喫茶店の同じ席に何度も座ると常連になった気分になる
看板の注文を受けて3時間。
陶器のミニ看板は、無事にできあがった。
パンや陶器の販売を皆にまかせ、俺は胸ポケットの小ルルドナとともに配達へ出かけた。
「きちんと、ほかにも注文したい人がいないか営業するのよ」
石畳の小道を足取り軽く歩いていると小ルルドナに釘を刺される。
「まあ、努力してみる」
……にしても、足取りが軽い。アイデア1つでこんなに売り上げが良くなるなんて。
「いやぁ、いい日だなぁ!」
「……私まだ助けてもらってないんだけど」
小ルルドナが俺の胸ポケットから抗議の声を発する。
「いいじゃないか。この分だと楽勝だ。どーんと稼いで、ハニワ人形を挨拶の品として渡せば万事解決だ」
小ルルドナのため息。
「はあ……。そうやって油断しているときが、何でも危ないのよ」
「今の俺なら大丈夫だろ」
「……」
どうやら俺は調子に乗っているらしい。
(いいじゃないか。異世界だし)
注文された看板を花屋・肉屋・八百屋の筋肉オヤジたちに届け、ついでに「ほかのお店もほしい人がいたらすぐに作りますので」と営業をかけておく。いかついオヤジたちは機嫌よく受け取ってくれた。
花屋には花瓶のセットを営業かけたが、20セットしか注文してくれなかった。
(まあ、別の店に売ればいいだろう)
どちらにしても売り上げは十分。
俺はすっかり気をよくして、また、コーヒーを飲みに行った。
『ムーンバックス』……ここのコーヒーは悪くない。
店に入ってブレンドコーヒーを注文し、前回と同じ席に座る。
(あとはほかのメンバーに露店を頑張ってもらえば、馬車代はどうにかなるだろう。――そうだ。リーダーは、まず自分の精神を整えるべきだ)
運ばれてきたコーヒーの香りを楽しみながら自分に言い聞かせる。
「つまり、コーヒーを飲むのも、立派な仕事なのだ……!」
「一人で何を言っているの」
呆れ声の小ルルドナを無視してコーヒーをすする。
――にしても、この店のコーヒーカップ。
ここの陶器もなかなか見事である。
……というか俺より随分とレベルが上だ。
だけど臆している場合じゃない。コーヒーを味わった後、思い切ってマスターに切り出す。
「マスター、突然すみませんが、陶器のミニ看板、置いてみませんか?」
控えめに、だけどどこかに自信をにじませつつ尋ねてみる。
見本となる看板を取り出す。
やせ型のスキンヘッドのマスターは、あまりやる気がない様子だったのでダメ元の営業だ。初めての営業行為に少しだけ緊張する。
しかし、相手の反応はあっさりしていた。チラリとこちらを見ただけで俺に告げる。
「……ああ、悪くないね。窓において路地から見えるようにするといいね」
「製作は早くできます。ただ、2万ゲルほどかかりますが……」
「2万ね。いいよ。じゃあ、よろしくね。明日の午前中に届けて。デザインは任せるよ。この店に合った雰囲気にしてくれればそれでいいから」
やる気のないマスターは意外と決断が早かった。
感謝を伝え、早速制作のため足取り軽く広場に戻った。
……その先に、基本的なミスがあるとも知らないで。




