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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第21章 雑貨屋増設編
208/209

テーマパーク風ショッピングモールに入るのにスキャンで人生丸裸

【あらすじ】仲間の魔力を取り戻すため、ショッピングモールに向かうクタニ。古本屋のヒュームンが突然、宣戦布告をして、事態は急展開に。

「魔王モール2号店は、広大な城だ」

戦準備といって荷物をまとめるヒュームンさん。


ちょっと何言ってるかわからない。

「……テーマパークみたいなものですか?」

に尋ねる。

「そうだ。だが、戦の準備はしてある。まずは城壁を突破せねばならない」


「普通に客として入ればいいのでは……」

もう遅い気がするけど。


「それはダメだ。会員制だからな。本人認証スキャンをされて会員費用を支払えば、激安の品を買うことができるが、本人認証がくせ者だ」


会員制激安って。どこのコストコーポレーションだよ。

「くせ者?」


「スキルから何から手の内をさらして、魔王モールに対して反抗の意思がないと示さなくてはならない」


「そんなの、みんな登録しないのでは?」


「そうでもない。もう戦いの時代は終わったのだ。スキルなんてさらしてもかまわないという奴ばかりだ。いまどき、自分のスキルを磨いている奴なんて、魔法学校に行くバカか、古代魔法の名家に生まれたような奴だけだ」


魔法学校で百留しているくせに。


「……とにかく、力で相手をねじ伏せるってわけですね」

どっちが悪役かわからなくなってきた。


「そうだ。それで、キミ、本人認証されて侵入しなさい。我々がおとりになる間に」


「え?」


ヒュームンさんに古い本を渡される。

「その本をできるだけ中央に持って行って、99ページ目を開け」


それ、おとりはどっちかわからない。


***

数分後、魔王モールの城門でスキャンされている俺がいた。

セントラルライフシティから一瞬で飛ばされてしまった。

中世の城というか宮殿というか、とにかく広大な敷地をもつ施設だ。


隣にはマニセス。ともにスキャンされている。姿はもうメイド姿ではなく、元のボーイッシュな姿になっている。

彼女のスキャンはすぐに終わった。


だが、俺のスキャンで係の人がざわつく。

「……魔力なし!?」

驚いている係の若い大男に、開き直って言う。

「ええ、そうですが、何か?」


「……失礼いたしました。ご職業は?」


「元店長です」


「つまり今は無職ってことですね」


「え、まあ、そうですけど……」


「では魔力も仕事もないってことですか?」


「あ、え、はい……。まあ、お金はもってますので……」


無職と言われるとつい弱気になる。


「まあ、いいでしょう。真面目に働いてくださいね」


この野郎、自分は魔王モールに魂を売ったくせに。


「では、これが会員証です」

免許証のようなカードが渡される。


『魔力無し、無職』

カードにはそう書かれていた。


あああ。異世界に来て初の身分証が……。


思わずしゃがみ込んでカードを見つめる。

「兄貴……」

同情の声をかけてくれる心優しい少女マニセス。


「マニセスの見せて」


『古典魔法中堅、アルバイト』


「ぐ……」


アルバイトという響きがなぜか輝かしい。


マニセスに黙って会員証を返すと、係の大男が再び声をかけてきた。


「無職のクタニさま、フランチャイズの契約をしにおいでですね?」


無職って言葉、つける必要ある?


「契約するかどうかはまだ決めかねてますが、詳しい話をしにきました」

そう答えると、大男はにっこりと笑顔になる。作り笑顔の見本のようだ。


「ではこちらへ」

城風のショッピングモールの外側を囲む城壁に沿ってずいぶんと歩かされる。


外庭というのか、城壁と建物の間は芝生の庭園みたいになっていて、小川が流れ、湖もあり、木々もバランス良く配置され、まるでオアシスのようだ。


いろんな客がでかい紙袋をもってベンチに座ってくつろいでいる。


「いいとこですね、兄貴」

マニセスが大男に聞こえないようにこそこそとしゃべりかけてくる。

「全ては財布の紐を緩ませるためさ」


「ひねくれてるなあ」


「社会人とは常に財布の紐を気をつけてないといけないんだよ」


「無職のくせに」

「ぐ……」


マニセスの嫌みに再び膝をつきそうになる。

そのとき、頭の上を何かが通り過ぎた。

〈ヒュン!〉


「おや、避けましたか」

目の前を行く大男が何か投げたようだ。遠くに落ちる物体。……大きな石?


「何をするんだ!?」


「痛めつけて、フランチャイズ契約をしておけと言われているので」

「それって拷問って言うのでは」


気がつくと、誰もいないエリアまで連れてこられていた。


「誰も見てなければいいんですよ」

「ガキの言い訳かよ。魔王モールが暴力振るったって言いふらすぞ!」


ガキのような返しをしてしまったが、確か魔王モールも世間体を気にしているらしい。


「それ、誰が証明するんですか?」

笑みを顔に張付けたまま、


(本を開くか?)

背中に挟んでおいた古本に手を伸ばす。

しかしマニセスに止められる。

「兄貴、まだ早いです! いったん逃げましょう!」


「はっはっは、逃げられるわけない! 私は遠距離投擲スキルがあるのです!」

そういって会員証を見せる大男。

『ラス・アナレス ショッピングモール幹部 新型遠距離魔法上級』


(くそ、こいつ。若いのに幹部かよ……!)


別のところで悔しがっていると、マニセスが強引に腕を引っ張ってきた。そのまま城壁の壁に押しつけられる。

「残念。壁のあるところではぜったいに逃げられるんだよね」


彼女は得意げにそういうと、ゆっくり壁に触れる。石が波打つように揺れた。そしてそのまま”壁に入っていった”。そのまま、俺の体も。


「貴様、獣人の転生者か! くそ、転生スキルをスキャンし損ねていたか!」


壁の中できく遠くに響く大男アナレスの声は、どこか的を外している内容だった。


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