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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第1章 異世界転生編
2/195

赤い黄金の月、雑貨屋開始、謎の客

【あらすじ】転生して、借金して、家を飛び出したらハニワが助けてくれた。だけどそのハニワも倒されて……。

***

 土器質の少女を抱え、家に戻る。

  彼女のヒビに良質な土を丁寧に埋め、金継ぎの要領で治療する。 作業に没頭するうち、いつの間にか机に突っ伏して寝てしまっていた。


「起きなさい!」

 机に伏せて座ったまま寝ていた俺は、少女の声に起こされる。

「え、なに!?」


 まだ日の出前。

 窓の外に広がる空は、ようやく東の方角に明るい色をまとい始めていた。

 声の主は、紅赤の髪の少女ルルドナだ。

「……早すぎない?」


 命の恩人に対して、いきなりツッコミから入ってしまう。


「ほら、こういうのって……、朝の美しい光とともに起こすものだろ?」


「そんなルールはないわ。むしろ、早起きは三文の徳よ」


 丸まった背中をバシバシとたたかれる。その手にはギプスのような土器。

「……その手足、大丈夫なのか?」

「ああ、これ? 今はまだ生成中なの。もう少し時間がたてば自然ととれる感じがするわ」


「キミは、俺の作ったハニワ……なのか?」

「そう、みたいね」


 仁王立ちしてる彼女の姿を改めて見る。

 オリエンタルな雰囲気の衣装に、赤い和風の上着。黒いスカート。

 肩まで下がった紅赤の髪は、不思議な質感でまとまっていた。

 まだ夢の中のようだ。

 昨夜のことを思い出そうとすると、頭がズキッと痛む。

 ……そうだ。クマゴブリン、ハニワ、光、赤金色の月。

 現実感がまるでない。

「……なに、じっと見てるの?」

「え?」


 紅玉のような丸い瞳と目が合う。

「姿が、珍しくて。焼き物っぽいというか」

「はぁ? 初対面で“焼き物”って言う?」

「ごめん、そういうつもりじゃ……」


 しょっぱなから、地雷踏んだ気がする。

 少女――ルルドナは、腕を組もうとして、まだ動かない体を見下ろした。

「あなた、創作魔法が使えるのね」

「え? いや、ストレスでこねただけだよ……昔から、ストレスを受けると粘土をこねる癖があって」

「転生してまでストレス抱えてるの?」

「……たぶん。ていうか癖が抜けなくて」


 ルルドナは呆れたようにため息をつき、それから少しだけ、口元をゆるめた。

「まあいいわ。生みの親だし」

「え?」

「あなたの涙が、私を創り出したの。――泣いてたでしょ?」

「……泣いてない」

「うそ。ぐしゃぐしゃだった」

「それは、湿気で……」

「湿気で泣き顔にはならないわよ」

 ルルドナがクスッと笑う。

 その笑顔は無邪気そのもの。自分に向けられている、笑顔。

 からかわれているのに、なぜか救われた気がした。

 同時に不安が押し寄せる。


「……俺、どうすればいいんだろうな」

「は?」

 

「借金まみれで、家もボロボロで、粘土こねてるだけの転生者だ」

「だから何?」


 ルルドナは、紅い髪を風になびかせながら言った。

「借金あるなら返せばいいし、ボロいなら直せばいい。――生きてる限り、どうとでもなるわ」

「……強い、な」

「当たり前でしょ。私、最強なの」


 そう言って、立ち上がろうとした瞬間――

 ガクン、とバランスを崩して前のめりに倒れた。

「わっ!」

 慌てて抱きとめる。


 彼女は顔を真っ赤にして、俺の胸を押し放しながら叫んだ。

「な、なによ! 今の禁止!」

「え? いや、危なかったから……!」

   

