必要なのは才能ではない、真摯さである
【あらすじ】ルルドナがさらわれ、魔王モール3号店へ行くことになった転生者のクタニ、ストーンピクシーのスコリィ、ミニゴーレムのイゴラ、フォレストミニドラゴンのペッカ。仲間になった水の精霊ガディとともに馬車代を稼ぐため広場でパンや看板を販売し、利益を上げていたところ、……イゴラくんが倒れる。パンの作り手がいなくなり、新しいアイデアを迫られ……。
「よし、ジャムと揚げパンだ!」
大きな声を出す。ペッカとガディが理解してない様子で見つめてくる。
説明を続ける。
「森のフルーツで甘いジャムを作って、揚げパンに塗って売るぞ。未熟さは、油と甘さで押し切る! 揚げるのなら、焼くのと違ってすぐにできるし、匂いだってよく広がるだろう」
俺の提案に、ペッカもガディも上々の反応をする。
「ジャムは俺様、けっこう好きだぞ!」
「なるほど。おいしそうですね!」
さらにペッカはうれしいことを言う。
「ジャムは、母上とよく作っていた。レシピも覚えている」
ガディは箱入り娘のようなことをいう。
「ワタクシ、揚げ物はめったに食べることが許されなかったから、今から楽しみです!」
ペッカが意地悪そうに指摘する。
「しかし……この街に太るのを気にする者が多かったら売れないかもだぞ? 種族関係なく太るのを気にする者は多い」
「期間限定販売だからいける! やるぞ!」
俺はもうかなり焦っていた。
大きな声をきいたペッカがすぐに応じる。
「いい決意だ! では俺様がジャムを作る! この小瓶に入れておくぞ」
「よろしく! 俺は揚げ物用の油を買ってくるから、ガディはひとまず今の商品を売り続けて!」
両手を組んで神に祈るようにガディが返事をしてくれる。
「はい!」
「あ、看板の注文も積極的にアピールしてて!」
「はい! 任せてください!」
「じゃあ、行ってくる!」
俺は呼吸を整え、久々に本気で走り出した。油屋までは結構な距離がある。歩いたら往復で30分以上はかかる。そんなに待っていられない。
――10分だ。戻ってくるまでに10分。
元の世界ではよく夕方に走っていた。ちょうど今ぐらいの時間帯だ。あの時は目的もなくただやみくもに走って走って、どこかに抜け出そうとして。孤独に走っていた。
――今は違う。
そりゃあ、転生した今だって何の才能もないし、ちょっと焼き物を早く作れるなんてどうでもいいスキルしかない。
転生した直後に100億もの借金をするなんて間抜けで。魔王の手下との戦いもみんながいなかったら何もできなかった。
――今は、仲間がいる。
仲間といっても雇用の関係だけど、それでも、仲間だ。
転生前は、仲間どころか、友達の一人もいなかった。それが今はたくさんいる。
俺は、転生して、経営者になったんだ。みんなをまとめないといけないんだ。ここで遅れたら、きっとひどく後悔する。
――みんながバラバラになるかもしれない。
コボルト警察や、仕事を終えた石工のブラウニー、スーツを着こなしたゴブリンたちとすれ違う。花屋も肉屋も八百屋も通り過ぎる。
多くの人が必死に走っている俺を見て、目を見開く。種族問わずに若いカップルに鼻で笑われる。街中で全力疾走だ。そりゃ笑われる。
それでも俺は走る。今なんだ。必死にならないといけないのは、今なんだ。なりふり構ってなんかいられない。笑われたって知るものか。
息が切れる。肺が苦しくなる。鼻水も垂れる。それでも、全力で走る。
こんな愚かな姿をさらして店を守る経営者なんて、元の世界でも異世界でも、俺だけだろう。
それでもこの行動を、待ってくれている仲間がいることを信じるしかない。
ふと、転生前に耳に残っていた言葉を思い出す。
――必要なのは才能ではない。真摯さである。




