石造りの街を一望すると
【あらすじ】仲間の魔力を取り戻すため、魔王モール2号店に向かうクタニ。知り合った踊り子のフェズとキツネ耳の少女マニセスにセントラルライフシティを案内されることになったが……。
「馬鹿と煙は高いところが好きと言うが」
宿を出て案内されたのは、古本屋ではなく高台にある展望台の上だった。
フェネックのような大きなキツネ耳の少女マニセスは、こっちの言葉など全く聞いてない様子で目を閉じて手を広げている。
「この街にきたらここにきとかないとな……ああ、いい風だ」
昨日食い逃げをしたとは思えないくらい、ごく自然体だ。
食い逃げの代金はもう返させたが。
「いいチョイス!」
そう元気に言って、隣のフェズも同じように手を広げる。広げたあと、スーッと両腕が上がる。
そのまま踊りだしそうだったので、さえぎって言う。
「ヒュームンさんにはやく会いたいんだけど」
「あの人、基本的に昼まで寝てる」とマニセス。
朝食後すぐに出てきたので、まだ朝と呼ばれる時間帯だ。
「……早く言ってくれ。朝っぱらから坂を歩かせやがって」
手すりにもたれるように街を見下ろす。
石畳の街並みが一望できる。乾いた風が駆け巡る。
確かに、見晴しはいい。美しい街並みが続いており、異世界の住民の朝の風景が小さく見える。
「どうせ暇、でしょ?」とフェズが機嫌よくピョンと隣に跳ねてくる。
「失礼な。にしても、フェズはいつも元気いいな」
その言葉がうれしかったのか、笑みをこぼすと他に人がいないからと、踊りだす。
今度は止めることができなかった。
まるで小鳥が戯れるように小刻みなダンス。
朝の光というには高くなった日の光が、彼女の健康的な褐色の肌を照らす。
「自由だなぁ」
都会の人間はみんなこうなのか。
それとも、うちの雑貨屋メンバーが大人しいのか。
始まってしまった彼女の踊りをぼんやりと鑑賞する。
踊りについてはうまいも下手も全くわからない。
だけど、ずっと見てられるってことは、うまいんだろう。
「こっちは考えても考えきれないくらい問題抱えてるのに」
こちらの独り言を聞きつけて、キツネ耳をぴくぴくさせながらマニセスがいう。
「そういうときは馬鹿になるために、高いところに行くものだ、と先生が言ってた」
……馬鹿になるために高台に行くことがあの人にあるのだろうか。
「でもまてよ、高いところからなら砂漠の民ってのを見つけられるかも」
魔女からのアドバイスを思い出す。
――『小娘の事情を解明し、砂漠の民を味方にせよ』
ただ、見つけて事情を話したとしても、魔王モールの交渉に付き合ってもらえる保証はない。
「……砂漠の民を探してるのか?」
「ああ。肌が黒くて、アフロヘアーだと思うんだけど」
高台から街を見下ろしても、それらしい人は見えない。
「……ボクは砂漠の民を見たことあるけど、アフロヘアーだけじゃなかったよ」
「え、マジで?」
振り返ってキツネ耳の少女を見る。
「そりゃそうだろ。兄貴、しっかりしてくれよ」
「民族だって、キャラづくり、大事じゃん?」
「だんだん、兄貴がどういうキャラかつかめてきたよ」
「成長したな、弟子よ……」
遠い目をしてそれらしいことを言ってごまかす。
本格的になってしまったフェズの踊りを二人で見つめる。
フェズはもう自分の世界に入ってしまっていて、動きも激しくなっている。
踊りが終わろうとしたそのとき、――事件が起こった。
踊りはフラメンコみたいなイメージで読んでください……。




