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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第8章 デビルウンディーネのガディ登場、広場販売編
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必要なのは才能ではない、真摯さである

引っ張ってすみません。パン焼き担当がいなくなったパン屋台で何が売れるのか。アイデアとは何でしょうか。

「よし、ジャムと揚げパンだ!」


大きな声を出す。ペッカとガディが見つめてくる。


「森のフルーツで甘いジャムを作って、揚げパンに塗って売るぞ。俺たちのパン焼き技術の未熟さをごまかして売るんだ。揚げるのなら、焼くのと違ってすぐにできるし、匂いだってよく広がるだろう」


俺の提案に、ペッカもガディも上々の反応をする。

「ジャムは俺様、けっこう好きだぞ」

「なるほど。おいしそうですね!」


さらにペッカはうれしいことを言う。

「ジャムは、母上とよく作っていた。レシピも覚えている」


ガディは箱入り娘のようなことをいう。

「ワタクシ、揚げ物はめったに食べることが許されなかったから、今から楽しみです!」


ペッカが意地悪そうに指摘する。

「しかし……この街に太るのを気にする者が多かったら売れないかもだぞ? 種族関係なく太るのを気にする者は多い」


「期間限定販売だからいける! やるぞ!」

俺はもうかなり焦っていた。


大きな声をきいたペッカがすぐに応じる。

「いい決意だ! では俺様がジャムを作る! この小瓶に入れておくぞ」


「よろしく! 俺は揚げ物用の油を買ってくるから、ガディはひとまず今の商品を売り続けて!」


両手を組んで神に祈るようにガディが返事をしてくれる。

「はい!」


「あ、看板の注文も積極的にアピールしてて!」

「はい! 任せてください!」


「じゃあ、行ってくる!」

俺は呼吸を整え、久々に本気で走り出した。油屋までは結構な距離がある。歩いたら往復で30分以上はかかる。そんなに待っていられない。


――10分だ。戻ってくるまでに10分。


元の世界ではよく夕方に走っていた。ちょうど今ぐらいの時間帯だ。あの時は目的もなくただやみくもに走って走って、どこかに抜け出そうとして。

それでもどうにもならなくて限界ぎりぎりまで走っていたけど、人生がどうにも好転しなくて。


――今は違う。


そりゃあ、転生した今だって何の才能もないし、ちょっと焼き物を早く作れるなんてどうでもいいスキルしかない。

10億もの借金をするなんて間抜けで。崖から落ちてルルドナに助けられて、魔王の手下との戦いもみんながいなかったら何もできなかった。


――今は、仲間がいる。


仲間といっても雇用の関係だけど、それでも、仲間だ。


転生前は、仲間どころか、友達の一人もいなかった。それが今はたくさんいる。


俺は、転生して、経営者になったんだ。みんなをまとめないといけないんだ。ここで遅れたら、きっとひどく後悔する。


――みんながバラバラになるかもしれない。


コボルト警察や、仕事を終えた石工のブラウニー、スーツを着こなしたゴブリンたちとすれ違う。花屋も肉屋も八百屋も通り過ぎる。


多くの人が必死に走っている俺を見て、目を見開く。種族問わずに若いカップルに鼻で笑われる。街中で全力疾走だ。そりゃ笑われる。


それでも俺は走る。今なんだ。必死にならないといけないのは、今なんだ。なりふり構ってなんかいられない。笑われたって知るものか。


息が切れる。肺が苦しくなる。鼻水も垂れる。それでも、俺は走る。

こんな愚かな姿をさらして店を守る経営者なんて、元の世界でも異世界でも、俺だけだろう。


それでもこの行動を、待ってくれている仲間を信じるしかない。


ふと、転生前に耳に残っていた言葉を思い出す。


――必要なのは才能ではない。真摯(しんし)さである。

スローライフ系の転生者に必須の資質は、真摯さである……、ような気がします。


真摯さとは、何か。難しいですね。ともかく最後までやり抜くことが必須条件であるように思います。サラリーマンのいう適当なビジネス哲学に騙されないようにしましょう。


感想・コメントお待ちしています!


2025.3.5 最後の決めセリフのところ修正しました。。なぜこんな大切なところを……。


2025.8.14 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

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