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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第21章 雑貨屋増設編
203/209

石畳の迷路、本の通路

【あらすじ】仲間の魔力を取り戻すため、一人で魔王モール2号店に向かうクタニ。出会った踊り子フェズとキツネ耳少女のマニセスと、展望所で敵に襲われ巨石を投げつけられるが……。

 わたし、強いんですよ。

 彼女の言葉を思い出していた。


 〈ブゥゥン!〉

 フェズの手に触れた巨石は、自身が石であることを忘れたように、砂のように細かくなって地面に落ちた。

 砂埃が舞う。


「ゴホッゴホッ。おい、いったい何が……」


「ちっ、砂漠の民か……! 相性が悪いな。ここは引かせてもらう!」

 黒い翼を大きく羽ばたかせ、空高く消えていった。


「おい、まて!」

 待たれたら困るけど。


「何言ってる、兄貴! ボクらも離れよう! フェズの姐さんも!」

「だね! 逃げよう!」

 逃げる時だけはしっかりしているマニセス。フェズもこういうのには慣れている様子だ。


 たしかに、いつの間にか、遠巻きに人垣ができていた。

 ――そりゃそうだ。


 異世界民は魔法に慣れているとはいえ、一瞬で巨石を砂にするなんて、滅多にないだろう。

 強力な魔法を放った本人、フェズを見ると、すでに灰色の布を体に巻き付け帽子をかぶり、逃げる準備万端だ。

 こちらをちらりと見る二人。


 人が集まって来る前に、細い裏道へ駆け込む。


 曲がりくねった道が続く。右へ、左へ、さらにまた右へ。下ったのに登ったり。


 いつもあるのはそり立つ石創りの建物。3階建てから5階建てくらいで、空が細く切り取られている。


 まさに、石の迷路だ。


 たまに隠れ家カフェや雑貨屋があったりして、心惹かれたが、ぐっとこらえてマニセスとフェズについていく。


 長いこと走り続けて、ようやくマニセスが止まったかと思うと鍵を懐から取り出して、妙に重厚な木の扉を開ける。


「二人とも、こっち」


 中には……山があった。

 そう、平積みされた本の山々。


 眠っている本を、ランプのような柔らかな光がぼんやりと照らす。


「ここは?」

「ヒュームンさんの店の書庫。ボク、出入りは許されているんだ」

 キツネ耳をせわしなく小刻みに動かすマニセスに促され、フェズと二人、おそるおそる中に入る。


 本の山を倒さないように細い通路に入り込む。石壁の迷宮から本の迷宮に変わっただけのような……。


 マニセスが扉を閉めると、外とはもう別世界のような静寂の空間が広がる。

 時を止めたような空間と、古い本のにおい。


 案内されたのは中のテーブルとソファのあるエリア。

「ここまで来れば、大丈夫だと思うよ。ゆっくりしてて」

「そうだね! ありがとう!」

 フェズは遠慮なくソファに座り込む。

「ヒュームンさん、起きてるかもしれないから見てくるね」


 ソファに座ったフェズに、立ったまま尋ねる。

「フェズ、キミ……砂漠の民なのか」


「そうだけど?」


 あっさりと肯定する彼女。古本の山を興味深そうに見て、視線を巡らせる。


(砂漠の民を、仲間にせよ、か)

 魔女ヒルデのアドバイスを思い出す。

 確かに強力な力を持ってそうだけど、交渉に連れて行っていいかと言われたら……微妙だ。


「砂漠の民は、全員、あんな魔法が使えるのか?」


「あれは私だけ。踊ったあとにしか使えないんだけど。……強いって、言ったでしょ?」

「言ってたけど、すごすぎだろ」


「石だったらだいたい砂にできるよ。石造りの大きな家だって、一瞬で砂にしちゃう!」

「それは強力だな。……で、砂漠の民なら、頼みがあるんだけど」


 そう切り出したとき、マニセスの大きな声が聞こえた。


「やめろー!」


 顔を向けるも、本の山に遮られて、声の主は見ることはできなかった。


 次の瞬間、周りの本の山が揺れ始めた。


〈カタ……カタ……カタタ……!〉


「なんだ……?」

 本の山が、同時に震えていた。

 まるで何かに呼応するように。


 フェズが顔をしかめる。

「……言っておくけど、これ、わたしじゃないよ」

「じゃあ誰のだ」

「誰かが、わざと“揺らしてる”。この書庫全体を」


(書庫、全体?)

 次に聞こえたのは、紙がめくれるような、でも誰も触っていないはずの音。


〈パラ……パララ……〉

 そう、まるで本が自分で動いているような。


 さらに本棚の奥で、何かが“目覚める”ような気配。


 そのとき、光を帯びた妙に巨大な本棚が、ゆっくりとこちら側へ傾いた。

 軋むような音を立てながら。


 こちらの周囲には、本の山。逃げ場は、ない。


 巨大な影が演出のようにゆっくりと迫る。


「伏せて!」

 フェズの叫びが、不気味な書庫を裂いた。

石畳の町のモデルは、スペインとかポルトガルです。グーグルストリートでよく歩いてます。

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