天国は古本屋のテラスにあり
【あらすじ】仲間の魔力を取り戻すため、魔王モールに向かうクタニ。途中知り合った踊り子フェズと、キツネ耳の少女マニセスと古本屋のヒュームンさんと話し合う。
キツネ耳の少女マニセスのメイド服姿に見ほれていると大声が聞こえた。
「やはり、キツネ耳のメイドはいいなあ! そうだろう? クタニくん!」
ヒュームンさんが白ヒゲを撫でながら笑顔で言う。
「最高、ですね」
ついさっきまで少年のような姿をしていた少女が、こんなに変わるなんて。
「クタニの兄貴ぃ!」
抗議するその目もかわいらしい。
ヒュームンさんと頷き合うと、ゆっくりとお茶を飲み始めた。
キツネ耳のメイド服少女と、踊り子。贅沢にふり注ぐ太陽の光とそれを反射する白い壁。
(天国は古本屋のテラスにあったのか……)
ちょっとした幸せをかみしめる。お茶がうまい。
……が、あまりゆっくりするわけにもいかない。
お茶をぐいっと飲み干し、これまでのことを話し始めた。
店のメンバーの魔力が無くなったこと、ダリちゃんが裏切ったこと、魔女ヒルデのこと、砂漠の民について……。
***
話を一気にして、お茶を飲み干す。
「ずいぶんため込んでいるようだね? 実にキミらしい」
あきれ半分と言った様子で、ヒュームンさんが口元を緩める。
「交渉なんてしたことがないんですが」
「魔王モールは経営に関しては何かと律儀だから、キミのハニワとやらを献上すればうまくいくかもな」
「安く出荷するのを条件に、ですよね」
「だろうね。そもそも売れるかどうかわからないが」
「昨日の夜も実はこっそり作ったんです。小さかったらすぐに固まるから」
胸ポケットに入れていた、超小型のハニワを見せる。
だけどヒュームンさんは別のところで感銘を受けた様子で声を上げる。
「そうか! キミの能力は、泥状のものを固形にするのか! だから先ほど、夢の中で固めたのか! なるほどなるほど!」
「……土器や陶器をすぐに作る能力じゃ無くて、固めるスキル?」
「そういうことだ! 実に使い道がなさそうなスキルだ!」
そんなはっきりと。
だけど、そのようなスキルでもどこかで役に立つかも……。
しばらく使い道を考える
……思いつかない。
「……結局、器を作るのが一番有用な使い方では?」
両手で器を作るようなポーズを取る。
インタビューを受ける経営者か、俺は。
「いやいや、地形魔法とか才能があるんじゃないですか?」
「ない。まったくない。見た感じ、地面固めるだけ。しかも局地的に。しかも遅い」
「めっちゃ地味だね、兄貴」マニセスが満面の笑みで言う。
がくりと肩を落とす。
「俺のスキルについては後から考えるとして……。ともかく、砂漠の民ですが、フェズもそうみたいですけど、どうやって大勢を味方にすればいいか見当もつかないんです」
「砂漠の民が、その程度の事情で動くか? とききたいんだろうが……」
「動くよ~!」
踊りを終えたフェズが、機嫌良く話に入ってきた。
「砂漠の民は誰一人見捨てない。みんな家族みたいなものだから!」
大きく胸を張るフェズ。だけど、少しトーンを落として続ける。
「でも、もし……、ダリちゃんが、魔王モールと正式な契約を結んでいたら、厳しいかも。スパイをする契約を結んでいたら、砂漠の民は動けない」
「契約なんて関係ない。あんな小さな子に、スパイをさせることそのものが、無効だ」
「大きかったらいいの?」
「そういうわけじゃないけど。とにかく、ダリちゃんはとてもつらそうな顔をしていた、のは確かだ」
「訳ありの契約っぽいな。フェズくん、彼女のこと、わかるかい?」とヒュームンさん。
「ダリャンって名前は、きいたことがあります。食品の店をやっていたような」とフェズは思い出しながら答える。
「もしかして、乾物の店?」彼女は得意料理だと言っていた。
「あ! それかも! ビーフジャーキーおいしかったなあ~!」
「その店のこと、わかるかい?」すかさずヒュームンさんが尋ねる。
「そういえば魔王モールにテナントごと移転したとか……。わたし、いろんなところを旅してるからあまり詳しくないんだ……」
ヒュームンさんが考え込む様子で言う。
「事情あり、なのは確かなようだな」
語気を強めて続ける。
「だが、今回は相手が悪かったようだ。私とクタニくんとつながりがあることを奴らは知らなかった」
「何かいい作戦があるんですか?」
「……気に食わんのだよ。子どもをだましに使う店など、虫酸が走る」
そういってヒュームンさんは手に木の杖を出現させ空に掲げる。
その動きにしたがって、全員が空を見上げる。
――空に、巨大な魔法の花火がいくつもあがる。
不思議と、昼間なのにはっきりと見える、魔法の花火。
「魔王モールに宣戦布告したぞ。ちょうどからだがなまっていたところだ。“交渉”しにいこうじゃないか。砂漠の民なんて待ってられない」
古本屋の店主は、明らかに話し合いをする気がなさそうな口調で、テラスから小さく見える魔王モールを杖で指し示した。




