営アドバイスサイトで読んだ気がする。軽い作業をやって貰うのが一番だ。

 

 ということで一緒にレンガパンと揚げパンを作る。


「さあ、一流のパン屋が焼いたおいしいレンガパンっすよ!」


 スコリィが声を張り上げる。まるで俺が二流みたいだが、事実なので何も言わない。実際、レンガパンが出てきてさらに客層に幅ができて、どんどん売れた。陶器も売れた。ハニワも少し売れた。


 ――気がつけば、屋台の周囲には人だかりができ、笑顔があふれていた。


 数時間後。

「よし、終わり! 目標達成!」

 夜7時。俺は皆に声をかけ、露店販売を終わりとした。


 今夜は、飯がうまそうだ。

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