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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第8章 デビルウンディーネのガディ登場、広場販売編
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逆境

病院にイゴラとスコリィをおいて、広場の屋台へと向かうクタニですが……。

 世界を押しつぶさんばかりの曇天。


 俺は気分を切り替えようと頭を振って、噴水広場の屋台へと向かう。

 通りから見た屋台は、急ごしらえでとても貧弱に見える。


 先ほどまで絶好調と感じていたのに。


 完全に調子に乗って、仲間が倒れた。


 ゆっくりと歩を進める。


 ――本当は行きたくない。


 あの屋台にたどり着かないで、暖かい部屋で粘土をこねていたい。仕事なんてコンビニバイトでもいい。上からの命令に従って、ただ体を動かしていればお金がもらえるような状況に甘んじたい。


 ――だけどそんなことは許されない。


 ここで逃げ出したら、俺がだめになるどころか、ルルドナ救出どころか、皆がバラバラになる。


 ――そんな予感がある。


 ***

 広場の屋台は、レンガパンの在庫もなくなり、俺の作った小型のハニワと、陶器の皿、あとは森の花とか果物とか、薪用の枝を売っているよくわからない店になっていた。雑貨屋か。


だが、足を止める人は少ない。広場の人々の視線はこの店には集まっていなかった。


「レンガパンは売り切れですー。お皿や花はいかがですかー?」


「あら、懐かしい。昔はこのあたりによく生えていたのよ」

 お年寄りに意外と森の花が売れている。しかしあまり利益にはならない。


 商品を眺めると完全にペッカの森のもの召喚が頼りになってしまっている。

 屋台に取り付けた月魔法時計を見ると、もう5時を過ぎていた。


「あ、店長さん! おかえりなさい。どうでした?」

 売り子をやっていたガディが気丈に迎えてくれる。


「過労だって。明日まで安静にしてれば大丈夫だって」

「それはよかったです」

 後ろでペッカも「うむうむ」とうなづく。


「ひとまず大事なくてよかった。よく考えたら彼一人に負担がいっていたし……。戦略を変えよう」


 屋台の奥で残ったメンバーと話し合う。どちらとも、新しいメンバーだ。


「で、これからどうするつもりだ? あと2時間くらいはここにいるんだろう? 俺様の召喚する森のものなんて、大した利益にはならんぞ」


「夕方の需要もあるから、何とかしたいんだけど」

 広場は、仕事が終わった人々がゆっくりして、子どもたちが駆け回っている。森の花を買ってくれそうなお年寄りはもう家路につこうとしている。


「……ガディ、看板の注文は?」

「残念ながら……」

 肩を落とし、ガディが胸元の看板を見つめる。

 看板娘戦略も長くは続かないってことか。


 顎に手を当てて、考え込む。

 一つカフェからの注文があったけど。全然目標売り上げに届かない。

「二人とも、まだ体力は大丈夫?」


「俺様は平気だ。戦いたいくらいだ」

「ワタクシも全然。水につかればすぐに体力が回復しますし」


 さすがに古代伝説級の血を引いているだけあって、二人は体力も回復力も桁違いのようだ。


「頼もしい。それで、俺の予感なんだけど、ここをしのぎ切れないと、きっと俺たちはバラバラになる。知り合って日も浅い二人にお願いするのもなんだけど、ここが正念場だ」


 森のものを召喚できて、体力もある二人のメンバー。

 在庫にあるのは、パンの材料の残り、俺が作った皿や花瓶、森の花や果実、木の枝。


 ――ここで、十分に稼げないようじゃ、この先魔王ショッピングモール3号店副店長と交渉することなんてできない。


 どうすれば売り上げを伸ばせる?


 俺はコンビニの棚を思い出す。

 ――パンと一緒に売れている商品はなんだ。


 祭りの屋台や、イベントの屋台を思い出す。

 売れているのは、なんだ。誰が買っている? この広場にいる人々と同じ客層は、何を買っていた? どこに行列ができて、どの棚で悩んでいた? 


 思い出せ思い出せ。思い出さないと、それだけ助けに行くのが遅くなるぞ。

 皆が――バラバラになるぞ。


 ここで売り上げを挽回しないと、イゴラくんも、きっとその不調に気が付かなかったスコリィも、責任を感じるだろう。急ごしらえの仲間たちだ。ここで挽回しないと、心が離れていくだろう。イゴラとスコリィの心が離れたら、ペッカやガディも、俺への信頼をなくしてしまうだろう。


 判断が1時間遅れると、3時間の遅れが出る。1日遅れてしまうと、結果が出るのは3日は遅くなる。

 たぶん、経営も人生もとはいつも雪だるま式に遅れていく。


 でもこの逆境は、きっとチャンスだ。

 いや、――チャンスだと信じろ。あきらめなければきっと、つかめる。


 新しい二人のメンバーの顔を見る。

 小さくとも勇ましいペッカに、聖女のような美しさのガディ。

 ペッカもガディも、古代伝説級の血を引いている。


 両者は俺を見て、何か発言してくれるのを待っている。


 ――そう、俺は今、異世界の住人に信じられているんだ。


 俺はぐちゃぐちゃになりそうな思考をなんとかまとめ、ひらめきをつかみとろうともがく。


 ――ひらめきが、一瞬のひらめきをつかみ取る判断が大事なんだ。


「そうだ! あれにしよう!」


 俺の声に、二人が期待を込めて注目する。広場で売れて、今の材料で、しかも調理技術があまりいらないもの。俺は自分でもほめてやりたいくらいのアイデアを思い付き顔を上げた。


曇天はまだ、世界を覆っていた。だが遙か向こうの空に一筋だけ、光がさしているのが見えた。

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