喫茶店の同じ席に何度も座ると常連になった気分になる
皮算用が終わり、特注の看板が出来上がったようですが……。
なんとか無事に陶器看板を作りあげる。
パンや陶器の販売を皆にまかせ、俺は胸ポケットの小ルルドナとともに配達へ出かけた。
「きちんと、ほかにも注文したい人がいないかきくのよ」
石畳の小道を歩いていると小ルルドナに釘を刺される。
「まあ、努力してみる」
……にしても、足取りが軽い。
アイデア1つでこんなに売り上げが良くなるなんて。
「いやぁ、いい日だなぁ!」
「……私まだ助けてもらってないんだけど」
小ルルドナが俺の胸ポケットから抗議の声を発する。
「いいじゃないか。この分だと楽勝だ。どーんと稼いで、ハニワ人形を渡せば万事解決だ」
「はあ……。そうやって油断しているときが、何でも危ないのよ」
「今の俺なら大丈夫だろ」
「……」
俺は自分の実力が認められたと有頂天になっていた。
注文された看板を花屋・肉屋・八百屋に届け、ついでに「ほかのお店もほしい人がいたらすぐに作りますので」と営業をかけておく。
いかついオヤジたちは機嫌よく受け取ってくれた。
花屋には花瓶のセットを営業かけたが、20セットしか注文してくれなかった。
――まあ、別の店に売ればいいだろう。
どちらにしても売り上げは十分。
俺はすっかり気をよくして、また、サボってコーヒーを飲みに行った。
『ムーンバックス』ここのコーヒーは悪くない。
店に入ってブレンドコーヒーを注文し、前回と同じ席に座る。
あとはほかのメンバーに売ってもらえば、出張費はどうにかなるだろう。
――そう、リーダーは精神を落ち着かせるのも仕事だ。
「つまり、コーヒーを飲むのも、立派な仕事なのだ……!」
「一人で何を言っているの」
呆れ声のルルドナを無視してコーヒーをすする。
この店のコーヒーカップ。
ここの陶器もなかなか見事である。
……というか俺より随分とレベルが上だ。
だけど臆している場合じゃない。思い切ってマスターに切り出す。
「マスター、突然すみませんが、陶器の新しいミニ看板、いりませんか?」
俺はコーヒーを飲み終わった後、控えめに尋ねてみる。
手提げカバンから見本となる看板を取り出す。
やせ型のスキンヘッドのマスターは、あまりやる気がない様子だったのでダメ元の営業だ。
しかし、チラリとこちらを見て俺に告げる。
「……ああ、悪くないね。窓において路地から見えるようにするといいね」
「製作は早くできると思うのですが、2万ゲルかかるのですが……」
「2万ね。いいよ。じゃあ、よろしくね。明日の午前中に届けて。デザインは任せるよ。この店に合った雰囲気にしてくれればそれでいいから」
やる気のないマスターは意外と決断が早かった。
俺は発注の感謝を述べて、早速制作のため広場に戻った。
……そこに、基本的なミスがあるとも知らないで。
陶器看板、パンを売るよりよほど稼いでますね。
だいたいの飲食の商売は薄利多売です。雑貨屋ということを忘れてしまわねばいいのですが。
【商品メモ】
特注ミニ看板 2万ゲル:縦20センチ横30センチくらいの白地に青い模様をつけた看板。ひもを通す穴も上の両端に空いている。文字は基本的にガディに書いてもらう。
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2025.8.14 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!




