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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第21章 雑貨屋増設編
205/209

古本屋の百浪の魔法使いとキツネ耳バイト

【あらすじ】魔王モール2号店へ、雑貨屋メンバーの魔力を取り戻すために、一人で交渉に向かうクタニ。知り合った踊り子フェズとキツネ耳の少女マニセスにつれられてきた古本屋の書庫で、不気味な夢を見てしまい……。

「うわっ!」

 ひび割れた空間から脱したのか、気がつけばソファの上にいた。

(胸の奥がまだ冷たい。あの白い沼……思い出すだけで足が震える)


 今いる場所はマニセスにつれられてきた先ほどの書庫。

 本棚もおとなしくなっている。


(戻ってきたか……って、さっきのは?)

 隣に座っていたフェズも、頭を押さえて混乱しているようだ。


「今の……見ました?」

「ああ、今のは、幻覚魔法? それとも夢?」

「わかりません……」

 悪夢と言うには、やたら強い意図を感じた。あの道化師は何をしたかったのだろう。

 今までの敵とは違う、底知れぬ不気味さ。


 二人で顔を見合わせていると、足音が近づいてきた。


「ずいぶんな悪夢を見ていたようだな」

 やってきたのは白髪の小さなおじいさん。

 それは、魔法学校を百浪した超問題児にして天才魔法使い――ヒュームンさんだった。


 ***

「今日は狐面黒タイツ女子学生コスプレしてないんですね」少し皮肉を込めて彼に言う。


「何を言っている。古本屋といったら白髭のじいさんだろう」

「たしかに店の雰囲気に似合ってますけど……」

 ちょっと美少女コスプレに期待している自分がいた。


 彼は魔法学校では、顔半分をキツネ面で隠す、黒髪ストレートの黒タイツの似合う女学生のコスプレをしていた。コスプレというか仮装魔法で、最後まで少女だと勘違いしていた。


「あ、あの! さっきの怖い夢、早く忘れたいですし! ほら、自己紹介しましょう!」


「そちらの踊り子くんが、砂漠の民という……」ヒュームンさんが興味深そうに彼女を見つめる。

「初めまして! フェズです! いい店ですね!」


「元気がいいな。私はヒュームン。古本屋の店主だ。……で、君の魔力に反応して、うちの本が落ち着かないようだ。外のテラスで話さないか?」


「あっ……、すみません」

 フェズが両手を見ながら申し訳なさそうに肩を落とす。

 彼女は魔力が手から漏れ出ていることがあると言っていた。


「気にするな、美しいお嬢さん。……問題はそこの陰気な男のほうだ」

「陰気臭いって……慣れてますけど、せめて優しいビジュアルで言ってほしいです」


「何言ってるんですか、クタニさん」

 事情を知らないフェズにジト目でにらまれる。


「えっと、……まあ詳しくはあとで。で、さっき本棚が揺れたのは、彼女の魔力のせいですか?」

「半分はそうだが」

「やめろー! とマニセスの声が」

「それは別件だ。……そうそう、マニセスには今お茶を入れさせている。テラスに持って行くように指示してあるから行こう。こっちだ」


 古本屋にテラス? 

「そろそろキミの陰気さで本にカビが生えてしまいかねない。外に出て日光浴でもしよう」

 そう暴言を吐いて、彼は薄暗い書庫から、光あふれる外へ俺たちを連れ出した。


***

 外では太陽がさんさんと輝いていた。

 テラスにはテーブルとイスがいくつも並んでいる。誰もいないが。

 端の手すりまで行ってみると、眼下に崖。

 岩場を抜けたあと、草原がどこまでも広がっていた。


「広~い!」

 飛び出したフェズが元気よく両手を広げ回転する。


「ちょっと踊ってていいですか? 魔力を発散させます~」

「ああ。この家を壊さないでくれよ」とヒュームさん。

「大丈夫で~す」

 灰色のローブを脱ぎ捨て、太陽に溶けるみたいに踊り始める。

(ほんと、好きなんだな……)


 彼女を笑顔で見つめたヒュームンさんは俺にイスを勧めて、自分もテーブルの向かいに座る。そして、しわがれた声で言う。

「で、クタニくん、夢の中でおかしなことをしただろう?」

 からかうような視線が向けられる。

「……あの夢、やっぱりヒュームンさんの仕業ですか?」


「厳密にはわたしではないが、まあ見ていた」

「助けてくださいよ」


「別にピンチでは無かっただろう?」


「あのまま沈んでいたら、別の自分になっていたんじゃないんですか?」

「考えすぎだ。道化師にそんな力は無い。……しかし、やたらと焦っていたな」


 白い沼に沈むのは、何かとてつもない恐怖を感じた。

「まあ、いろいろあるんですよ。転生者ですし」

「転生か。向こうではどのような生活をしていのだ?」


「ほとんど引きこもりですよ。そんなことより、元々の俺のことをもっと教えてください。隠されたスキルとかあるなら特に」

 確か俺の転生前の前世は、天才とか優等生とか言っていたような。

 何か対抗する手段があれば……。


「スキルはないだろうな。だが、魔王モールに行って仲間の魔力を取り戻す協力はしてやれるかもしれない」


「なぜそれを?」

「ふん、魔王モール2号店に行くやつの理由なんてたいていそうだ。魔力を奪うのがうまいやつがいるようだからな」

「魔王モール2号店って、いつもあんなことしてるんですか?」


「おそらくな。2号店はフランチャイズ店を増やすことにやっきになっている」


「魔力を奪って、脅しながらですか?」


「耳に入る限りは、そうだな。ただフランチャイズ加入はそこまで悪いわけでは無い。加入して売り上げを伸ばした店は多くある」

「まっぴらごめんです」


「だろうな」

 彼は満足そうに視線を上げる。

 その先には踊り子のフェズ。

 乾燥した空気の中、輝く太陽光を浴びながら元気に踊っている。

 でも何か先ほどとは違う。何かぎこちないというか。

(魔力を発散させる踊りは違うのか?)


 そのときマニセスの声が後ろから、細く響いた。

「あの、……お茶、です」

 振り向くと、そこには……爽やかな水色のメイド姿に身を包んだマニセスがいた。顔を真っ赤にして、実に恥ずかしそうだ。

 恥ずかしいせいなのか、大きなキツネ耳がしょんぼりと垂れてしまっている。


 こちらがじろじろとみると見ていると、事情を勝手にしゃべり出した。

「さっき、無理矢理、着替えさせられたんだ。その、あまり見ないで、くれ」

 顔を真っ赤にして短いスカートをおさえた少女にそう言われて、つい頭からつま先までじっくりと見てしまう。

(キツネ耳にメイド服が似合うなんて……!)


 ありがとう、世界。彼女の姿を堪能したあと、思わず目を細め青空を見上げてしまった。

会話回ですがいろいろと謎があるようです。

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