使命感がないと人はなかなか動かない
さて、小型のルルドナと話できるようになり、作戦ができたようですが。。
「よろしくお願いしまーす」
よく響く水の精霊ガディの声。
「パン、焼きあがりました……!」
イゴラくんの控えめな声。
「まいどありっすー!」
スコリィの元気な声。
客の数は上々。たまに数人の行列ができるほどだ。
その様子を見てほくそ笑む。
――作戦はこうだ。
まず、看板娘のガディに広場のあちこちでビラを配らせ、興味を持たせる。そして、背の高いスコリィが売り子として客を寄せ、イゴラくんのおいしいパンを売る。
俺とペッカは火の管理とパンの匂い拡散係だ。
特にガディは目立つからいい仕事をしている。
水色の肌と透き通る声は、広場のどこにいてもすぐ分かった。
――看板娘として最適だ。
「ガディが一生懸命にビラを配るとお客さんが増える。助かったよ……!」
「そんな……。ワタクシ、社会に出たことなくて、箱入り娘ってバカにされてたんです。こんな形で社会勉強できるなんて思いませんでした。こちらこそありがとうございます」
聖女のように微笑むガディ。大人向けの違う店をしてもいいかもしれないと思ってしまうほどだ。
「とにかく美味しいパンをみんなに広めるという使命感を持って配ってくれ」
さらに、ガディには、白い陶器のタイルを首から下げてもらっている。そこに「レンガパン販売中」と文字を書いている。
「今日も割引220ゲルっすよー! 素敵なゴーレムのレンガパン、レンガパンにピッタリの皿とセットで300ゲル!」
販売所では背の高いスコリィに販売をしてもらう。割引価格は維持することにした。陶器はセット販売にすることにした。また私情が入っているようだが、案外悪くないような気がしてきた。
「スコリィは本当にすごい。いい声だし、堂々としているし」
「推し活で鍛えたっす!」
ピースサインをしてくる。邪気のない笑顔だ。この類の笑顔を忘れてしまったなぁ、と感傷に浸りながら「いいね!」と俺はサムアップした。……推し活という言葉はスルー。
「ボク、こんなのでいいんですかね……」
全身が陶器で覆われて、つまりタイルで覆われたゴーレムのイゴラくんが弱音を言う。白いタイルで装飾されまくって、まるでタイルゴーレムである。タイルは白く目立つけど、めちゃくちゃ割れやすそう。
不安そうな彼に俺は目を細めてベテランの実業家のように語りかける。
「何を言っているんだ。イゴラくんがいないと成り立たない。君は要なんだ。それに、これも立派な修行だ。少し恥ずかしいかもしれないが耐えてくれ。この仕事がきっと君をさらなる高みへ導いてくれる」
「……はい!」
異世界だろうが男の子は修行という言葉に弱い。かつて自分自身もそうだった。……すまない、少年よ。立派になるかもしれないが、今日は売上が優先なんだ。
「おい、俺様までタイルをつける必要があるのか」
かまどの火の番をしているペッカにも背中にタイルの看板を付けてもらっている。
「ああ、ペッカみたいなすごい存在がかまどの火をみているのは、本当にすごいことなんだ。それを見たいと思った人が、そのタイルの文字をみて、買おうと思う。素晴らしだろう?」
「そ、そうか」
照れながら作業に戻るペッカ。素直でうれしい。
――と、こんな風に工夫し、さらに声掛けも「使命感を与えよ」との経営学の神様の教えに従ってやってみた。
そうだ。俺も、転生前はやる気を失っていたけど、どこにも決まらなくて、コンビニバイトも一日でクビになって、……使命感を失っていたんだ。
「お前なんかいなくても同じ」とみなされることほどつらいことはない。
俺なんかについてきてくれた彼らに、そんな思いはさせたくない。
みんなが来てくれてよかった、と声にしなければ。
**
――仲間への気持ちを新たにしたが、自分が実行するとダメダメであった。
「いらっしゃいませー」
皆が身に着けているタイル作りや皆への声かけでヘトヘトになった俺は、一番小さな声で客を呼び込む。
「声が小さわよ!」
ハニワ人形、もといルルドナに注意される。
(くそぅ、頼りになると喜んでいたのに、ずっと監視されているみたいだ)
「いらっしゃいませー!!」
俺は半ばやけくそになって叫ぶ。
すかさずルルドナの叱責。
「誠意がこもっていないわ!」
……こいつ、叩き割ってやろうか。
ともかく、昼時とあってか、パンの売れ行きはよかった。しかし割り引いて売っているため、原価率は4割超えになってしまっている。すべて売ったとしても、全員分の出張費にはならない。
(だけど、今はこのやり方で売るしか無い!)
俺たちは必死に動いて、パン(と皿)を売り続けた。
昼時の1時間半ほど売り続けた。額に汗しながら。
――客足が落ち着いた頃、意外なことが起こった。
屈強な男たちに俺は取り囲まれた。
「……何か、御用でしょうか?」
先ほどとは違う汗が頬を伝う。
ガディが連れられてきている。がディはちょっと混乱したように俺に切り出す。
「この方々、ちょっと話があるようでして……」
ずらりと並んだ影。それは、肉の模様、花の模様、野菜の模様が描かれていて可愛らしいエプロンを身にまとった、筋骨隆々のオヤジたちであった。
「肉屋だ」
「花屋だ」
「八百屋だ」
そう、彼らはこの近くの肉屋、花屋、八百屋のオヤジたちであった。
**
ああ、きっとクレームだろう。俺は頭を抱えたくなったが、顔には出さない。ポーカーフェイスだけは得意なのだ。
――だが、クレームは嫌だ。クレームじゃありませんようにクレームじゃありませんように。
「許可証ならこちらに……」
俺は屋台に取り付けた許可証を指さす。しかしすぐにさえぎられる。
「そんなんじゃあ、ねえんだ……」
パーマ頭が6つに分割している髪型をしている花屋のオヤジが首を振る。きっと好きな花はクロッカスだろう。
直角の角刈りの八百屋の親父が進み出る。
「ワシらがほしいんはな」
3人とも、俺のほうににじり寄る。2メートルを超えている巨漢ににじり寄られると迫力がある。
俺は屈強な戦士たちに囲まれて、さすがに後ずさる。全員俺は見上げないと顔が見れない。種族はわからないが、きっと全員オーガ系だろう。
周りに肘をつつかれて、スキンヘッドの肉屋のオヤジが絞り出すように声を出す。
「ウチらにこれ、くれねえかな?」
彼らが指さしたのは、ガディ。
見目うるわしい彼女は、茫然自失したように俺のほうを見ていた。