 数秒の沈黙。

 ルルドナはぷいっと顔をそらしたまま、小さくつぶやいた。

「……ありがと」

「え?」

「ありがと! 治療してくれたのも、いまさっきも!」

 朝の風が吹き抜ける。


***

 改めて、窓の側のソファに二人で腰掛けて会話をする。

 窓の外には朝靄の風景。まだ登り切れない朝日。町の方からは朝の湯気が立ち上る。


「にしても、よくわかったな。俺がピンチだって」

「私、あなたに創られた存在だからか……、あなたのピンチがわかるみたいなの」


 異世界の特殊能力か。あの強さも、異世界のチートスキルかな。


「そう……。ともかく、傷が治って良かった」

「あれだけぼろぼろだったのに、どうやったの?」

「ああ、ヒビに良質の土を塗ってみただけだよ。打撲には土湿布みたいにしてみた。……効いた?」

 彼女のヒビをみてみると、ほとんど見えないほどに消えていた。

「うん。特にこの湿布みたいなの、すごいわ。パワーがわき出してるみたい」

「増強効果もあるのかな?」


 彼女に貼り付けた土湿布を触りながら検証する。


「どこ触ってんのよ!」

「いや、湿布だけど!?」

「別のところも触ったでしょ!?」

「触ってない!」


「油断も隙もないわね」

 ソファの端に寄ってしまうルルドナ。


 ため息をついて、作業場へ行く。

 昨日の紐を通してつなぎ合わせ、数珠のブレスレットのようにする。


「ほら、これ」

 すねているルルドナのところへいき、創ったものを差し出す。

「え、何……?」

「あげる」

「私に?」

「いいから、ほら」

 半ば強引にブレスレットを彼女の右手につける。

「あ、ありがとう」


 彼女は宝物を扱うように、そっとブレスレットに触れた。そのブレスレットは朝日を受けて、ほのかに輝いている。

 ようやく表情が和らぐ。

 彼女に笑顔が戻ったとき、心にアイデアが浮かぶ。

(こういう笑顔を見るために生きていくのも、いいかもしれない)

 そう思って、何気なく口にする。

「雑貨屋、してみようかな」

「いいわね、それ。借金も返せるかもしれないわ」

 日の光がようやく窓の外から差し込んできた。

 その白い光に照らされた彼女の笑顔は、まるで祝福に舞い降りた天使のようだった。


 ***

「じゃあ、寝るわね」

「え、どういう流れ? これから一緒に町を巡ったり外を冒険したりする流れでは!?」


「私、夜行性なの。強制的に眠ってしまうみたい……」

「さっきまで寝てたのに……また?」


「生まれたてだから眠くなるのかも……。手足だって出来かけだし。とにかく昼間は強制的に寝るわ。よろしくね」


「それって後半に仲間になる強キャラの個性では……」

「そんなの知らないわ……おやすみ……」

 そう言うが早いか、ルルドナの体が土器のように固まり、まるで置物のように動かなくなった。朝日を浴びて、静かに眠る彼女の姿は、神殿に飾られた彫像のようだった。


 俺は再び、一人になった。

 だけど孤独ではない。彼女の寝顔をみて、信頼してくれる存在がいることに強い安心を覚える。


「よし、粘土細工を作る道具をふもとの町まで買いに行こう」

 ゆっくりと家のドアを開け……、光あふれる外の世界にへと踏み出した。


 ***

 麓の町の名前はスロウタウン。人と魔物が共存するそこそこの規模の町だ。

 恰幅の良いオーガ族の女性が話しかけてくる。

「あんた転生者かい?」

「はい」

「住むところは決まったのかい?」

「北の丘を上ったところにある空家をローンで買いました」

 ……さすがに金額は言えなかった。


「え、あの家をかい? たしかにずいぶん前から空き家みたいだったけど。魔女みたいな人が住んで怪しい道具や薬を売っていたねえ」

 

「そうなんですね。……って、魔女!? 大丈夫なんですか?」


「町の人との交流も最小限だったし……。よく覚えてないのよねぇ。ま、きっと大丈夫よ!」


「そう信じるしかないですね。実はそこで、粘土細工中心の雑貨屋を開こうかと。道具を買いに来たんですが、いい道具屋、知りませんか?」


「それならうちにきなよ! 工具が中心だけどね」

「ありがとうございます!」


「私はオーガ族のマリー、あんたは?」

「俺はクタニ。転生してきた……ヒト族です」


***

 案内された『マリー工具店』は歩いてすぐだった。

 予想以上に充実した品揃え。

 作業道具を眺めるのは好きだ。見ているだけで創作意欲がわく。

 

 木槌にナイフ、彫刻刀、ヘラ、針金など手に取っていく。いい品ばかりだ。

「職人のこだわりを感じるなぁ」

「クタニくん、道具を見ると目が変わったね。気に入ったよ」

 強力なウィンクが飛んでくる。……いきなり恰幅の良い主婦に気に入られてしまった。

 

 これは早く出ていかねば。

「えっと、これ! この道具全てください! これで足ります?」

  俺はお札を1枚を差し出す。

「1万ゲル……。ちょっと足りないけどまけておいてやるよ。その代わり、ひいきにしておくれよ!」

 またしてもウィンク。もしかして決めポーズなのだろうか。


「ははは。了解です!」

 笑顔で応じ、気に入られすぎまいと、足早に立ち去った。


***

 家に戻り、早速土をこねだす。ルルドナはソファで穏やかに眠っている。

 しばらく作業に没頭する。日が傾いた頃、小さな土人形が数体、出来上がる。

 

 うーんと背伸びをしたとき、家のドアが開いた。

「こんにちは。お店……、やっていますか?」


 そこにいたのは、フードを目深にかぶった子どもだった。


2025.4.18 大幅に書き直しました。


2025.8.8 一人称、俺に書き直しました。


2025.10.18 大幅に書き直しました! 

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